約 195,327 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/5251.html
乞食れいむのおうた 作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定。 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 ゆっくり特有のリズムを奏でながら、新聞紙の上でおうたを歌うれいむ。 彼女は、この街に住む乞食ゆっくりでした。 乞食ゆっくり。 もしかすると、皆さんは初めてお聞きになったかもしれません。 だって、この街でしか使われていない言葉ですから。 「おにいさん、こじきってなんなのぜ?」 それは、とある銀バッヂまりさの質問から始まりました。 飼い主の横でテレビを見ていたまりさが、お兄さんに、いきなりそんな質問をしたのです。 「ん?どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「きょう、おさんぽのとちゅうで、ちいさなにんげんさんたちがいってたのぜ。」 やれやれ、とお兄さんは思いました。 あまり良くない言葉を覚えて欲しくなかったのです。 けれども、これも社会勉強と、まりさにその言葉の意味を教えることにしました。 「んー、なんて言えばいいのかな……。」 お兄さんは、知識の少ないゆっくりに、何とか説明を試みます。 「乞食って言うのはね、街中で物乞いをする人のことだよ。」 「ものごいってなんなのぜ?」 「道ばたで、人にお金をもらったりすること。」 「なんでなのぜ?にんげんさんは、かいしゃからおきゅうりょうをもらうのぜ?」 「そういう人は、仕事が無かったり、自分の家が無かったりするからね。」 まりさは、お兄さんの説明にしばらく体を捻っていましたが、 ふと全ての謎が解けたかのように、ぴんと背筋を伸ばして言いました。 「ゆん!ゆっくりりかいしたのぜ!こじきはのらのにんげんさんなのぜ!」 このまりさ、お兄さんの説明を少し勘違いしてしまったようです。 けれども、お兄さんも面倒くさかったので、あえて訂正はしませんでした。 翌日、銀まりさは、お友達のゆっくりに、この話を伝えました。 みんな、近くの家で飼われている高級なゆっくりばかりです。 「むきゅ。ぱちゅも、えきまえでみたことあるのだわ。」 「のらのにんげんさんだねー。わかるよー。」 「それじゃあ、のらのゆっくりも、こじきなのかしら?」 「きっとそうだみょん!」 野良の人間が乞食なら、野良のゆっくりも乞食だろう。 彼らは、そう結論付けました。 そして、街中で野良を見かける度に、彼らを乞食と呼ぶようになったのです。 「あんなところにこじきがいるのぜ!きたないのぜ!」 「こじきはとかいはじゃないわ!ありすのそばにこないでね!」 この2匹、別にゲスではありません。 ペットショップで、店員さんから、野良は汚くてゆっくりできないと教えられ、 それを忠実に守っているだけなのです。 けれども、この呼び名を広めたのは、当の飼いゆっくりたちではありませんでした。 それを横で聞いていた、地元の小学生です。 小学生というものは、相手を馬鹿にする言葉が大好きなのです。 あっと言う間に、地元の小学校でこの呼び名が広まりました。 そして、今度は、小学生の言葉遣いが、他の飼いゆっくりに影響を与えます。 「おーい、こっちに乞食がいるぜ!」 「ゆゆ!こじきがいるよ!」 「おおこじきこじき。」 こうして、分別のある大人を除き、みんなが野良ゆっくりを乞食と呼ぶようになりました。 野良ゆっくりたちは、それが悪口だと分かると、とても怒りました。 「れいむはこじきじゃないよ!れいむはれいむだよ!」 「まりさはりっぱなのらゆっくりだよ!こじきじゃないよ!」 ですが、毎日のように乞食乞食と言われ続けると、 なんだか本当に乞食のような気がしてしまうものです。 1年も経った頃には、野良ゆっくりも、自分たちのことを乞食と呼ぶようになりました。 ですから、この街では、野良ゆっくりはみんな、乞食ゆっくりと呼ばれているのです。 ところで、名は体を表す、という諺があります。 乞食ゆっくりたちは、だんだん本物の乞食と一緒の生活をするようになりました。 街中で、物乞いをするようになったのです。 もちろん、ただ座っているだけでは、何も貰えません。 だから、乞食ゆっくりたちは、芸を披露することにしました。 あるものはダンスを踊り、あるものはおうたを歌います。 こうして、乞食ゆっくりたちは、街中の風景にすっかり溶け込んでしまいました。 「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪」 このれいむも、昔は街の近くにある小さな森で暮らしていましたが、 土地開発で巣を追われ、こうして乞食になったのです。 都会での生活に慣れていないれいむには、苦労苦労の連続でしたが、 仲間の手助けにより、ここまでやってこれました。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆゆ~♪」 「こじきのれいみゅにおきゃねをめぐんでくだちゃい!」 おうたを歌うれいむの横で、通行人に笑顔を振りまいているのは、 森を追われるときに助けた妹れいむです。 両親と他の姉妹は、おうちを潰そうとする巨大なすぃーに立ち向かい、 そして、ぺっちゃんこにされてしまいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 「おねがいしましゅ!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!」 森にいた頃は、うたひめと呼ばれ、みんながれいむのおうたを褒めてくれました。 でも、この街では、誰もれいむのおうたなど聴いてくれません。 みんな、顔色ひとつ変えずに、れいむたちの前を通り過ぎて行くだけです。 だけど、おうたを歌う以外に何もできないれいむは、おうたを歌い続けるしかありません。 「ゆゆ~ん♪ゆ~ゆゆ~♪」 おうたを歌っているとき、れいむはいつも、森での暮らしを思い浮かべます。 とっても優しいお父さんとお母さん、可愛らしい妹たち、 そして、みんなと遊んだゆっくりプレイス。 れいむは、ゆっくりとした記憶に浸りながら、今日もおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、部長の指示が悪いんだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、2匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 男は、ほんの一瞬、れいむの顔に目をやりました。 森の暮らしを思い出して歌うれいむの表情は、幸せそのものです。 男は、そのまま通り過ぎようとしましたが、何を思ったのか、 ポケットに手を入れると、きらきら光るものを、空き缶に投げ入れました。 チャリーン 金属のぶつかる音がします。 「ありがとうございます。」 れいむは、おうたを中断し、もみあげで三つ指をついて、頭を下げました。 「ありがちょうごじゃいましゅ!」 妹れいむは、ぴょんぴょん跳ねて、サラリーマンにお礼のダンスを披露します。 サラリーマンは、そんな2匹を無視すると、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなったところで、ようやく顔を上げます。 「きょうはおかねもらえたね。くらいからもうおうちにかえろうね。」 「ゆっくち~♪」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、お金ではありませんでした。 ただのビール瓶の蓋でした。 男は、嫌がらせをするために、わざとそれを入れたのです。 「ごめんね……。これおかねじゃないよ……。ごめんね……。」 「ゆぅ……。」 れいむは、白玉の目からすっと涙を流し、妹に何度も何度も謝ります。 やっと貰えたと思ったお金。 これなら、何も貰えない方が、どれほど良かったことでしょう。 「おにぇしゃんなかにゃいでにぇ。れいみゅゆっきゅりがまんしゅりゅよ。」 心配した妹が、れいむの頬にすーりすーりして来ます。 「おにぇしゃんしゅーりしゅーり。なきゃないでにぇ。」 そんな健気な妹を見ると、れいむも泣いてはいられません。 笑顔を取戻し、元気よく妹にすーりすーりし返してあげます。 「さあゆっくりおうちにかえろうね!」 「ゆっくち~♪」 れいむたちは、もみあげともみあげをしっかりと繋ぎ合わせ、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 「ゆゆん!このあんぱんさんはさんえんだよ!とってもやすいよ!」 「ちぇんかうよー!きょうはごえんだまもらったよー!」 「まりさもあまあまさんいっぱいあつめたよ!ゆっくりかいものしていってね!」 「ちーんぽ!」 ここは乞食谷。 乞食ゆっくりたちが集う、街の下宿所です。 もちろん、町中に谷などありません。 誰も住んでいないビルに囲まれた空き地が、谷底に似ているので、そう呼ばれているだけです。 乞食たちは、この谷の真ん中にあるドラム缶の前で、毎晩市場を開きます。 食べ物や段ボールなど、生活に必要なものを集めたゆっくりが、 人間からお金をもらったゆっくりに、それを売っているのです。 今日も市場は大盛況。 ゆっくりたちの賑やかな声が、あちこちから聞こえてきます。 「ゆぅ……。あんぱんしゃん……。」 そんな市場を遠くから眺めているのは、さきほどのれいむ姉妹です。 お金も物ももらえなかった2匹は、何にも交換するものがありません。 ただただ、他のゆっくりたちの買い物を見ている以外、することがないのです。 「れいみゅもあんぱんしゃんたべちゃいよ……。」 妹れいむが、物欲しそうに涎を垂らしながら、ちぇんの買った餡パンを見つめています。 「ごめんね。あしたはおかねをもらってあんぱんさんたべようね。」 「ゆぅ……。」 そんな会話をしていると、ふと市場の方から、1匹のゆっくりが跳ねて来ます。 それは、よく見知った帽子の子、ゆっくりまりさでした。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは、笑顔でれいむに挨拶します。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 れいむとその妹も、先程までの空腹を忘れて、元気よく挨拶を返します。 れいむは、このまりさと大の仲良しでした。 この乞食谷に案内してくれたのも、街中でたまたま出会ったこのまりさだったのです。 まりさは、人間にもそうと分かるくらいの美ゆっくりでしたが、野良は野良。 お帽子にはあちこちに穴が空き、お肌も都会の空気ですっかり汚れてしまっています。 そんなまりさは、とびっきりの笑顔で、れいむに話しかけます。 「きょうもいっぱいおかねもらえたよ!」 嘘ではありません。 このまりさは、1日になんと15円も稼ぐのです。 普通は5円も集まれば御の字なのですから、どれほど凄いかが分かります。 それもそのはず、このまりさは、芸の名人でした。 ぴょんと30センチも飛び跳ねてトンボ返りをしたり、 口に棒をくわえて、コーンの間に張った綱を渡ったりできるのです。 だから、人間さんたちの間でも、まりさはとっても有名でした。 「れいむはおかいものしないの?」 まりさは、れいむにそっと尋ねました。 れいむは何も答えませんでしたが、まりさには分かっています。 だって、れいむがお買い物をすることなど、滅多にないのですから。 れいむは、それくらい物乞いが下手なのです。 けれども、嫌みで尋ねたわけではありません。 まりさは、いつもこうやって、れいむにプレゼントする機会を作っているのです。 「れいむにこれあげるよ!」 まりさは、帽子の中から、野菜屑を取り出して、れいむに差し出します。 それは、八百屋さんの前で芸を披露したときに、店のおじさんから貰ったものでした。 このおじさん、普段はじゃがいもの皮しかくれないのですが、 その日はまりさの宙返りがあまりにも見事だったので、キャベツの葉っぱをくれました。 「ゆゆん!まりさありがとう!」 れいむは、うれし涙を流しながら、キャベツの葉っぱを受け取ります。 それを見た妹のれいむは、今にも端っこに噛み付いてしまいそうでしたが、 お姉さんのお腹がぐーぐー鳴っていることを、ちゃんと知っています。 だから、溢れそうになる唾を飲み込み、お行儀よく我慢することができました。 「こまったときはおたがいさまだよ!」 困ったときはお互い様。 まりさは、いつもそう言ってくれます。 だけど実際には、れいむが貰う一方で、お返ししたことなど一度もありません。 本当はお返ししたいと思っていても、あげるものが何もないのです。 れいむがまりさにしてあげられることは、ひとつだけ。 そして、まりさも、そのたったひとつのことを、いつもお願いして来ます。 「ねえ!まりさにおうたをきかせてよ!」 「いいよ!ゆっくりきいていってね!」 れいむは、まりさの前で、ゆっくりとおうたを歌い始めます。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~♪」 まりさは、本当にゆっくりとした表情で、れいむのおうたを静かに聴きます。 「れいむのおうたはほんとにゆっくりしてるね!」 「ゆゆ!ありがとう!」 まりさは、お世辞を言ったのではありません。 れいむのおうたは、ゆっくりにとって、本当にゆっくりしたおうたなのです。 だけど、そのおうたを聴いてくれるのは、街中でも、このまりさしかいません。 その理由は簡単でした。 みんな生きることに必死で、おうたなど聴いている場合ではないのです。 だから、このまりさがおうたに耳を澄ますのは、彼女が恵まれていることの証なのです。 「おとうしゃんだけじゅるいよ!まりちゃもなきゃまにいれちぇにぇ!」 れいむとまりさの間に割って入ったのは、小さな体をのーびのーびさせた子まりさでした。 まりさをお父さんと呼んでいますが、2匹の間に餡子は繋がっていません。 子まりさの母親が車に轢かれ、側で泣いていたところを、まりさが拾ってあげたのです。 最初は母親が死んだショックで、まりさにはあまり懐いてくれませんでしたが、 いつからか、子まりさは、まりさをお父さんと呼ぶようになっていました。 「まりちゃだけにゃかまはじゅれにゃんてぴゅんぴゅんだよ!」 「ごめんね。でも、おちびちゃんがすーやすーやしてたから、おこさなかったんだよ。」 子まりさも、本気で怒っているわけではありません。 その証拠に、子まりさは、まりさの頬に擦り寄ると、すぐに笑顔に戻ります。 「れいみゅおねーしゃん。まりちゃにもおうちゃをきかちぇてにぇ。」 「ゆふふ。いいよ。もういっかいうたおうね。」 れいむは、そんなまりさたちのやりとりに、思わず顔が綻んでしまいます。 「れいみゅもおうちゃうちゃえるよ。」 子れいむが、もみあげさんをぴこぴこさせながら、可愛い声をあげました。 彼女も、お姉さんにおうたを教えてもらっているのです。 「それじゃあ、ふたりでうたおうね!」 「「ゆゆゆ~♪」」 その夜、乞食谷に、姉妹の楽しそうな歌声が、いつまでも響き渡りました。 次の日のこと。 物乞いから帰ったれいむのおうちへ、例のまりさが息を弾ませてやって来ます。 いったい何だろうと思っていると、まりさは次のように言いました。 「まりさ、てれびにでるよ!おかねもいっぱいもらえるよ!」 これでは、いったい何のことだか分かりません。 れいむはまりさを落ち着かせ、詳しく話してくれるように頼みました。 まりさの話はこうでした。 今日、いつもの繁華街で曲芸をしていると、いきなり男の人が話しかけてきたのです。 そして、男の人は、こう言いました。 テレビに出てみないかい、と。 彼は、某テレビ局のディレクターさんでした。 ディレクターさんの話によると、来月、街中の変わったゆっくりを紹介する番組があり、 ぜひまりさにも出演して欲しいと言うのでした。 「出演料として、500円出すよ。」 500円! まりさはびっくりしました。 だって、まりさの一ヶ月分の稼ぎが、1日で手に入るのですから。 まりさは、喜んでテレビ出演を快諾しました。 ディレクターさんは、日曜日にまた来ると言って、その場を去りました。 「もし500えんもらったら、れいむにすてきなぷれぜんとをするよ!」 500円もあれば、大きな板チョコが何枚も買えます。 まりさは口にしませんでしたが、その板チョコをれいむにプレゼントし、 そして愛の告白をするつもりだったのです。 「まりさすごいね!れいむゆっくりおうえんするよ!」 「うん!まりさもゆっくりがんばるよ!」 その日、まりさは、前祝いとして、とっておきの5円チョコを4匹で分け合いました。 上手く割れなかったので、れいむは子れいむに、まりさは子まりさに、 それぞれ大きな欠片を渡します。 「「「「む~しゃむ~しゃ♪しあわせ~♪」」」」 その夜、乞食谷に、4匹の幸せな声が、いつまでも響き渡りました。 日曜日、ついにまりさのテレビ出演の日がやって来ました。 もちろん、今日は単なる収録日で、放送は後日なのですが、 ゆっくりであるまりさたちには、そんなことは分かりません。 それに、どうせテレビを見ることなどできないのですから、 テレビに出られるかどうかなんて、本当はどうでもよかったのかもしれません。 「おにいさん!きょうはまりさのすごいわざいっぱいみせてあげるね!」 まりさが、少しばかり声を震わせて言いました。 さすがに緊張しているのでしょう。 早速、得意のバク転を決めようと身構えたところで、ディレクターさんが止めに入ります。 「あ、悪いけど、君がやることは、こっちで決めてあるんだ。」 ディレクターさんは、そう言うと、奇麗な青空を指差しました。 まりさもれいむも、そして同伴した子ゆっくりたちも、不思議そうに空を見上げます。 「あそこに綱が見えるだろう。あれを渡ってくれ。」 最初は気付きませんでしたが、ビルとビルの間に、一本の太いロープが張られていました。 それは、建物の5階から伸びていて、長さも10mはあるでしょうか。 まりさは、言葉が出せません。 だって、こんなことをやるとは、聞いていなかったのですから。 「ゆゆ。これはたかすぎるよ。それにひもさんもながすぎるよ。」 「なに、やらないの?やらないなら、他のゆっくりに頼むけど?」 ディレクターさんは、まりさを睨みつけました。 「でも……あぶないよ……。」 「危ないからこそ、視聴者も喜ぶんだろう。普通の芸で500円貰おうなんて甘いね。」 まりさは迷います。 いくらゆっくりでも、この高さから落ちれば死ぬことくらいは理解できました。 以前、お友達のまりさが、誤って歩道橋から落ちてしまい、 地面でぺちゃんこになったのを、まりさは見たことがあるからです。 まりさは、困ったように視線を落とした後、今度はれいむの方を見ました。 まりさの目には、不安と同時に、何かを諦めきれない気持ちが、入り交じっていました。 れいむは、何も言うことができません。 これは、まりさの舞台なのです。 決めるのは、まりさであって、れいむではないのです。 しばらく悩んだ末、意を決したように顔を上げると、まりさはこう言いました。 「ゆん!まりさやるよ!」 「だめだよまりさ!こんなのゆっくりできないよ!」 大声を上げたのは、れいむでした。 そんな危険なことをして欲しくない。 ただその一心から出た声でした。 「あーん?なんだこのれいむは?」 ディレクターさんが、れいむの方へ近付いてきます。 すると、まりさが、慌ててディレクターさんの前に立ちはだかりました。 「れいむはまりさのおともだちだよ!いじめないでね!いじめたらまりさやめるよ!」 ディレクターさんは、少し不機嫌そうでしたが、黙ってスタッフに合図を送ります。 カメラが用意され、撮影が始まりました。 まりさは、若い男のスタッフに持ち上げられ、ビルの中に消えて行きます。 「ゆ~ん♪おそらをとんでるみたい♪」 そんな暢気な声が、半開きの自働ドアから聞こえてきました。 まりさが棒をくわえ、ロープの前に立ったとき、彼女はびっくりしてしまいました。 下から見上げたときよりも、ずっとずっと高く感じられたからです。 さすがのまりさも、あんよが震えてしまいます。 「よーし!じゃあ始めてくれ!」 遠くから、ディレクターさんの掛け声が聞こえました。 「おとうしゃん!がんばっちぇにぇ!」 「まりしゃおじしゃんがんびゃりぇー!」 地上で無邪気にまりさを応援しているのは、子まりさと子れいむの2匹です。 彼らは体をのーびのーびさせながら、一生懸命に声を張り上げます。 その横にいるれいむは、もみあげを合わせ、不安そうにまりさを見つめているだけ。 まりさのことが心配で心配で、舌が動かないのです。 そんなれいむの顔を見ていると、何としてでも渡り切ってやろうという気持ちが、 まりさの餡子の中に、むらむらと湧いてきました。 「これがめいじんまりさのつなわたりだよ!みんなみててね!」 まりさは、棒を上下の歯でしっかりと挟み、ぐっと表情を引き締めると、 まるっこいあんよを、ロープの端に乗せました。 めまいがしそうな高さです。下を見てはいけません。 「……。」 ゆっくりと、本当にゆっくりと、まりさはロープを渡って行きます。 人間さんたちは、最初から応援も何もしていませんでしたが、 今や子ゆっくりたちも、黙ってまりさの勇姿を見守るしかありません。 芸の最中に声を上げると気が散ることは、彼らも知っていたからです。 どれほどの時間が過ぎたでしょうか。 1時間とも2時間とも感じられるような緊張の連続が過ぎ去り、 気付けば、まりさはロープの半分を渡り切っていました。 さすがの人間さんたちも、これには驚きを隠せません。 あと半分。 この調子であと半分を渡り切れば、500円玉が手に入る。 そして、れいむに愛の告白をすることができる。 まりさの餡子を支配していた恐怖が、だんだんと希望に取って代わられます。 と、そのときでした。 ビューーーッ 「!」 強烈なビル風が、道ばたにいる人々を襲います。 まりさは、歯を食いしばり、ロープの上でバランスを取ろうと必死に踏ん張りました。 普通のゆっくりならば、すぐに吹き飛ばしてしまったであろうこの強風も、 まりさの素晴らしいバランス感覚の前では、柳に風です。 そう、まりさの前では。 「おぼっ!?」 まりさは、全身を器用にくねらせ、ロープの上で絶妙なバランスを取っていました。 しかし、まりさが動かせるのは、まるっこい饅頭の体だけなのです。 だから、辛抱を切らした風は、まりさではなく、 まりさの大事なお帽子を攫って行くことに決めました。 まりさは、外れかけたお帽子を放すまいと身を捩りますが、全く意味がありません。 お帽子は飾りであり、体の一部ではないのです。 ついに、風が、お帽子のツバに、見えない指を掛けました。 「まりさ!だめだよ!」 れいむの声は、遅過ぎました。 まりさは、お帽子に対する愛着から、うっかり後を追おうとしてしまったのです。 当然、バランスを失い、そのまま地面へ真っ逆さま。 ぐちゃ、という音と一緒に、永遠にゆっくりしてしまいました。 一瞬の出来事だったので、れいむたちには、何が起きたのか分かりません。 「よーし、いい絵が取れたぞ。」 「ディレクター、テロップはどうしますか?」 「薬中まりさ、白昼の錯乱綱渡り。バカとゆっくりは高いところがお好き。」 「お、いいですねえ。高視聴率間違いなしですよ。」 ディレクターさんは、嘘を吐いたのではありません。 ゆっくりの番組が放送されるというのは、本当です。 成功すれば500円玉をあげるつもりだったのも、本当です。 ただ、ディレクターさんは、ひとつだけ言わなかったことがあるのです。 番組のタイトルが、『爆笑☆街中のおかしなゆっくりたち』だということを。 「じゃ、それっぽく見えるように、適当に編集しといてね。」 ディレクターさんがその場を去ると、他の人間さんたちも、道具の片付けを始めました。 がちゃがちゃという音に、れいむは、ようやく意識を取戻します。 そうだ、ここには人間さんたちがいる。 人間さんは、どんな病気でも治すことができる。 れいむは、昔、死んだ長のぱちゅりーに、そう教えられたのを思い出しました。 「にんげんさん!おねがいだよ!まりさをたすけてあげてね!おねがいだよ!」 しかし、人間さんたちは、誰も助けてはくれません。 れいむは、側にいた女の人のところへぴょんぴょん跳ねると、また大声で言いました。 「おねえさん!まりさはまだいきてるんだよ!だからゆっくりたすけてあげてね!」 女の人は、五月蝿そうにれいむを避けると、道具を持ってどこかへ行ってしまいました。 れいむは向きを変え、少し離れたところにいる男の人に、跳ねながら話しかけます。 「おにいさん!まりさをびょういんにつれていってあげてね!おねがいだよ!」 れいむがさらに近付こうとすると、男の人の踵が、れいむの顔に当たりました。 体の中からメキッという音が聞こえ、れいむは後ろに転がってしまいます。 起き上がってみると、口の中が何やら変な感じです。 そうです。前歯が折れてしまったのです。 男の人も、それに気付きました。 「あーあ、足下でうろちょろするから。どっか行けよ。」 「まりひゃをびょういんにひゅれてってあげてね!おねがいだよ!」 れいむは、歯の折れた痛みなど忘れて、もう一度男の人に頼みます。 「あのさ、生きてるわけないっしょ。少しは現実見ろよ。」 「まりひゃはいきてるよ!だからたひゅけてあげてね!おねがいだよ!」 男の人は、やれやれと首を横に振り、その場を離れて行きました。 誰も助けてくれないことが分かったので、れいむは涙を流しながら、 まりさのところへ駆け寄ります。 「おとうしゃん!おめめあけちぇえええ!」 「まりしゃおじしゃんげんきになっちぇね……。ぺーろぺーろ……。」 まりさの側で、子れいむと子まりさが、しくしくと泣いています。 「まりひゃ!れいむといっひょにおいひゃひゃんにいこうね!」 れいむはそのとき、初めてまりさの顔を見てしまいました。 白玉の目玉が飛び出し、そこから餡子がたくさん漏れています。 それに口の形もいびつで、だらしなく舌が垂れていました。 街中でも指折りの美ゆっくりだったまりさの面影は、もはやどこにもありません。 「まりひゃ!きっとよくなるよ!だからおいひゃひゃんへいこうね!」 まりさは、返事をしてくれません。 それから何度かまりさの名前を呼んだ後、れいむは、 ようやくまりさが死んだのだと分かりました。 「まりびゃあああ!!!まりびゃああああああ!!!」 れいむも、わんわんと泣きました。 こんなことなら、まりさを止めれば良かった。 そう思っても、全ては後の祭りです。 そして、れいむにはもうひとつ、とっても後悔したことがありました。 彼女は聞いてしまったのです。 まりさが最後に叫んだ言葉を。 れいむあいしてるよ、と。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆひゅ~♪」 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 そうです。あの乞食れいむです。 れいむはあれからも、同じ場所で、同じおうたを歌い続けています。 「こじきのまりしゃにおきゃねをめぐんでくだちゃい!おにぇがいしましゅ!」 「こじきのれいみゅはおうたがとってもじょうずなんでしゅ!きいてくだちゃい!」 だけど、歯が折れてしまったれいむは、もう今までのようにおうたが歌えません。 以前は顔色ひとつ変えずに避けていた人たちも、今や我慢ができないといった様子で、 れいむたちを睨みつけ、罵声を浴びせます。 「くっせぇ饅頭がこんなところで歌ってんじゃねーぞ!」 「きもー。あのれいむ歯がないじゃん。」 「ゆひゅ~♪ゆひひゅ~♪」 溢れそうになる涙を堪えながら、れいむはおうたを歌います。 もう、おうたを歌っても、昔の楽しかった思い出は、餡子の中に浮かんできません。 だかられいむは、何も考えず、生きるためにおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、ありゃ新入りのヘマだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅになにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、3匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 そのまま通り過ぎようとしたとき、男は、ふと足を止めました。 この光景、どこかで見たことがある。そうだ、あのれいむだ。 ずっと前に、ビール瓶の蓋で、このれいむをからかったことを、男は覚えていました。 男は、しばらくの間、じっとれいむの顔を見つめていました。 れいむの方は目を瞑り、真剣におうたを歌っています。 前歯の隙間から空気が漏れ、ひゅーひゅーと間の抜けた音が聞こえても、 れいむは真剣におうたを歌っているのです。 チャリーン 缶の底で、金属のぶつかる音がします。 「ありがとうごびゃいまひゅ。」 「「ありがとうございましゅ!」」 れいむと2匹の子ゆっくりは、もみあげとおさげで三つ指をつき、深々と頭を下げます。 サラリーマンは、お礼を言う3匹を無視して、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなると、ようやく体を持ち上げます。 「ひょうはおかねもらえひゃね。くらいからもうおうひにひゃえろうね。」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、1円玉でした。 「ゆわ~♪いひえんだまひゃんだよ♪」 れいむの顔がぱっと明るくなります。 「いちえんだましゃんゆっくりしていっちぇね!」 妹れいむも目を輝かせ、1円玉さんにすーりすーりしようと体を伸ばします。 「おじしゃんありがちょね!」 子まりさは、もう姿の見えない男の方角に向かい、何度も何度もお礼を言いました。 「ゆっくりおうひにかえってくひゃひゃんをむーひゃむーひゃひようね!」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、右のもみあげで子れいむを、左のもみあげで子まりさを抱き寄せると、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 そんなれいむの唇には、生まれて初めて恵んでもらった1円玉が、 何か大事なものと交換されたかのように、赤く赤く、輝いているのでした。 終わり これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1573.html
乞食れいむのおうた 作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定。 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 ゆっくり特有のリズムを奏でながら、新聞紙の上でおうたを歌うれいむ。 彼女は、この街に住む乞食ゆっくりでした。 乞食ゆっくり。 もしかすると、皆さんは初めてお聞きになったかもしれません。 だって、この街でしか使われていない言葉ですから。 「おにいさん、こじきってなんなのぜ?」 それは、とある銀バッヂまりさの質問から始まりました。 飼い主の横でテレビを見ていたまりさが、お兄さんに、いきなりそんな質問をしたのです。 「ん?どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「きょう、おさんぽのとちゅうで、ちいさなにんげんさんたちがいってたのぜ。」 やれやれ、とお兄さんは思いました。 あまり良くない言葉を覚えて欲しくなかったのです。 けれども、これも社会勉強と、まりさにその言葉の意味を教えることにしました。 「んー、なんて言えばいいのかな……。」 お兄さんは、知識の少ないゆっくりに、何とか説明を試みます。 「乞食って言うのはね、街中で物乞いをする人のことだよ。」 「ものごいってなんなのぜ?」 「道ばたで、人にお金をもらったりすること。」 「なんでなのぜ?にんげんさんは、かいしゃからおきゅうりょうをもらうのぜ?」 「そういう人は、仕事が無かったり、自分の家が無かったりするからね。」 まりさは、お兄さんの説明にしばらく体を捻っていましたが、 ふと全ての謎が解けたかのように、ぴんと背筋を伸ばして言いました。 「ゆん!ゆっくりりかいしたのぜ!こじきはのらのにんげんさんなのぜ!」 このまりさ、お兄さんの説明を少し勘違いしてしまったようです。 けれども、お兄さんも面倒くさかったので、あえて訂正はしませんでした。 翌日、銀まりさは、お友達のゆっくりに、この話を伝えました。 みんな、近くの家で飼われている高級なゆっくりばかりです。 「むきゅ。ぱちゅも、えきまえでみたことあるのだわ。」 「のらのにんげんさんだねー。わかるよー。」 「それじゃあ、のらのゆっくりも、こじきなのかしら?」 「きっとそうだみょん!」 野良の人間が乞食なら、野良のゆっくりも乞食だろう。 彼らは、そう結論付けました。 そして、街中で野良を見かける度に、彼らを乞食と呼ぶようになったのです。 「あんなところにこじきがいるのぜ!きたないのぜ!」 「こじきはとかいはじゃないわ!ありすのそばにこないでね!」 この2匹、別にゲスではありません。 ペットショップで、店員さんから、野良は汚くてゆっくりできないと教えられ、 それを忠実に守っているだけなのです。 けれども、この呼び名を広めたのは、当の飼いゆっくりたちではありませんでした。 それを横で聞いていた、地元の小学生です。 小学生というものは、相手を馬鹿にする言葉が大好きなのです。 あっと言う間に、地元の小学校でこの呼び名が広まりました。 そして、今度は、小学生の言葉遣いが、他の飼いゆっくりに影響を与えます。 「おーい、こっちに乞食がいるぜ!」 「ゆゆ!こじきがいるよ!」 「おおこじきこじき。」 こうして、分別のある大人を除き、みんなが野良ゆっくりを乞食と呼ぶようになりました。 野良ゆっくりたちは、それが悪口だと分かると、とても怒りました。 「れいむはこじきじゃないよ!れいむはれいむだよ!」 「まりさはりっぱなのらゆっくりだよ!こじきじゃないよ!」 ですが、毎日のように乞食乞食と言われ続けると、 なんだか本当に乞食のような気がしてしまうものです。 1年も経った頃には、野良ゆっくりも、自分たちのことを乞食と呼ぶようになりました。 ですから、この街では、野良ゆっくりはみんな、乞食ゆっくりと呼ばれているのです。 ところで、名は体を表す、という諺があります。 乞食ゆっくりたちは、だんだん本物の乞食と一緒の生活をするようになりました。 街中で、物乞いをするようになったのです。 もちろん、ただ座っているだけでは、何も貰えません。 だから、乞食ゆっくりたちは、芸を披露することにしました。 あるものはダンスを踊り、あるものはおうたを歌います。 こうして、乞食ゆっくりたちは、街中の風景にすっかり溶け込んでしまいました。 「ゆゆ~♪ゆ~ゆ~♪ゆ~♪」 このれいむも、昔は街の近くにある小さな森で暮らしていましたが、 土地開発で巣を追われ、こうして乞食になったのです。 都会での生活に慣れていないれいむには、苦労苦労の連続でしたが、 仲間の手助けにより、ここまでやってこれました。 「ゆ~♪ゆ~♪ゆゆ~♪」 「こじきのれいみゅにおきゃねをめぐんでくだちゃい!」 おうたを歌うれいむの横で、通行人に笑顔を振りまいているのは、 森を追われるときに助けた妹れいむです。 両親と他の姉妹は、おうちを潰そうとする巨大なすぃーに立ち向かい、 そして、ぺっちゃんこにされてしまいました。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~♪」 「おねがいしましゅ!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!」 森にいた頃は、うたひめと呼ばれ、みんながれいむのおうたを褒めてくれました。 でも、この街では、誰もれいむのおうたなど聴いてくれません。 みんな、顔色ひとつ変えずに、れいむたちの前を通り過ぎて行くだけです。 だけど、おうたを歌う以外に何もできないれいむは、おうたを歌い続けるしかありません。 「ゆゆ~ん♪ゆ~ゆゆ~♪」 おうたを歌っているとき、れいむはいつも、森での暮らしを思い浮かべます。 とっても優しいお父さんとお母さん、可愛らしい妹たち、 そして、みんなと遊んだゆっくりプレイス。 れいむは、ゆっくりとした記憶に浸りながら、今日もおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、部長の指示が悪いんだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅににゃにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、2匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 男は、ほんの一瞬、れいむの顔に目をやりました。 森の暮らしを思い出して歌うれいむの表情は、幸せそのものです。 男は、そのまま通り過ぎようとしましたが、何を思ったのか、 ポケットに手を入れると、きらきら光るものを、空き缶に投げ入れました。 チャリーン 金属のぶつかる音がします。 「ありがとうございます。」 れいむは、おうたを中断し、もみあげで三つ指をついて、頭を下げました。 「ありがちょうごじゃいましゅ!」 妹れいむは、ぴょんぴょん跳ねて、サラリーマンにお礼のダンスを披露します。 サラリーマンは、そんな2匹を無視すると、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなったところで、ようやく顔を上げます。 「きょうはおかねもらえたね。くらいからもうおうちにかえろうね。」 「ゆっくち~♪」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、お金ではありませんでした。 ただのビール瓶の蓋でした。 男は、嫌がらせをするために、わざとそれを入れたのです。 「ごめんね……。これおかねじゃないよ……。ごめんね……。」 「ゆぅ……。」 れいむは、白玉の目からすっと涙を流し、妹に何度も何度も謝ります。 やっと貰えたと思ったお金。 これなら、何も貰えない方が、どれほど良かったことでしょう。 「おにぇしゃんなかにゃいでにぇ。れいみゅゆっきゅりがまんしゅりゅよ。」 心配した妹が、れいむの頬にすーりすーりして来ます。 「おにぇしゃんしゅーりしゅーり。なきゃないでにぇ。」 そんな健気な妹を見ると、れいむも泣いてはいられません。 笑顔を取戻し、元気よく妹にすーりすーりし返してあげます。 「さあゆっくりおうちにかえろうね!」 「ゆっくち~♪」 れいむたちは、もみあげともみあげをしっかりと繋ぎ合わせ、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 「ゆゆん!このあんぱんさんはさんえんだよ!とってもやすいよ!」 「ちぇんかうよー!きょうはごえんだまもらったよー!」 「まりさもあまあまさんいっぱいあつめたよ!ゆっくりかいものしていってね!」 「ちーんぽ!」 ここは乞食谷。 乞食ゆっくりたちが集う、街の下宿所です。 もちろん、町中に谷などありません。 誰も住んでいないビルに囲まれた空き地が、谷底に似ているので、そう呼ばれているだけです。 乞食たちは、この谷の真ん中にあるドラム缶の前で、毎晩市場を開きます。 食べ物や段ボールなど、生活に必要なものを集めたゆっくりが、 人間からお金をもらったゆっくりに、それを売っているのです。 今日も市場は大盛況。 ゆっくりたちの賑やかな声が、あちこちから聞こえてきます。 「ゆぅ……。あんぱんしゃん……。」 そんな市場を遠くから眺めているのは、さきほどのれいむ姉妹です。 お金も物ももらえなかった2匹は、何にも交換するものがありません。 ただただ、他のゆっくりたちの買い物を見ている以外、することがないのです。 「れいみゅもあんぱんしゃんたべちゃいよ……。」 妹れいむが、物欲しそうに涎を垂らしながら、ちぇんの買った餡パンを見つめています。 「ごめんね。あしたはおかねをもらってあんぱんさんたべようね。」 「ゆぅ……。」 そんな会話をしていると、ふと市場の方から、1匹のゆっくりが跳ねて来ます。 それは、よく見知った帽子の子、ゆっくりまりさでした。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは、笑顔でれいむに挨拶します。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 れいむとその妹も、先程までの空腹を忘れて、元気よく挨拶を返します。 れいむは、このまりさと大の仲良しでした。 この乞食谷に案内してくれたのも、街中でたまたま出会ったこのまりさだったのです。 まりさは、人間にもそうと分かるくらいの美ゆっくりでしたが、野良は野良。 お帽子にはあちこちに穴が空き、お肌も都会の空気ですっかり汚れてしまっています。 そんなまりさは、とびっきりの笑顔で、れいむに話しかけます。 「きょうもいっぱいおかねもらえたよ!」 嘘ではありません。 このまりさは、1日になんと15円も稼ぐのです。 普通は5円も集まれば御の字なのですから、どれほど凄いかが分かります。 それもそのはず、このまりさは、芸の名人でした。 ぴょんと30センチも飛び跳ねてトンボ返りをしたり、 口に棒をくわえて、コーンの間に張った綱を渡ったりできるのです。 だから、人間さんたちの間でも、まりさはとっても有名でした。 「れいむはおかいものしないの?」 まりさは、れいむにそっと尋ねました。 れいむは何も答えませんでしたが、まりさには分かっています。 だって、れいむがお買い物をすることなど、滅多にないのですから。 れいむは、それくらい物乞いが下手なのです。 けれども、嫌みで尋ねたわけではありません。 まりさは、いつもこうやって、れいむにプレゼントする機会を作っているのです。 「れいむにこれあげるよ!」 まりさは、帽子の中から、野菜屑を取り出して、れいむに差し出します。 それは、八百屋さんの前で芸を披露したときに、店のおじさんから貰ったものでした。 このおじさん、普段はじゃがいもの皮しかくれないのですが、 その日はまりさの宙返りがあまりにも見事だったので、キャベツの葉っぱをくれました。 「ゆゆん!まりさありがとう!」 れいむは、うれし涙を流しながら、キャベツの葉っぱを受け取ります。 それを見た妹のれいむは、今にも端っこに噛み付いてしまいそうでしたが、 お姉さんのお腹がぐーぐー鳴っていることを、ちゃんと知っています。 だから、溢れそうになる唾を飲み込み、お行儀よく我慢することができました。 「こまったときはおたがいさまだよ!」 困ったときはお互い様。 まりさは、いつもそう言ってくれます。 だけど実際には、れいむが貰う一方で、お返ししたことなど一度もありません。 本当はお返ししたいと思っていても、あげるものが何もないのです。 れいむがまりさにしてあげられることは、ひとつだけ。 そして、まりさも、そのたったひとつのことを、いつもお願いして来ます。 「ねえ!まりさにおうたをきかせてよ!」 「いいよ!ゆっくりきいていってね!」 れいむは、まりさの前で、ゆっくりとおうたを歌い始めます。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~♪」 まりさは、本当にゆっくりとした表情で、れいむのおうたを静かに聴きます。 「れいむのおうたはほんとにゆっくりしてるね!」 「ゆゆ!ありがとう!」 まりさは、お世辞を言ったのではありません。 れいむのおうたは、ゆっくりにとって、本当にゆっくりしたおうたなのです。 だけど、そのおうたを聴いてくれるのは、街中でも、このまりさしかいません。 その理由は簡単でした。 みんな生きることに必死で、おうたなど聴いている場合ではないのです。 だから、このまりさがおうたに耳を澄ますのは、彼女が恵まれていることの証なのです。 「おとうしゃんだけじゅるいよ!まりちゃもなきゃまにいれちぇにぇ!」 れいむとまりさの間に割って入ったのは、小さな体をのーびのーびさせた子まりさでした。 まりさをお父さんと呼んでいますが、2匹の間に餡子は繋がっていません。 子まりさの母親が車に轢かれ、側で泣いていたところを、まりさが拾ってあげたのです。 最初は母親が死んだショックで、まりさにはあまり懐いてくれませんでしたが、 いつからか、子まりさは、まりさをお父さんと呼ぶようになっていました。 「まりちゃだけにゃかまはじゅれにゃんてぴゅんぴゅんだよ!」 「ごめんね。でも、おちびちゃんがすーやすーやしてたから、おこさなかったんだよ。」 子まりさも、本気で怒っているわけではありません。 その証拠に、子まりさは、まりさの頬に擦り寄ると、すぐに笑顔に戻ります。 「れいみゅおねーしゃん。まりちゃにもおうちゃをきかちぇてにぇ。」 「ゆふふ。いいよ。もういっかいうたおうね。」 れいむは、そんなまりさたちのやりとりに、思わず顔が綻んでしまいます。 「れいみゅもおうちゃうちゃえるよ。」 子れいむが、もみあげさんをぴこぴこさせながら、可愛い声をあげました。 彼女も、お姉さんにおうたを教えてもらっているのです。 「それじゃあ、ふたりでうたおうね!」 「「ゆゆゆ~♪」」 その夜、乞食谷に、姉妹の楽しそうな歌声が、いつまでも響き渡りました。 次の日のこと。 物乞いから帰ったれいむのおうちへ、例のまりさが息を弾ませてやって来ます。 いったい何だろうと思っていると、まりさは次のように言いました。 「まりさ、てれびにでるよ!おかねもいっぱいもらえるよ!」 これでは、いったい何のことだか分かりません。 れいむはまりさを落ち着かせ、詳しく話してくれるように頼みました。 まりさの話はこうでした。 今日、いつもの繁華街で曲芸をしていると、いきなり男の人が話しかけてきたのです。 そして、男の人は、こう言いました。 テレビに出てみないかい、と。 彼は、某テレビ局のディレクターさんでした。 ディレクターさんの話によると、来月、街中の変わったゆっくりを紹介する番組があり、 ぜひまりさにも出演して欲しいと言うのでした。 「出演料として、500円出すよ。」 500円! まりさはびっくりしました。 だって、まりさの一ヶ月分の稼ぎが、1日で手に入るのですから。 まりさは、喜んでテレビ出演を快諾しました。 ディレクターさんは、日曜日にまた来ると言って、その場を去りました。 「もし500えんもらったら、れいむにすてきなぷれぜんとをするよ!」 500円もあれば、大きな板チョコが何枚も買えます。 まりさは口にしませんでしたが、その板チョコをれいむにプレゼントし、 そして愛の告白をするつもりだったのです。 「まりさすごいね!れいむゆっくりおうえんするよ!」 「うん!まりさもゆっくりがんばるよ!」 その日、まりさは、前祝いとして、とっておきの5円チョコを4匹で分け合いました。 上手く割れなかったので、れいむは子れいむに、まりさは子まりさに、 それぞれ大きな欠片を渡します。 「「「「む~しゃむ~しゃ♪しあわせ~♪」」」」 その夜、乞食谷に、4匹の幸せな声が、いつまでも響き渡りました。 日曜日、ついにまりさのテレビ出演の日がやって来ました。 もちろん、今日は単なる収録日で、放送は後日なのですが、 ゆっくりであるまりさたちには、そんなことは分かりません。 それに、どうせテレビを見ることなどできないのですから、 テレビに出られるかどうかなんて、本当はどうでもよかったのかもしれません。 「おにいさん!きょうはまりさのすごいわざいっぱいみせてあげるね!」 まりさが、少しばかり声を震わせて言いました。 さすがに緊張しているのでしょう。 早速、得意のバク転を決めようと身構えたところで、ディレクターさんが止めに入ります。 「あ、悪いけど、君がやることは、こっちで決めてあるんだ。」 ディレクターさんは、そう言うと、奇麗な青空を指差しました。 まりさもれいむも、そして同伴した子ゆっくりたちも、不思議そうに空を見上げます。 「あそこに綱が見えるだろう。あれを渡ってくれ。」 最初は気付きませんでしたが、ビルとビルの間に、一本の太いロープが張られていました。 それは、建物の5階から伸びていて、長さも10mはあるでしょうか。 まりさは、言葉が出せません。 だって、こんなことをやるとは、聞いていなかったのですから。 「ゆゆ。これはたかすぎるよ。それにひもさんもながすぎるよ。」 「なに、やらないの?やらないなら、他のゆっくりに頼むけど?」 ディレクターさんは、まりさを睨みつけました。 「でも……あぶないよ……。」 「危ないからこそ、視聴者も喜ぶんだろう。普通の芸で500円貰おうなんて甘いね。」 まりさは迷います。 いくらゆっくりでも、この高さから落ちれば死ぬことくらいは理解できました。 以前、お友達のまりさが、誤って歩道橋から落ちてしまい、 地面でぺちゃんこになったのを、まりさは見たことがあるからです。 まりさは、困ったように視線を落とした後、今度はれいむの方を見ました。 まりさの目には、不安と同時に、何かを諦めきれない気持ちが、入り交じっていました。 れいむは、何も言うことができません。 これは、まりさの舞台なのです。 決めるのは、まりさであって、れいむではないのです。 しばらく悩んだ末、意を決したように顔を上げると、まりさはこう言いました。 「ゆん!まりさやるよ!」 「だめだよまりさ!こんなのゆっくりできないよ!」 大声を上げたのは、れいむでした。 そんな危険なことをして欲しくない。 ただその一心から出た声でした。 「あーん?なんだこのれいむは?」 ディレクターさんが、れいむの方へ近付いてきます。 すると、まりさが、慌ててディレクターさんの前に立ちはだかりました。 「れいむはまりさのおともだちだよ!いじめないでね!いじめたらまりさやめるよ!」 ディレクターさんは、少し不機嫌そうでしたが、黙ってスタッフに合図を送ります。 カメラが用意され、撮影が始まりました。 まりさは、若い男のスタッフに持ち上げられ、ビルの中に消えて行きます。 「ゆ~ん♪おそらをとんでるみたい♪」 そんな暢気な声が、半開きの自働ドアから聞こえてきました。 まりさが棒をくわえ、ロープの前に立ったとき、彼女はびっくりしてしまいました。 下から見上げたときよりも、ずっとずっと高く感じられたからです。 さすがのまりさも、あんよが震えてしまいます。 「よーし!じゃあ始めてくれ!」 遠くから、ディレクターさんの掛け声が聞こえました。 「おとうしゃん!がんばっちぇにぇ!」 「まりしゃおじしゃんがんびゃりぇー!」 地上で無邪気にまりさを応援しているのは、子まりさと子れいむの2匹です。 彼らは体をのーびのーびさせながら、一生懸命に声を張り上げます。 その横にいるれいむは、もみあげを合わせ、不安そうにまりさを見つめているだけ。 まりさのことが心配で心配で、舌が動かないのです。 そんなれいむの顔を見ていると、何としてでも渡り切ってやろうという気持ちが、 まりさの餡子の中に、むらむらと湧いてきました。 「これがめいじんまりさのつなわたりだよ!みんなみててね!」 まりさは、棒を上下の歯でしっかりと挟み、ぐっと表情を引き締めると、 まるっこいあんよを、ロープの端に乗せました。 めまいがしそうな高さです。下を見てはいけません。 「……。」 ゆっくりと、本当にゆっくりと、まりさはロープを渡って行きます。 人間さんたちは、最初から応援も何もしていませんでしたが、 今や子ゆっくりたちも、黙ってまりさの勇姿を見守るしかありません。 芸の最中に声を上げると気が散ることは、彼らも知っていたからです。 どれほどの時間が過ぎたでしょうか。 1時間とも2時間とも感じられるような緊張の連続が過ぎ去り、 気付けば、まりさはロープの半分を渡り切っていました。 さすがの人間さんたちも、これには驚きを隠せません。 あと半分。 この調子であと半分を渡り切れば、500円玉が手に入る。 そして、れいむに愛の告白をすることができる。 まりさの餡子を支配していた恐怖が、だんだんと希望に取って代わられます。 と、そのときでした。 ビューーーッ 「!」 強烈なビル風が、道ばたにいる人々を襲います。 まりさは、歯を食いしばり、ロープの上でバランスを取ろうと必死に踏ん張りました。 普通のゆっくりならば、すぐに吹き飛ばしてしまったであろうこの強風も、 まりさの素晴らしいバランス感覚の前では、柳に風です。 そう、まりさの前では。 「おぼっ!?」 まりさは、全身を器用にくねらせ、ロープの上で絶妙なバランスを取っていました。 しかし、まりさが動かせるのは、まるっこい饅頭の体だけなのです。 だから、辛抱を切らした風は、まりさではなく、 まりさの大事なお帽子を攫って行くことに決めました。 まりさは、外れかけたお帽子を放すまいと身を捩りますが、全く意味がありません。 お帽子は飾りであり、体の一部ではないのです。 ついに、風が、お帽子のツバに、見えない指を掛けました。 「まりさ!だめだよ!」 れいむの声は、遅過ぎました。 まりさは、お帽子に対する愛着から、うっかり後を追おうとしてしまったのです。 当然、バランスを失い、そのまま地面へ真っ逆さま。 ぐちゃ、という音と一緒に、永遠にゆっくりしてしまいました。 一瞬の出来事だったので、れいむたちには、何が起きたのか分かりません。 「よーし、いい絵が取れたぞ。」 「ディレクター、テロップはどうしますか?」 「薬中まりさ、白昼の錯乱綱渡り。バカとゆっくりは高いところがお好き。」 「お、いいですねえ。高視聴率間違いなしですよ。」 ディレクターさんは、嘘を吐いたのではありません。 ゆっくりの番組が放送されるというのは、本当です。 成功すれば500円玉をあげるつもりだったのも、本当です。 ただ、ディレクターさんは、ひとつだけ言わなかったことがあるのです。 番組のタイトルが、『爆笑☆街中のおかしなゆっくりたち』だということを。 「じゃ、それっぽく見えるように、適当に編集しといてね。」 ディレクターさんがその場を去ると、他の人間さんたちも、道具の片付けを始めました。 がちゃがちゃという音に、れいむは、ようやく意識を取戻します。 そうだ、ここには人間さんたちがいる。 人間さんは、どんな病気でも治すことができる。 れいむは、昔、死んだ長のぱちゅりーに、そう教えられたのを思い出しました。 「にんげんさん!おねがいだよ!まりさをたすけてあげてね!おねがいだよ!」 しかし、人間さんたちは、誰も助けてはくれません。 れいむは、側にいた女の人のところへぴょんぴょん跳ねると、また大声で言いました。 「おねえさん!まりさはまだいきてるんだよ!だからゆっくりたすけてあげてね!」 女の人は、五月蝿そうにれいむを避けると、道具を持ってどこかへ行ってしまいました。 れいむは向きを変え、少し離れたところにいる男の人に、跳ねながら話しかけます。 「おにいさん!まりさをびょういんにつれていってあげてね!おねがいだよ!」 れいむがさらに近付こうとすると、男の人の踵が、れいむの顔に当たりました。 体の中からメキッという音が聞こえ、れいむは後ろに転がってしまいます。 起き上がってみると、口の中が何やら変な感じです。 そうです。前歯が折れてしまったのです。 男の人も、それに気付きました。 「あーあ、足下でうろちょろするから。どっか行けよ。」 「まりひゃをびょういんにひゅれてってあげてね!おねがいだよ!」 れいむは、歯の折れた痛みなど忘れて、もう一度男の人に頼みます。 「あのさ、生きてるわけないっしょ。少しは現実見ろよ。」 「まりひゃはいきてるよ!だからたひゅけてあげてね!おねがいだよ!」 男の人は、やれやれと首を横に振り、その場を離れて行きました。 誰も助けてくれないことが分かったので、れいむは涙を流しながら、 まりさのところへ駆け寄ります。 「おとうしゃん!おめめあけちぇえええ!」 「まりしゃおじしゃんげんきになっちぇね……。ぺーろぺーろ……。」 まりさの側で、子れいむと子まりさが、しくしくと泣いています。 「まりひゃ!れいむといっひょにおいひゃひゃんにいこうね!」 れいむはそのとき、初めてまりさの顔を見てしまいました。 白玉の目玉が飛び出し、そこから餡子がたくさん漏れています。 それに口の形もいびつで、だらしなく舌が垂れていました。 街中でも指折りの美ゆっくりだったまりさの面影は、もはやどこにもありません。 「まりひゃ!きっとよくなるよ!だからおいひゃひゃんへいこうね!」 まりさは、返事をしてくれません。 それから何度かまりさの名前を呼んだ後、れいむは、 ようやくまりさが死んだのだと分かりました。 「まりびゃあああ!!!まりびゃああああああ!!!」 れいむも、わんわんと泣きました。 こんなことなら、まりさを止めれば良かった。 そう思っても、全ては後の祭りです。 そして、れいむにはもうひとつ、とっても後悔したことがありました。 彼女は聞いてしまったのです。 まりさが最後に叫んだ言葉を。 れいむあいしてるよ、と。 「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆひゅ~♪」 夕焼けがとっても奇麗な、7月のとある日暮れ時。 学生もサラリーマンも、みんなおうちに帰って行きます。 そんな人々が行き交う道ばたで、おうたを歌う1匹のれいむがいました。 そうです。あの乞食れいむです。 れいむはあれからも、同じ場所で、同じおうたを歌い続けています。 「こじきのまりしゃにおきゃねをめぐんでくだちゃい!おにぇがいしましゅ!」 「こじきのれいみゅはおうたがとってもじょうずなんでしゅ!きいてくだちゃい!」 だけど、歯が折れてしまったれいむは、もう今までのようにおうたが歌えません。 以前は顔色ひとつ変えずに避けていた人たちも、今や我慢ができないといった様子で、 れいむたちを睨みつけ、罵声を浴びせます。 「くっせぇ饅頭がこんなところで歌ってんじゃねーぞ!」 「きもー。あのれいむ歯がないじゃん。」 「ゆひゅ~♪ゆひひゅ~♪」 溢れそうになる涙を堪えながら、れいむはおうたを歌います。 もう、おうたを歌っても、昔の楽しかった思い出は、餡子の中に浮かんできません。 だかられいむは、何も考えず、生きるためにおうたを歌うのです。 ふと、道の向こうから、不機嫌そうなサラリーマンが歩いて来ます。 男は、今日、上司にこっぴどく怒られて、内心むしゃくしゃしていました。 「けっ、ありゃ新入りのヘマだろうが……。なんで俺のせいになるんだよ……。」 男が新聞紙の前を通りかかったところで、妹れいむが声を上げました。 「おじしゃん!こじきのれいみゅになにかめぐんでくだちゃい!おねがいしましゅ!」 男は、3匹にちらっと目をやると、あからさまに舌打ちをします。 「……なんだ、ゆっくりか。うっせーな。」 そのまま通り過ぎようとしたとき、男は、ふと足を止めました。 この光景、どこかで見たことがある。そうだ、あのれいむだ。 ずっと前に、ビール瓶の蓋で、このれいむをからかったことを、男は覚えていました。 男は、しばらくの間、じっとれいむの顔を見つめていました。 れいむの方は目を瞑り、真剣におうたを歌っています。 前歯の隙間から空気が漏れ、ひゅーひゅーと間の抜けた音が聞こえても、 れいむは真剣におうたを歌っているのです。 チャリーン 缶の底で、金属のぶつかる音がします。 「ありがとうごびゃいまひゅ。」 「「ありがとうございましゅ!」」 れいむと2匹の子ゆっくりは、もみあげとおさげで三つ指をつき、深々と頭を下げます。 サラリーマンは、お礼を言う3匹を無視して、先を急ぎました。 れいむは、男が見えなくなると、ようやく体を持ち上げます。 「ひょうはおかねもらえひゃね。くらいからもうおうひにひゃえろうね。」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、空き缶の中に入っている金属片を、もみあげでゆっくり取り出します。 いったいいくら入っているのでしょうか。 「……。」 夕暮れの太陽に赤く光る丸い円盤。 それは、1円玉でした。 「ゆわ~♪いひえんだまひゃんだよ♪」 れいむの顔がぱっと明るくなります。 「いちえんだましゃんゆっくりしていっちぇね!」 妹れいむも目を輝かせ、1円玉さんにすーりすーりしようと体を伸ばします。 「おじしゃんありがちょね!」 子まりさは、もう姿の見えない男の方角に向かい、何度も何度もお礼を言いました。 「ゆっくりおうひにかえってくひゃひゃんをむーひゃむーひゃひようね!」 「「ゆっくち~♪」」 れいむは、右のもみあげで子れいむを、左のもみあげで子まりさを抱き寄せると、 夕闇に包まれた始めた大通りを、ゆっくりと去って行きました。 そんなれいむの唇には、生まれて初めて恵んでもらった1円玉が、 何か大事なものと交換されたかのように、赤く赤く、輝いているのでした。 終わり これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1548.html
『れいむの平和な一日(後編)』 タイポあき 4作目 一応れいむの平和な一日(前編)の後編ですが、読まなくても問題ない気もします。 なんて言うか、既に時間・空間を共有してるだけの別のお話に……。 ※注意など ・現代もの ・飼いゆもの ・自滅もの ・ゲスもの ・うどんげは、今回のお話からは退場したよ! いわゆる「見せられないよ!」な状態だよ!! *** ガチャガチャ、ぱたん。 「ただいまー」 玄関が開く音に続いて、お姉さんの声がします。 れいむのお昼ねタイムは、一時中断です。 いつの間にか〈餡子の噴水〉さんが消えてることには気が付きません。 玄関までぴょんぴょんすると、いつものご挨拶を口にします。 「お姉さん、ゆっくりお帰りなさい!」 「ゆっ、ゆゆゆ?」 そう言ってお姉さんを出迎えたれいむでしたが、口にするなり〈首〉を傾げます。 飼い主のお姉さん以外にも、何人かお姉さんがいたからです。 「ああ、これ私の友達だから」 れいむの疑問を察したお姉さんが、れいむに説明します。 これ扱いしているのは親密さの裏返しです。 「ゆ! お客さん、こんにちは! れいむのお家でゆっくりしていってね!」 お客さんなら心配ありません。 体をくにっと伸ばして、にゅるりと曲げて、しっかりご挨拶をします。 お辞儀のつもりなのでしょう。 「あら、可愛いれいむちゃんね」 「よくここまで、素直ないい子に育てられたわね」 「あらあら、これはこれは」 「ホント。ウチの子に、中枢餡でも煎じて飲ませてやりたいわ……」 お姉さんのお友達も感心しています。 そういって頭をなでなでしてくれたり、ほっぺたをぷにぷにしてくれたりしました。 その間に間に、お姉さんはリビングまでひと走り。 アイロンを手にして、すぐに引き返してきました。 「ああれいむ、挨拶してくれた所悪いんだけど、私たちまた出かけるから。 その間、この子たちと一緒にお留守番してて。机におやつ置いといたから、みんなで食べて」 戻るなり、この一言です。 どうやら、お出かけの準備に戻っただけのようです。 よく見れば、お姉さんのお友達もゆっくりを連れています。 れいむとお姉さんのお家を、臨時の託ゆ所として使うつもりなのでしょう。 お姉さんは言いたい事を伝えると、さっさと出かけてしまいました。 閉まる扉に向かって、手を振るようにもみあげをぴこぴこして見送るれいむでしたが、 扉が閉まるのを確認すると、ゆっくり振り返ります。 そこにいたのは、4匹のゆっくり。 お姉さんのお友達の飼いゆたちです。 まず目に付くのが、大きなれいむ。 ゆふんとアゴをつきだして、ふんぞり返っています。 世界は自分を中心に廻っている。 そう言わんばかりの尊大な態度です。 「ゆふん。汚いお家だけど、仕方ないね。ここをでいぶのゆっくりプレイスにするよ!」 しばらくあたりを見回していましたが、口を開くなり〈おうち宣言〉です。 ゲスの見本のようなれいむ、いやでいぶです。 「ゆゆ! なに言ってるの? ここはれいむのおうちだよ!」 そんなことを言われては、黙っていられません。 すかさず反論します。 「どぼしてそんなこというの! でいぶはシングルでいぶなんだよ! 優しくしないといけないんだよ! そんなことも分からないの! ゲスなの? 死ぬの!?」 ですが相手はゲス。 そもそも話が通じません。 「ゆっ、ゆぅ……」 何を言ってるのか理解不能でしたが、その剣幕には驚きました。 思わず反論を飲み込んでしまいます。 その様子を少し離れてみていたのが、まりさです。 「ゆふん。やっぱりれいむは、ゆっくりできないのぜ」 その言葉は、ずいぶんと冷ややかです。 それもそのはず。 このまりさは、珍しくも元野良のまりさです。 今では運よく拾われて飼いゆに収まっていますが、野良時代は苦労してきたのです。 それも、ゆっくりできない原因のほとんどにおいて、れいむ種が原因でした。 顔を合わせれば〈シングルなんとか〉だの〈かわいそう〉だの言ってエサを請求する。 れいむ種と番になれば、巣の中でふんぞり返って自分は動こうとしない。 冬篭り直前にも関わらず、半ば無理矢理すっきりしたあげく、食料不足になって赤ゆをむさぼる。 赤ゆがいなくなれば、自分が食べたのを忘れてまりさをゲス呼ばわり。 挙句の果てには、まりさすら食料にしようとする。 どうしようもないとはこのことです。 必死に逃げているところを〈まりさのお姉さん〉に助けられなければ、 まりさのゆん生はそこまでだったでしょう。 もっとも実際は、「まりさを助けた」のではなく「誤ってれいむを潰してしまった」 と言うのが正しいのですが。 それでお姉さんは〈番をうしなったかわいそうなまりさ〉を飼いゆにしてあげたのです。 余談になりますが、その事件が影響を与えたのは、まりさのゆん生だけではありませんでした。 反省した〈お姉さん〉は、公園の樹上での〈エクストリーム・アイロン掛け〉の練習をやめました。 「パンツが丸見えだから、公園での練習はやめろ。せめてスカートはやめてズボンを穿け」 アイロニストの友人達から、つねづねこう言われ続けていたからです。 〈まりさのお姉さん〉としては、木の下から見上げてくる輩には落下する〈鉄塊〉による 制裁を与えていたので、全く問題ないと思っていました。 しかし、誤って〈罪のないれいむ〉を潰してしまう事故が起こってしまったのを機に、 練習場所を変えたのです。 その一方で、ゆ虐にマンネリを感じていた虐待お兄さんに、多大なインスピレーションを与えました。 彼はビデオカメラを片手に、幼女たちが遊ぶ公園を散策していました。 いったんゆ虐を離れての気分転換です。 そのときでした。 撮影していた彼の目の前で、一連の事件が起こったのです。 「――てない、だと!」 後に彼は、危険な場所でゆ虐を行なう〈エクストリーム・ゆ虐〉をあみ出し、町おこしに貢献します。 ――何故こんなものを思いついたのか? しばしばこう問われましたが、その返答も決まっていました。 「あのときの光景は、今でも心と動画に焼きついている――」 鼻血をたらしながら、そう語るのが口癖のようなものでしたが、 その〈動画〉の正体が明かされることはありませんでした。 しかし、それもまた別のお話です。 そして話は戻り、まりさの目の前では〈おうち宣言〉をしているれいむが二匹。 まりさにとっては唾棄すべきゲスゆたちです。 「あんなれいむは無視して、あっちでゆっくりするのぜ」 そういってリビングに跳ねていきます。 「むきゅ。そうね。無能なれいむは放っておきましょう」 そう答えたのは、まりさに寄り添うようにしていたぱちゅりーです。 「でもここはれいむのおうちじゃないけど、れいむのおうちだよ。わからないよー」 残りの一匹であるちぇんは、れいむを気にかけていましたが、 二匹が行ってしまうと後を追いかけるのでした。 *** 「待つんだぜー」 「ゆふふ、つかまらないよー」 そういって追いかけっこする、まりさとちぇん。 「むきゅきゅ、これは貴重な〈まどうしょ〉だわ」 そういってチラシを見つめるぱちゅりー。 みんな楽しそうにしています。 ですが、れいむは楽しくありません。 それもそのはず、一緒に遊ぼう近づくと、まりさの笑顔が消えるのです。 そうして黙って自分から離れてゆくのです。 当然2匹もそれについていきます。 ちぇんはれいむを気にしていましたが、気休めにもなりません。 そうして〈一人ぼっち〉になるれいむ。 普段は一人でお留守番ができるとはいえ、この状況が楽しいはずがありません。 いや、それだけならまだマシでしょう。 一番の問題は、れいむのお気に入りのクッションさんを独り占めしているでいぶです。 それだけならまだしも、れいむに向かってやれこれを持って来い、やれこうしろだの 命令ばかりしています。 まさにでいぶです。 これなら本当に一人ぼっちのほうが、どれだけましなことでしょう。 それを見て「やっぱりれいむはゆっくりできない」と、まりさは再認識します。 れいむにとっては悪夢そのものです。 「ゆう……」 思わずため息がでてしまいます。 「ゆっ! そうだ、おやつさんを食べるよ!」 しかし、そこはゆっくりです。 楽しくなければ〈ゆっくり〉すればいい。 即座に思考を切り替えます。 早くもおやつにすることにしました。 キッチンの机の上にあったのは、とってもゆっくりしたポンデさんでした。 「ゆわあ、ポンデさんだぁ! ポンデさんは、とってもゆっくりできるよ!」 そういって、ポンデさんを〈むーしゃ、むーしゃ〉するれいむ。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ……」 言葉とは裏腹に、あまり幸せそうではありません。 ゆっくりできるポンデさんでも、ひとりで食べるのでは幸せも半減です。 「ゆぅ、やっぱり一人で〈むしゃむしゃ〉はさびしいよ……」 思わず声にでてしまいます。 そんなときでした。 机の端においてある、赤い小瓶を見つけます。 「ゆっ、これは! 〈あまあまさん〉の小瓶!」 れいむの頭の中には、お姉さんにつくってもらった〈あまあま〉の記憶が広がっていました。 暑くてへばっていたれいむに、お姉さんがつくってくれたカキ氷。 氷そのものも冷たくてゆっくりできましたが、赤い瓶の中身をふりかけると、 とっても〈あまあま〉になったのです。 「これをかければ、ポンデさんがもっとゆっくりできるようになるね! ゆっくりかけるよ!」 ただの氷が〈あまあま〉になるんだから、元々ゆっくりしているポンデさんにかければ、 もっとゆっくりできるに違いない。 れいむはそう考えたのです。 れいむは、瓶の中身を惜しげもなくかけてゆきます。 あっという間に真っ赤になるポンデさん。 もはやこれは、ポンデさんに対する宣戦布告です。 「ゆうう! ポンデさん! とってもゆっくりしてるよおっ! れいむに、むーしゃむーしゃされてね! ――ゆぴゃっ!」 そのときでした。 れいむは後ろから強い衝撃をうけて弾き飛ばされます。 「何してるの! でいぶのあまあまさんを奪うなんて、とんだゲスだね!」 衝撃に目を回すれいむでしたが、突き飛ばしたでいぶはそんなことにかまわずにまくしたてます。 「ゆぅ……。ちゃんとみんなの分は……」 「馬鹿なこと言わないでね! ここはでいぶのお家だよ。だから全部でいぶのものだよ! そんなことも分からないクズは、ゆっくり死んでね!」 そう言って、手加減なしの体当たりを仕掛けます。 体格の良いでいぶの体当たりを受けてはたまりません。 「ゆぶっ!」と悲鳴をあげながら、はじき飛ばされます。 ころころ転がり、床に落ちてはまた「ゆぶっ!」と悲鳴をあげる。 それでも勢いはとまらず、ころころとみんなのいるリビングまで転がっていくのでした。 自分の〈あまあま〉を奪い取ろうとする〈ゲス〉を制裁したことに満足したでいぶは、 さっそく〈むしゃむしゃタイム〉に入ります。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」 おくちの中に広がるのはポンデさんの甘さと、もちもちの食感です。 とってもゆっくりできる瞬間でした。 ――そしてわずかに遅れて灼熱感が餡子を苛み、続いて嘔吐感が全身を包みます。 その理由はれいむのかけた赤い小瓶です。 赤の小瓶にはこう書いてありました。 “タバスコ”と。 えれえれ、えれえれ。 (餡子を吐いてはゆっくりできなくなる!) そうは思っても、餡子の流出は止まりません。 でいぶは気が付かない間に、致死量のタバスコを摂取してしまったのです。 なぜこんなことになったのでしょう? それは味を感じるシステムに原因があります。 辛さに対する反応が遅れたのは、辛さが味覚ではなく痛みであるからです。 しばしば後から辛さが襲ってくるのは、このあたりが原因です。 加えてゆっくりは〈餡子脳〉という言葉に表されるように、〈ゆっくりできないこと〉よりも 〈ゆっくり〉を求めるナマモノです。 そのためタバスコまみれのポンデさんを食べても、タバスコの辛さよりポンデさんの甘さが 優先されたのです。 結果として、体が異変を感じたときには、致死量のタバスコを摂取していたのです。 防衛本能として、タバスコを体の外に排出しようと、嘔吐という作用が起こりますが、 既に手遅れでしょう。 仮にタバスコを含む餡子を出し切ってしまえば、でいぶの中身はほとんど残らないからです。 「でいぶの中身さん、でていかないでぇっ!」 そう叫んでも後の祭り。 それで止まるわけがありません。 危険なタバスコを排出するための防衛機能なのですから。 仮に吐くのを止められたとしても、体内のタバスコがじわじわと全身を蝕んで、 苦痛の中で〈永遠にゆっくり〉するだけです。 もはやあきらめて、餡子を出し切って楽になるのがもっともマシな道でしょう。 しかし、そこはでいぶ。 生への執着は並大抵ではありません。 防衛機能を押し込めると、吐いてしまった餡を無理矢理に飲み込みはじめました。 「むしゃ、むしゃ、ごっくん――ゆげえっ!」 ですが、即座に吐き戻してしまいます。 吐いた場所がまずかったようです。 ポンデさんを食べていて嘔吐感に襲われたのですから、当然吐く先もポンデさんのお皿です。 皿にはポンデさんに掛かりきらなかったタバスコさんが、なみなみと存在しています。 当然、吐いた餡子もタバスコ塗れです。 ただでさえゆっくりの有害物質を含む危険な餡子なのに、さらにタバスコを追加されて 真っ赤になっています。 「ゆげえっ、ゆぐぐっ、エレエレ、ごふっ!」 摂取したタバスコの増加により、嘔吐の勢いもそれに比例します。 早くも、体積の半分以上の餡子を吐いてしまいました。 「でいぶはまだ〈ゆっくり〉しないよ。餡子さんれいむの中にもどってね――ゆぎゃあ!」 それでもあきらめない、でいぶ。 今度はタバスコを直接なめてしまったようです。 もはや味覚は破壊され、二度と〈むーしゃむーしゃ幸せ〉を楽しむことはできないでしょう。 もっとも痛覚に根源を持つ辛さだけは、しっかりと感じることができますが。 「餡子さん……。いじわるしないで、でいぶに戻ってね――ゆごっ!」 またタバスコを舐めたようです。 こんな状態になっても諦めないのは、生への執着を称えるべきなのか、それともその無駄を笑うべきか。 一つだけ言えるのは、その分だけでいぶの苦しみは続くということです。 がたん! だばだば。 「ゆぴゃああああっ!」 苦痛に転げまわったために、タバスコの瓶を倒してしまったようです。 その中身はでいぶの全身に襲い掛かります。 これで触覚が失われました。 「いだい、いだいよ……。ま゛え゛がみ゛え゛な゛い゛……」 目にも入ってしまったようです。 でいぶの〈おめめ〉の機能も、一瞬にして失われます。 「あ゛ん゛こ゛さ゛ん、で゛い゛ぶ゛の゛な゛がに゛……」 それでも餡子を戻そうとするでいぶ。 しかし視覚は奪われ、触覚も失い、タバスコと餡子の区別もつかない状態です。 タバスコを舐めては「ゆ゛ぶっ!」と悲鳴を上げて吐いていました。 「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」 結局、飲み込んでは吐き戻しを数十回繰り返した後、でいぶは〈永遠にゆっくり〉しました。 餡子が真っ赤になるほどタバスコを含んでいるのに、甘い香りがするあたり、 でいぶの苦痛が伺えます。 タバスコに悶絶して転げまわったために、命より大事なお飾りもボロボロです。 これでは、他のゆっくりに同属と認識されないでしょう。 しかしもはや関係ないことです。 お飾りを気にする存在は、既にこの世にいないのですから。 *** ころころ、ころころ。 リビングに入っても、転がるれいむの勢いはとまりません。 前方にある、ゆっくり用オモチャ等を弾き飛ばしながら突き進みます。 その先にいたのは、〈まどうしょ〉を読んでいるぱちゅりーです。 べちっ! ずるずる――ぐちゃぐちゃ、ぶちゅり! やわらかいもの同士がぶつかる音に続いて、それを引きずる音、そして何かが潰れる音がします。 れいむがぱちゅりーを巻き込みながら転がり、窓にぶつかって静止したのです。 「ゆうう……。ひどい目にあったよ……。 ――ゆっ! ぱちゅりー、どうしたの! くりーむさん吐いたら駄目だよ! そんなことしたら、〈ゆっくり〉しちゃうよ!」 ゆっくり的には凄まじい勢いでぶつかった二匹ですが、れいむは無傷でした。 ぱちゅりーをクッションにしたからです。 それに対して、ぱちゅりーはひどい有様でした。 れいむと窓の間に挟まれたため、運動エネルギーを外に逃がすことができなかったからです。 まんまるだったフォルムも、半端にふくらんではじけたお餅ように、ひしゃげてしまっています。 〈まどうしょ〉を読むための〈大事なおめめ〉も、片方は完全に潰れてしまっています。 「どぼぢ……でい゛……(どうしてこんなことするの、れいむ……)」 歯もほとんどが折れてしまったため、上手く喋れません。 「一体何があったのかぜ――ぱちゅりー!!」 「ぱちゅりー、だいじょうぶ――わからないよー!!」 物音を聞いて、追いかけっこをしていた二匹が駆けつけてきました。 「ゆっ! よくわからないけど、ぱちゅりーが大変だよ! 早く〈おくすり〉を持ってこないと!」 それに答えるれいむ。 ここで言う〈おくすり〉とはオレンジジュース、あるいはその代わりとなる甘い液体のことです。 「わかったのぜ! まりさはここでぱちぇをみているから、〈おくすり〉を持ってきて欲しいのぜ!」 「ゆ! ゆっくり了解したよ!」 「ちぇんは、れいむを手伝うよー!」 本当はれいむが原因なのですが、言ったもの勝ちなのがゆっくり。 れいむの言葉を信じきり、それに従います。 もっともれいむ自身も本当に、何故こうなったか理解していないのですが。 ともかく、緊急事態につき、まりさのれいむヘイトは中断です。 一緒に協力することになりました。 *** 「ゆう、シロップさんがなくなっているよ……」 ちぇんと一緒にキッチンの机を探索していたれいむでしたが、赤い小瓶の中身がなくなっていたのです。 近くに赤い餡子さんがありましたが、今のぱちゅりーでは食べることができないでしょう。 「どうしよう……」 れいむが途方にくれていたときでした。 「れいむ! みつけたよー!」 ちゃんが何かを見つけたようです。 声の方に跳ねて行くれいむですが、ちぇんの示すものを見ても〈首をかしげる〉だけです。 そこにあるのがあまあまではなく、ガラス製の円筒上の容器だったからです。 「ゆ?」 「これはねー、中からあまあまさんがでてくる魔法の入れ物なんだよ。」 疑問を声に出すれいむですが、ちぇんは自信満々でした。 それだけ言うと、周りのものを足場にして器用によじ登り、その容器のなかに着地します。 「あれー、何もないよー! わからないよー!」 「ゆう、わからないのはこっちだよ、ぷんぷん! ――ゆっ! こんなところにスイッチさんがあるよ!」 れいむが何か見つけたようです。 「わかったよ! そのスイッチさんを押してねー! そう言えばお姉さんも、あまあまさんを出す前にスイッチさんを押してたよー!」 「ゆっくり理解したよ!」 そういって、ちぇんの指示に従いスイッチを入れるれいむ。 ギュイーン!! その刹那、轟音。 全身が聴覚器官である、ゆっくりにとってはたまりません。 音に対する心の準備をしていなかったこともあり、れいむは即座に気絶してしまいました。 ちぇんにとってはもっと酷いものでした。 突然、轟音とともに足場が高速回転したかと思うと、その勢いで上空にはじき飛ばされたのです。 「わからな――ゆげっ、ゆごっ!」 叫び声をあげようとするも、途中で地面に叩きつけられます。 それだけならまだしも、地面にあったのは回転する鋭い刃です。 一瞬にして、ちぇんの〈あんよ〉はずたずたになってしまいました。 もうお気づきでしょう。 ちぇんが見つけた魔法の筒とは、ミキサーだったのです。 ミキサーに饅頭を入れれば、一瞬のうちにバラバラになりそうなものです。 しかし今回に限っては違いました。 長年使ってきたせいで刃はボロボロになり、モーター部分も半ば死に掛けていたからです。 加えてちぇんが飼いゆであるために、しっかりと中身がつまり、皮も丈夫だったことも災いしました。 少し刃にふれただけでは、中身を出し尽くして絶命することができなかったのです。 その結果、刃で〈あんよ〉を削られたちぇんは、回転の勢いで再び上空に弾き飛ばされます。 そして今度は〈せなか〉から落下して、〈せなか〉を削られまた上空へ。 そんな滑稽な――しかしちぇんにとっては死と苦痛のダンスを踊る羽目になりました。 しかも、壊れかけのモーターの回転はときどき静止します。 まるでちぇんの心を壊さないように、最後まで苦しむようにと手加減しているようでした。 「わからないよー! れいむ助けて! どうして無視するのー! れいむー!」 刃が止まる合間を縫ってれいむに助けを求めるちぇんでしたが、れいむは気絶しています。 助けられるはずがありません。 助けを求めるその行動は、決して助からないということを再認識させ、絶望を深くするだけでした。 「わからないよー!」 「わがらないよー!」 「わがらない゛よー!」 「わ゛がら゛な゛い゛よ゛ー!」 「わ゛がっ……!」 「わ゛……!」 「……!」 「……」 苦痛の叫びも、だんだん不明瞭になっていきます。 少しずつ〈おくち〉も削られていくからです。 ――そして、数分後。 カチリ! タイマーに従って、ミキサーが静止したとき、中にあるのは黒々とした液体でした。 「――ゆっ!」 れいむが目を覚ましたようです。 目の前をみれば、ガラスの容器の中になにやら黒い液体がみたされています。 ちぇんがいないのが気になりましたが、今はそれより〈あまあま〉です。 頑張って容器を倒すと、中の液体を舐めとります。 「しあわせー!」 液体を舐め取ったれいむは、本能に従っての声を上げます。 黒い液体は、〈ココアさん〉でした。 それも砂糖たっぷりの、とってもあまあまな〈ココアさん〉です。 しばらくは〈ココア〉に夢中となるれいむでしたが、ふとぱちゅりーのことを思い出します。 「ゆっ! ぱちゅりーに〈おくすり〉を持っていくんだったね! ゆっくり忘れてたよ。勝手ににいなくなるなんて、ちゃんはゆっくりしてないよ!」 勝手にいなくなったちぇんに文句を言いながらも、口に含めるだけの〈ココア〉を含んで ぱちゅりーの元へ跳ねてゆきました。 何か口に引っかかった気がしましたが、そんな事よりもぱちゅりーの方が大事です。 気にしないことにしました。 *** 「ゆっくり〈おくすり〉を持ってきたよ!」 口に〈ココア〉をいっぱいに含みながら、器用に声を上げます。 「ゆっ! なんとか間に合ったのぜ!」 そう言って、まりさは場所を空けます。 見ればちゅりーは「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」と痙攣を始めています。 際どいところでした。 れいむはゆっくりにしてはテキパキと、口移しでぱちぇに〈ココア〉を与えてゆきます。 そのお陰か、ぱちゅりーの痙攣は治まりました。 なんとか間に合ったようです。 ぱちゅりーの容態がひと段落したのを見て、安心した二匹でしたが、 まりさがちぇんがいないことに気が付きます。 「れいむ、一緒にいったちぇんはどうしたのぜ?」 「それがいきなりいなくなっちゃったんだよ! ぷんぷん!」 「そんなはずはないのぜ! ちぇんはそんな無責任な〈ひとでなし〉じゃないんだぜ!」 「そんなこと言っても、いなくなったものは、いなくなったんだよ! ゆっくり理解してね!」 そんな言い合いをしているときでした。 「ごふっ、げぼっ、えれえれ」 ぱちゅりーが〈ココア〉の一部を戻してしまいました。 一気に飲んだので、少し戻してしまったのです。 言い合いはひとまず置いといて、二匹はぱちゅりーに視線を向けます。 そこで見たのは想像を超えるものでした。 「ゆっゆあああああっ! ぱちゅりー、どうしてー!!」 「なっ、なんてことをするのぜ!」 二匹の視線の先にあるのは、ぱちぇの戻した〈ココア〉です。 そしてその上に浮かぶ〈キャベツのようなお帽子〉――ちぇんのお飾りです。 〈ココア〉と一緒にれいむから口うつしされたものの、喉にひっかかって吐き出したのです。 「ぱちゅりー、いくら助かるためだからって、ちぇんを食べるなんて……」 れいむは、何かおぞましいものを見たようにたじろきます。 まりさの反応はもっと過激でした。 「このゲスめっ!」 そう言って、ぱちゅりーに飛び掛ります。 「むきゅ、いったい何を言って……」 死の淵から戻ってきたばかりで、状況を把握していないぱちゅりーでしたが、 それを確かめる暇はありませんでした。 そもそも、ずっとまりさと一緒にいたのに、いつちぇんを食べたというのでしょう。 しかし、それを口にすることはできませんでした。 まりさの体当たりを受けたからです。 「むきゃっ!」 これはたまりません、悲鳴をあげてころがります。 しりごみしていたれいむでしたが、ちぇんの飾りを見ているうちに、恐怖は怒りに変わりました。 まりさと一緒になって、体当たりを仕掛けます。 「だから何を言ってるのか、分からな……」 「まだ言うの! ゲスは黙って死んでね!」 「れいむの言うとおりだぜ、ゆっくり死ね!」 「むぎゅっ!」 ぐしゃり! 哀れなぱちゅりーは、二匹のボディプレスを受けて潰れてしまいました。 その表情は無実を訴えて泣いていました。 それが癇に障ったのか、れいむは死体にむかって体当たりを続けています。 「このゲスゆ! よくもよくもちぇんを……ゆっゆっ、ゆわーん!」 感情を抑え切れなくなったのか、後半は泣きながら体当たりをしています。 「ちぇん、仇はとったのぜ」 一方のまりさは目をつぶり、今は亡きちぇんに語りかけます。 黙祷のつもりなのでしょう。 *** 「ゆぎゃああああっ!!」 そのときでした。 れいむの悲鳴が響きわたります。 「どうしたのぜ!」 まりさは驚いて、れいむに駆け寄ります。 見えばれいむの〈あんよ〉がざっくり裂けています。 その横に転がっているのは、ボールペンさん。 これが下手人でしょう。 「ぱちぇがれいむを道ずれにするために、罠を仕掛けていたんだよ……」 「なんてゲスなんだぜ!」 まりさは怒りをあらわにしますが、既にぶつける相手はこの世にいません。 怒りのやり場を失い、歯が折れてしまうのではないかという勢いで歯噛みをします。 もちろん、事実は単なるれいむの自爆です。 ぱちぇの死骸に体当たりを仕掛けている間に、ボールペンを踏んだだけです。 ついでに言えば、見た目こそ盛大なものの、れいむの怪我は大したことはありません。 確かに、動かなければエサをとれず、栄養状態も芳しくない野良ゆであれば致命傷でしょう。 しかし、飼いゆにとってはオレンジジュースで瞬時に直る怪我です。 仮にオレンジジュースがなくても、清潔でカビの心配のない室内で安静にしていれば、 半日もあれば治ってしうでしょう。 ですが、まりさは元野良です。 同じような怪我をして、命を落としていったゆっくりをあまた見てきました。 まりさからすれば、これは絶望的な怪我なのです。 対するれいむの方も、妙な反応をしていました。 「れいむはもう駄目だよ……。あんよさんをやられちゃったから。 ここで爆弾が爆発するのを見届けることにするよ。 れいむの代わりに、お姉さんに『ゆっくりしていってね!』って伝えて欲しいよ」 そういって、棚の上の置き時計を見つめています。 昨日、お姉さんと一緒に見た映画の影響なのでしょう。 れいむの中では、自分は最後の最後に命を落とす悲劇のヒロインなのです。 爆弾がどうこう言っているのは、ヒロインの命を奪ったのが時計に見せかけた爆弾だったからです。 「そんな弱気になるんじゃないぜ! まりさが〈おくすり〉を探してくるんだぜ! それまでじっとして待っているんだぜ!」 れいむが何を言っているのか、半分以上は分かりませんでした。 しかし、そもそも相手が何を言っているのか気にしないのがゆっくりです。 とりあえずれいむを勇気づけると、〈おくすり〉を求めて跳ねて行きました。 *** 「ゆう、やっと〈オレンジジュース〉さんをみつけたのぜ!」 まりさが目的のものを見つけたようです。 その表情は達成感で満たされています。 人間にとっては使いやすいキッチンも、ゆっくりにとっては違います。 人間を基準に設計されているので、全てが〈遥かな高み〉にあるからです。 ちょとシンクを覗こうにも、そこまで行くには引き出しの取っ手を足場にフリークライミングです。 机の上に登るためには、足置きから椅子へ、椅子からその背もたれへのアスレチックです。 それでもまりさはやり遂げました。 (れいむを助けるんだぜ!) その思いの勝利でしょう。 まりさの目の前には、黄色い液体の入ったガラス瓶があります。 〈オレンジジュース〉さんです。 果汁100%と書いてあるので確実でしょう。 もっとも、まりさには100(=たくさん)という部分しか読めませんでしたが。 「しかし、疲れたのぜ……。」 とはいえ疲れは、隠し切れません。 「何かゆっくりできるものは……。ゆ! こんなにあるんだから、少し分けてもらっても 問題ないんだぜ! めいあんっ! なんだせ!」 確かに〈オレンジジュース〉は沢山あります。 れいむには悪いけど、一足先に〈ごーくごーく〉させてもらうことにしました。 「ごーくごーく、しあわ――ぶべっ!」 〈オレンジジュース〉を飲んだとたん、それを噴き出してしまいました。 少量の餡子も一緒に吐いています。 「すっぱいいいいいっ!」 そう言って、机の上を転げまわります。 まりさの見つけた〈オレンジジュース〉の瓶、あれは確かに果汁100%の“ジュース”だったのですが、 飲むためのものではありませんでした。 瓶にはまりさに読めない漢字とカタカナでこう書いてあります。 “料理用レモン果汁、安心の果汁100%”と。 「ゆう、ゆうっ、ひどい目にあったんだずふぇ……。 ふぉふぉしふぇ、ふぁりふぁふぉふぁふぁんふぉれふぉうふぉ! (どうして、まりさの歯さんとれちゃうの!)」 やっとすっぱさが治まったまりさですが、悲劇は終わりません。 レモンの酸味によって、砂糖細工の〈歯〉が溶け落ちてしまったのです。 これでは二度と〈むーしゃむーしゃしあわせ〉ができませんし、まともに喋ることもできません。 たとえエサを含んだまま話せるゆっくりといえど、歯が無くてはまともに発音できないのです。 (なんてことするの! 意地悪な〈オレンジジュース〉さんは、ゆっくり死んでね!) 不明瞭ながらもそう言って、レモン果汁の瓶に体当たりをします。 しかし、そんなことをしても意味はありません。 そればかりか、瓶が倒れた勢いで中身が飛び散り、まりさの〈おめめ〉に直撃しました。 (ぎゃあ! いたいいぃっ!) これはたまりません。 人間さんでも痛いのですから、ゆっくりにとっては言わずもがなでしょう。 あまりの痛みに、悲鳴とともに転げまわります。 ぐちゅりっ! やわらかいものを踏む感触、それに続いて何か嫌な音がします。 何かゆっくりできない予感がしたまりさは、痛みをこらえて振り向きます。 そこにあったのは、潰れて変形した白玉でした。 まりさの〈おめめ〉です。 特に多くのレモン果汁を浴びた左目が、機能を失って外れてしまったのです。 (ゆあああああっ! まりさのおめめさん、元に戻ってね! ぺーろ、ぺーろ!) それの正体に気が付いたまりさは〈ぺーろ、ぺーろ〉しますが、もはや後の祭りです。 ここまで潰れては、眼窩に戻してオレンジジュースをかけても治らないでしょう。 悲劇は終わりません。 まりさのただでさえ狭い視界が、さらに狭くなりました。 いや、狭くなるというよりは、暗くなると言うべきでしょう。 排出し切れなかったレモン果汁が、まりさの〈生命力〉を侵食しているのです。 ゆっくりに対して、〈酸味〉は〈辛味〉ほど強烈な効果をもちませんが、その分じわじわと侵食して、 その対象の名に相応しいゆっくりさで苦しめ続けます。 〈ゆっくりのレモン煮込み〉が他に類をみないコクと甘さを誇るのは、このような理由です。 (苦しいよ、つらいよ。いっそ〈永遠にゆっくり〉してしまいたいよ……。 ――ゆっ、これは! 〈あまあま〉さん!) しかし、ゆっくりの神はまりさを見捨てませんでした。 苦しみの中でころげ回っていたまりさの舌に、〈あまあま〉な液体が触れたのです。 (ごーく、ごーく。しあわせー!) 死の淵ぎりぎりで〈ゆっくりの命〉そのものである〈あまあま〉を手に入れたまりさは、 必死にそれを貪ります。 取り戻される明瞭な思考と視界、そして無意識に発する言葉。 かつてこんなに満たされたことはあっただろうか――その言葉は魂の奥底からの叫びでした。 (ありがとう、あまあまさん!――――) やっと心の底から〈ゆっくり〉できたまりさは、自分を助けてくれたモノに目を向けます。 それは真っ黒な〈ココア〉でした。 〈ココア〉はガラス製の円筒状の容器からこぼれています。 その底には、バラバラになった緑色の布切れがぷかぷかと浮いていました。 (――――ちぇええええええぇえんっ!) その瞬間――まりさは全てを悟りました。 ちぇんがミキサーで粉々にされたこと。 それをやったのはれいむであろうこと。 ぱちゅりーは濡れ衣をきせられていたこと。 それを知らず自分が潰してしまったこと。 そしてなにより―― ――自分がちぇんを食べてしまったことを。 (ゆあああああああっ! ちぇん、ちぇん、ちぇええええんっ! ごめんね、ごめんね、ごめんね! まりさ、まりさ、まりさは! ちぇんを食べちゃった! 食べちゃったんだよ! しかも、ごーく、ごーく、しあわせって! しあわせー、しあわせ、しあわせーっ! ゆふふふ! そうそう、そうなんだよ、まりさはしあわせなんだよ! ちぇんをごーく、ごーくして! ゆふふふ! まりさはちゃんを食べちゃった! ゆふ、ゆふふふ! ゆふ、ゆふふふ! ゆふ、ゆふふふふふふふふふふふ……) もはやそこにいたのは、一見冷たくても根は優しいまりさではありませんでした。 自分のしでかしたことに耐え切れなかった、哀れなゆっくりの成れの果て。 奇妙な声で笑う一匹の――いや、一個のまんじゅうでした。 *** 「ただいま。みんな良い子にお留守番できたかな――」 帰ってきたお姉さんと、そのお友達の見たものは惨劇でした。 まず目に入ったのが〈あんよ〉を怪我して動けなくなったれいむ。 しかし、他に比べればささいなものです。 真っ赤に染まった〈餡子ペースト〉。 潰れた〈シュークリーム〉。 緑色の破片のの浮く〈ココア〉。 奇声を発する〈まんじゅう〉。 『…………ゆっくりだけで、お留守番をさせた結果がこれだよ!』 お姉さん達はそろって頭を抱えると、天を仰ぎました。 *** 「今日は怖い思いさせちゃってゴメンね」 「ゆっ、なんのこと? 今日も一日、平和だったよ?」 お留守番のせいで、危ない目に合わせた事を謝るお姉さん。 ですが、れいむの反応は的外れです。 それもそのはず、ゆっくりにとってあの程度のことは日常茶飯事。 今日あった程度の事件など、キレイさっぱり忘れています。 いや、むしろ忘れなければトラウマだらけになってしまい、生きてゆけないのでしょう。 もっともそれが〈餡子脳〉と蔑まれる原因であり、また学習しない要因でもあるのですが。 「……まあいいわ。それよりお土産かってきたわよ」 「ゆわーい! おみやげさんは、ゆっくりできるよ! ゆゆっ、パインサラダさんにステーキさん! とってもゆっくりできるね!」 果たして、このあとこのれいむが天寿を全うできるのかどうか。 それは正に神のみぞ知る事でしょう。 何しろゆっくりにとって〈死亡フラグ〉はそこかしこに転がっている ――いやゆっくりであることそのものが〈死亡フラグ〉なのですから。 ともあれ、れいむの平和な一日はこれでおしまいです。 -The End- 全編を通しての今回のテーマは「飼いゆに迫る日常の危険」でした。 前編が「ゲスとその駆除」、後編が「餡子脳に起因する自爆」となっています。 ちなみに裏テーマは「連鎖」と「フラグ」だったりします。 あと一発ネタで出した、うどんげとお兄さんへの反応にびっくりです。 この後、どうしようかしらん。 いままで書いたもの [1]ふたば系ゆっくりいじめ 421 みんなの幸せのために [2]ふたば系ゆっくりいじめ 422 黒色の魔法 [3]ふたば系ゆっくりいじめ 489 れいむの平和な一日(前編)
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/1065.html
「ゆっくりちくろ」 ある男がゆっくりを求めて山へ入った。 ゆっくりが幻想郷の甘味事情を一変させて随分と経つ。 加工所による廉価で安定した供給は、芋や果実では味わえない濃い甘さを庶民の手に届くようにしたが、 日々食べるとなれば滅多に食べれない頃とは味も変わってくる。 昔は甘味と言えば滅多に食べれないからこそとんでもなく甘く、売るほうも塩を入れて少ない砂糖で甘く感じさせたり、 どぎついほどに甘い物が高級品として出回ったものだが、毎日食べれるほどに普及した今では、甘さ控えめでいくつでも食べられる味が人気だ。 しかし男はそれでは満足できなかった。頭が割れるような強烈な糖分の塊が欲しかった。 そのためには自分で作るしかない。 開けたところに出るとゆっくりがいた。近づくと 「ゆゆ!にんげんがきたよ!」 「ゆっくりにげるよ!」 などと声がする。 「まりさがおとりになるからみんなはゆっくりいそいでね!」 そう言って一匹のまりさがこちらへ向かってきた。作戦を自分でばらしているのでは世話がない。 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ……ぜ!ば、ばかなにんげんはさっさとでていくんだぜ!」 近づいた後、人間の手が届かない所でとび跳ねながら挑発してくるまりさ。演技は大根だ。 男が目線を上げると、群れが右手の雑木林に入って行くところだった。 「なにそののろさ。うんちなの?しぬの?くやしかったらまりさをつかまえてみるんだぜ!」 男が歩きだすと大げさなほど後退して挑発し、誘うように左手へ跳ねていく。 (せめて口に出して言わなければなあ) そう思いながら男はまりさを無視して群れが消えた雑木林へ向かう。 「どぼじでそっぢにいぐのおおおお!?」 シカトされたまりさが口調も忘れて叫ぶ。 「まりざはごっぢなんだぜえええ!?ばがにずるまりざをいじめてみるんだぜええ!?」 男は顔も向けず、ゆるゆると雑木林に近づいていく。 まりさは必死に跳ねて追いつくと、ぼよんぼよんとコミカルな音を立てて男の足に体当たりをした。 「そっぢにはなにもないんだぜ!?まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?」 男が歩くたびに蹴られることになりながら、まりさはまとわりつくのを止めない。転がってもすぐさま向かってくる。 雑木林に入ると逃げたはずのゆっくり達がいた。 「まりさがにんげんをひきつけてくれるかられいむたちはゆっくりできるよ!」 「ゆっくりー♪」 どうやらまりさの囮で安心していたらしい。警戒も怠ってゆっくりしている。 「みんなにげでええええええ!」 まりさの声でれいむが視線を上げると、騙したはずの人間と、土で汚れたまりさがいた。 「俺は饅頭が食いたい。一匹差し出すなら他の奴らは見逃してやろう」 男は群れの前でそう告げる。 男が目の前に現れた時は狂乱状態になったが、逃げ出そうとする奴らは 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 条件反射の硬直時間を利用して手近な枝で串刺しにされた。 「逃げたら刺す」 比較的賢いゆっくりの集まりなのか、逃走が不可能と知るとおとなしくなった。 一人差し出せば、他全員の命が助かる。ゆっくりに対しては破格の条件と言えた。では、誰が犠牲になるか。 「おにいさん!さっきはごめんなさい!おわびにまりさをたべてね!」 そう言って真っ先に声を上げたのがおとりになったまりさだった。挑発の必要がなくなったからか、だぜ口調ではなくなっている。 「まりざだめえええ」 れいむが泣いて抗議をする。 「ゆ!れいむ!むれのみんながみつかったのはまりさのせきにんだよ!れいむはまりさのぶんもゆっくりしてね!」 「まりさはむれのためにきけんなおとりをやってくれたよ!これいじょうぎせいにならなくていいよ!」 群れ全体が沈痛なムードに包まれる。さながら出征の壮行会。 「あー悪いんだけどな」 「ゆ?」 「お前は土で汚れてるから駄目」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 まりさの泣き顔が歪む。いったん決まりかけた安堵感を奪われ、群れのゆっくりたちの顔には戸惑いが浮かぶ。 まさか、自分が食べられなくてはいけないのか。原始的な恐怖は餡子脳を縛るには十分過ぎた。 群れのゆっくりはどれも平均より清潔で丸々としていた。どれを食べても当たりが期待できる。 「そっちで選べないんなら勝手に選ぶぞ」 「おにいさん、れいむをたべてね!」 沈黙に痺れを切らせた男がそう声をかけると、弾かれるように先程のれいむが叫んだ。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 「れいむいっぢゃだめえええ!」 「ぢんぼおおおおお!?」 「むぎゅうううう!?」 「おねーしゃんちんじゃやだあああ!」 随分と信望があるれいむなのか、群れ全体が怒号を発して引き止める。そんな群れを慈しみをこめた目で見渡したあと、 れいむは男に向き直った。 「おにいさん!れいむならだいじょうぶだよね!?これでむれのみんなはゆっくりできるんだよね!?」 「直接危害は加えん」 そう返事をしてれいむを掴み、帰ろうとする。外では手も汚いし、携行の飲料水も乏しい。 「みんな、ゆっくりしていってね!」 「「ゆ、ゆっくりしていってね!」」 「むきゅん!だめよ!」 愁嘆場に背を向けたところ、物言いがついた。 「このばでたべてくれないとにんげんはしんじられないわ!」 「なにをいっでるのばちゅりぃぃぃ!?」 すわ身代りかと思えば予想外の抗議に、まりさは信じられないといった形相で叫ぶ。 「みんなよくきいて!にんげんはずるがしこいのよ!たべたあとににげたからってうそをついてまたくるかもしれないのよ! つらいけどむれのあんぜんのためにはみんながれいむはきちんとたべられたというしょうにんになるしかないの!」 「そんな……」 なんという猜疑心。その気ならば嘘をつかずに一斉に捕まえれば済むだけなのだが、第一ゆっくり相手の約束なんざ人間の温情で 成立しているようなものなのだが、気を回す割りにはその辺の前提がすっぽり抜けている。所詮饅頭の知恵。 男は腹が減っていることは確かだったので、適当に塵を払ってかぶりつく。 「ゆっ……!」 れいむの押し殺した声が聞こえた。さらりとした上品な甘さ。美味いが、この程度なら人里で買えば済む。 「あんま美味くないなあ」 「れいむがおいしくないわけないでしょおおお!!!」 男のつぶやきに、まりさがどこかずれた反論を叫ぶ。 この短時間に感情の振幅が激しかったためか、髪が乱れて目の輝きが尋常ではない。 あちらを素直に食っておけばよかったかと思ったが、約束したのでれいむを食うことにする。しかし甘みが足りない。 ゆっくりは苦痛を味わうほどに甘くなるらしいが、汚れた手で餡子をいじりたくないし髪飾りもきちんと味わいたい。 仲間を殺すさまを見せるのがスタンダードだが、約束したのでそれも出来ない。 傷を付けずに苦痛を味あわせる方法。設備もない野外で出来ることは何か。野外だからこそ出来ることは何か。 『まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?』 「あ」 思いついた。 「なあれいむ。お前の家に案内してくれないか?」 巣は目の前にあった。上手いこと根の隆起を利用して屋根にした穴だった。 中にゆっくりがいればともかく、単体としてはただの気にも留めない深めの穴だ。 奥をのぞいてみると滑らかな石や昆虫の死骸が貯め込まれていた。 「ここがれいむのおうちかあ」 男は意識して柔らかいしゃべり方で話しかける。 「大きくて住みやすそうだね。作るの大変だったろう?」 「うん……まりさもてつだってくれて、ふたりで……」 痛みに堪えながら、かじられた頬が動かぬよう小声でれいむが答える。 「まりさは一緒に住んでないの?」 「むきゅ!けっこんしてないふたりがおなじやねのしたにいるのはふうきがみだれるわ!」 ラブコメの外野のようなことを言うぱちゅりー。 あれだけ仲がいいのにつがいではないということは、大きさでは分からないがまだ成熟し切ってないのだろう。 甘みが少ないわけが納得できた。ともあれ、 「もう誰も住まないなら壊していいよね」 そう言って、足で穴を崩していく。 「れいむのおうちがあああ!」 「でいぶとまりざのだからものがああ!」 叫ぶと共にこぼれる餡子を受け止め、舐める。甘さが強くなったが、まだ足りない。 もっと悪魔のように黒く天使のように純で、まるで恋のように甘くなければ駄目だった。 土が宝物の石も昆虫も埋めていく。淵を削って落とし、深い穴が広く浅いくぼみに変わったところでよく踏んで均す。 「おもいでのだからものおおおお!」 半狂乱で掘りかかろうとするまりさ。しかし踏み固められた地面は簡単には掘り進めない。 穴掘りに夢中になっているまりさは放っておいて、男は群れの一同に語りかける。 「なあみんな。これでれいむとお別れだ。何か言っておくことはないかな?」 「れいむ、いままでありがとう……」 「みんな……」 「いやそんなんじゃなくてね」 「「?」」 「今まで気を遣って言えなかった不満、無いかな?」 「れ、れいむはまりさといちゃいちゃしすぎよ!ふしだらだわ!」 「れいむにふまんなんてないよ!」 と言っていた一同だったが、 「れいむがおいしくないと他の子も食べちゃうかもなあ」 と脅すと、口火を切ったのはぱちゅりーだった。それでもまだ注意するような物言いだ。 「とかいはにいわせてもらえばれいむはまりさにたよりすぎよ!こんかいだってもっとおくまでにげていればよかったのよ! それをれいむがあんぜんだっていうから……いうがらああああ!ぁぁあれいむじなないでぇぇええ」 責めてると思ったら泣き出すアリス。これなんてツンデレ?それも次の告発で終わる。 「おねーしゃんはまりしゃたちにおやつはきまったじかんにっていってるのに、よるまりしゃおねーしゃんとこっそりたべていてずるいよ!」 「なんでじっているのおおぅ!?」 「どういうことよれいむうううう!」 「あいびきだねわかるよー」 「まりざはわたざないがらあああ!れいむがいなくなったあどひとりじめするがらああああ!」 死にゆく者にムチ打つありす。 「むきゅ!れいむ!つごうのいいときだけるーるをおしつけるようではわるいこよ!」 追討ちをかけるぱちゅりー。 「わるいこがたべられるのはじごうじとくだねー、わかるよー」 本当に分かっているのか傷口に塩を塗り込むちぇん。 「ちぃーんぽっ」 もはや何言ってんだか人間では分からないみょん。 「「ゆっくりしんでいってね!」」 逢引が発覚しただけでこの言われよう。果たしてまりさはどれだけのフラグを立てていたのか。 さっきまではれいむは命がけで群れを救おうとする尊い犠牲だったのに、今では公開処刑、吊るし上げである。 「れいむ!たからものをほりかえしたよ!まりさはれいむのことをずうぅっとわすれないよ!」 天然スケコマシがやりとげた笑顔で戻ってきた。しかし離れていたうちに急変した場の雰囲気についていけない。 「どぼじでみんなれいむのわるぐちいっでるのおおおおお!?」 「まりさ!おいしくないれいむがわるいんだよ!」 「むきゅ!くるしむとおいしくなるということは、おいしくないれいむはくるしんでなかったのね!」 「れいむほどゆっくりしてるゆっくりがおいしくないわけないでしょおおおお!?」 「いいおもいばかりしてるわるいゆっくりなんだねー。わかるよー」 「おばえらにでいぶのなにがわがるっでいうんだあああああ!」 矢継ぎ早にれいむを罵倒されたまりさは声を張り上げて仲間に襲いかかった。 「おいしくなくてごめんなさい……おいしくなくてごめんなさい……」 れいむは泣きながら謝り続けている。そろそろいいかと餡子を舐めてみる。脊髄に衝撃が走るほどに甘い。かなりいい感じだ。 だがもうちょっといけそうか? 「れいむ。見てごらん。まりさが暴れてるよ」 そう声をかけると、れいむの目の焦点が定まる。 「まりさっ!?」 まりさは複数の仲間に体当たりを繰り返していた。ぱちゅりーは一撃で中身をこぼし、ありすとちぇんがまりさの攻撃を受け止めている。 「ちーんぽっ」 その隙にみょんが頭上からのしかかり、押さえつけた。 「まりさ!わるいのはれいむなの!」 「れいむはなに゛もわ゛るぐないいいい!」 「わるいの!おいしくないれいむはくるしんでないずるいゆっくりなの!」 「れいむ。助けたかった仲間が死にそうだねえ」 「ゆゆ!?」 「ほら、ぱちゅりー。体弱いんだろ?」 二匹だけの世界に入っていたところを引き戻す。ようやく瀕死状態のぱちゅりーに気付いたようだ。 「ああああ゛ぱちゅりぃぃぃぃ!どおじでえ゛え゛え゛え゛」 滂沱の涙で手が濡れる。甘ったるい匂いはシロップか。 「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆっくりばっかりしているわるいれいむでごめんなさい!おいしいものたべててぼめんなさい! まりざといっじょにたべたぢょうぢょざんおいじがったですうう!おはなさんはなんでもおいじがっだですうう! つめたいおみずおいじがったでずうう!でいぶはどろみずがおにあいでしだあああ!」 どこかのマラソン選手を彷彿とさせる言葉を発し始めたれいむ。その餡子を男は鬼気迫る形相で食らう。 甘い、甘いぞ。既に舌の感覚がなくなるほどなのに、舐めるたびに甘みが毒々しく舌を打つ。甘過ぎて頭痛がする。 それでいて瑞々しく、食べるたびに喉の渇きが癒される。 「おうちにすめててごめんなざい!まりざにてづだわぜでごめんなざい!れいむはまりざをひどりじめしようどしていたわるいこでずうう! ともだぢがいてごめんなざい!みんなでずるひなたぼっごぎもちよかったですうう!あかちゃんたちかわいかったですうう! いっばいおうだをうだってゆっぐりしまじだあああ!ありずどばちゅりぃぃ、めいわくかけてごめんなさいいい! ちぇんとみょん、いつもおぞくであじをひっばっでごめんなざい!!れいむはみんなどながよぐできでてじあわぜでじたあああ!」 走馬灯のような懺悔が紡がれるたびに、騒いでいた群れが静かになる。れいむがどれだけ自分たちのことを大事に思っていたか分かったのだ。 そのれいむに、ひどいことを言ってしまった。 「ごめんなさい!れいむのことわるいゆっくりっていってごめんなさい!」 「うまれでぎでごめんんざいいい!いづもあまえででごべんなざいいい!」 詫びの言葉は届かない。れいむが錯乱状態にあるのはもちろんのこと、恐ろしい速さで男がれいむを貪っているからである。 既に顔面とそれに付随する餡子しか残っていない。それも一口で噛み砕かれる。最期におかあさんとだけ残して、れいむは男の腹に消えた。 男が我に返ると残りのゆっくり達が汚れたまま放心していた。 ぱちゅりーは死亡。まりさも強く押さえつけられて瀕死。ありす、ちぇん、みょん、とばっちりを受けて子ゆっくりもぼろぼろだ。 存在すら忘れられていた、串刺しにされたゆっくりもいる。かつての清潔さと福々しさは見る影もない。 どうしてここまでこの群れは崩壊してしまったのだろう。俺はただ美味しいお菓子が食べたかっただけなのに。 そう思いながら今度こそ男はその場を後にした。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1956.html
「ゆっくりちくろ」 ある男がゆっくりを求めて山へ入った。 ゆっくりが幻想郷の甘味事情を一変させて随分と経つ。 加工所による廉価で安定した供給は、芋や果実では味わえない濃い甘さを庶民の手に届くようにしたが、 日々食べるとなれば滅多に食べれない頃とは味も変わってくる。 昔は甘味と言えば滅多に食べれないからこそとんでもなく甘く、売るほうも塩を入れて少ない砂糖で甘く感じさせたり、 どぎついほどに甘い物が高級品として出回ったものだが、毎日食べれるほどに普及した今では、甘さ控えめでいくつでも食べられる味が人気だ。 しかし男はそれでは満足できなかった。頭が割れるような強烈な糖分の塊が欲しかった。 そのためには自分で作るしかない。 開けたところに出るとゆっくりがいた。近づくと 「ゆゆ!にんげんがきたよ!」 「ゆっくりにげるよ!」 などと声がする。 「まりさがおとりになるからみんなはゆっくりいそいでね!」 そう言って一匹のまりさがこちらへ向かってきた。作戦を自分でばらしているのでは世話がない。 「ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ……ぜ!ば、ばかなにんげんはさっさとでていくんだぜ!」 近づいた後、人間の手が届かない所でとび跳ねながら挑発してくるまりさ。演技は大根だ。 男が目線を上げると、群れが右手の雑木林に入って行くところだった。 「なにそののろさ。うんちなの?しぬの?くやしかったらまりさをつかまえてみるんだぜ!」 男が歩きだすと大げさなほど後退して挑発し、誘うように左手へ跳ねていく。 (せめて口に出して言わなければなあ) そう思いながら男はまりさを無視して群れが消えた雑木林へ向かう。 「どぼじでそっぢにいぐのおおおお!?」 シカトされたまりさが口調も忘れて叫ぶ。 「まりざはごっぢなんだぜえええ!?ばがにずるまりざをいじめてみるんだぜええ!?」 男は顔も向けず、ゆるゆると雑木林に近づいていく。 まりさは必死に跳ねて追いつくと、ぼよんぼよんとコミカルな音を立てて男の足に体当たりをした。 「そっぢにはなにもないんだぜ!?まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?」 男が歩くたびに蹴られることになりながら、まりさはまとわりつくのを止めない。転がってもすぐさま向かってくる。 雑木林に入ると逃げたはずのゆっくり達がいた。 「まりさがにんげんをひきつけてくれるかられいむたちはゆっくりできるよ!」 「ゆっくりー♪」 どうやらまりさの囮で安心していたらしい。警戒も怠ってゆっくりしている。 「みんなにげでええええええ!」 まりさの声でれいむが視線を上げると、騙したはずの人間と、土で汚れたまりさがいた。 「俺は饅頭が食いたい。一匹差し出すなら他の奴らは見逃してやろう」 男は群れの前でそう告げる。 男が目の前に現れた時は狂乱状態になったが、逃げ出そうとする奴らは 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 条件反射の硬直時間を利用して手近な枝で串刺しにされた。 「逃げたら刺す」 比較的賢いゆっくりの集まりなのか、逃走が不可能と知るとおとなしくなった。 一人差し出せば、他全員の命が助かる。ゆっくりに対しては破格の条件と言えた。では、誰が犠牲になるか。 「おにいさん!さっきはごめんなさい!おわびにまりさをたべてね!」 そう言って真っ先に声を上げたのがおとりになったまりさだった。挑発の必要がなくなったからか、だぜ口調ではなくなっている。 「まりざだめえええ」 れいむが泣いて抗議をする。 「ゆ!れいむ!むれのみんながみつかったのはまりさのせきにんだよ!れいむはまりさのぶんもゆっくりしてね!」 「まりさはむれのためにきけんなおとりをやってくれたよ!これいじょうぎせいにならなくていいよ!」 群れ全体が沈痛なムードに包まれる。さながら出征の壮行会。 「あー悪いんだけどな」 「ゆ?」 「お前は土で汚れてるから駄目」 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 まりさの泣き顔が歪む。いったん決まりかけた安堵感を奪われ、群れのゆっくりたちの顔には戸惑いが浮かぶ。 まさか、自分が食べられなくてはいけないのか。原始的な恐怖は餡子脳を縛るには十分過ぎた。 群れのゆっくりはどれも平均より清潔で丸々としていた。どれを食べても当たりが期待できる。 「そっちで選べないんなら勝手に選ぶぞ」 「おにいさん、れいむをたべてね!」 沈黙に痺れを切らせた男がそう声をかけると、弾かれるように先程のれいむが叫んだ。 「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」 「れいむいっぢゃだめえええ!」 「ぢんぼおおおおお!?」 「むぎゅうううう!?」 「おねーしゃんちんじゃやだあああ!」 随分と信望があるれいむなのか、群れ全体が怒号を発して引き止める。そんな群れを慈しみをこめた目で見渡したあと、 れいむは男に向き直った。 「おにいさん!れいむならだいじょうぶだよね!?これでむれのみんなはゆっくりできるんだよね!?」 「直接危害は加えん」 そう返事をしてれいむを掴み、帰ろうとする。外では手も汚いし、携行の飲料水も乏しい。 「みんな、ゆっくりしていってね!」 「「ゆ、ゆっくりしていってね!」」 「むきゅん!だめよ!」 愁嘆場に背を向けたところ、物言いがついた。 「このばでたべてくれないとにんげんはしんじられないわ!」 「なにをいっでるのばちゅりぃぃぃ!?」 すわ身代りかと思えば予想外の抗議に、まりさは信じられないといった形相で叫ぶ。 「みんなよくきいて!にんげんはずるがしこいのよ!たべたあとににげたからってうそをついてまたくるかもしれないのよ! つらいけどむれのあんぜんのためにはみんながれいむはきちんとたべられたというしょうにんになるしかないの!」 「そんな……」 なんという猜疑心。その気ならば嘘をつかずに一斉に捕まえれば済むだけなのだが、第一ゆっくり相手の約束なんざ人間の温情で 成立しているようなものなのだが、気を回す割りにはその辺の前提がすっぽり抜けている。所詮饅頭の知恵。 男は腹が減っていることは確かだったので、適当に塵を払ってかぶりつく。 「ゆっ……!」 れいむの押し殺した声が聞こえた。さらりとした上品な甘さ。美味いが、この程度なら人里で買えば済む。 「あんま美味くないなあ」 「れいむがおいしくないわけないでしょおおお!!!」 男のつぶやきに、まりさがどこかずれた反論を叫ぶ。 この短時間に感情の振幅が激しかったためか、髪が乱れて目の輝きが尋常ではない。 あちらを素直に食っておけばよかったかと思ったが、約束したのでれいむを食うことにする。しかし甘みが足りない。 ゆっくりは苦痛を味わうほどに甘くなるらしいが、汚れた手で餡子をいじりたくないし髪飾りもきちんと味わいたい。 仲間を殺すさまを見せるのがスタンダードだが、約束したのでそれも出来ない。 傷を付けずに苦痛を味あわせる方法。設備もない野外で出来ることは何か。野外だからこそ出来ることは何か。 『まりざのおうぢはむこうなんだぜええええ!?』 「あ」 思いついた。 「なあれいむ。お前の家に案内してくれないか?」 巣は目の前にあった。上手いこと根の隆起を利用して屋根にした穴だった。 中にゆっくりがいればともかく、単体としてはただの気にも留めない深めの穴だ。 奥をのぞいてみると滑らかな石や昆虫の死骸が貯め込まれていた。 「ここがれいむのおうちかあ」 男は意識して柔らかいしゃべり方で話しかける。 「大きくて住みやすそうだね。作るの大変だったろう?」 「うん……まりさもてつだってくれて、ふたりで……」 痛みに堪えながら、かじられた頬が動かぬよう小声でれいむが答える。 「まりさは一緒に住んでないの?」 「むきゅ!けっこんしてないふたりがおなじやねのしたにいるのはふうきがみだれるわ!」 ラブコメの外野のようなことを言うぱちゅりー。 あれだけ仲がいいのにつがいではないということは、大きさでは分からないがまだ成熟し切ってないのだろう。 甘みが少ないわけが納得できた。ともあれ、 「もう誰も住まないなら壊していいよね」 そう言って、足で穴を崩していく。 「れいむのおうちがあああ!」 「でいぶとまりざのだからものがああ!」 叫ぶと共にこぼれる餡子を受け止め、舐める。甘さが強くなったが、まだ足りない。 もっと悪魔のように黒く天使のように純で、まるで恋のように甘くなければ駄目だった。 土が宝物の石も昆虫も埋めていく。淵を削って落とし、深い穴が広く浅いくぼみに変わったところでよく踏んで均す。 「おもいでのだからものおおおお!」 半狂乱で掘りかかろうとするまりさ。しかし踏み固められた地面は簡単には掘り進めない。 穴掘りに夢中になっているまりさは放っておいて、男は群れの一同に語りかける。 「なあみんな。これでれいむとお別れだ。何か言っておくことはないかな?」 「れいむ、いままでありがとう……」 「みんな……」 「いやそんなんじゃなくてね」 「「?」」 「今まで気を遣って言えなかった不満、無いかな?」 「れ、れいむはまりさといちゃいちゃしすぎよ!ふしだらだわ!」 「れいむにふまんなんてないよ!」 と言っていた一同だったが、 「れいむがおいしくないと他の子も食べちゃうかもなあ」 と脅すと、口火を切ったのはぱちゅりーだった。それでもまだ注意するような物言いだ。 「とかいはにいわせてもらえばれいむはまりさにたよりすぎよ!こんかいだってもっとおくまでにげていればよかったのよ! それをれいむがあんぜんだっていうから……いうがらああああ!ぁぁあれいむじなないでぇぇええ」 責めてると思ったら泣き出すアリス。これなんてツンデレ?それも次の告発で終わる。 「おねーしゃんはまりしゃたちにおやつはきまったじかんにっていってるのに、よるまりしゃおねーしゃんとこっそりたべていてずるいよ!」 「なんでじっているのおおぅ!?」 「どういうことよれいむうううう!」 「あいびきだねわかるよー」 「まりざはわたざないがらあああ!れいむがいなくなったあどひとりじめするがらああああ!」 死にゆく者にムチ打つありす。 「むきゅ!れいむ!つごうのいいときだけるーるをおしつけるようではわるいこよ!」 追討ちをかけるぱちゅりー。 「わるいこがたべられるのはじごうじとくだねー、わかるよー」 本当に分かっているのか傷口に塩を塗り込むちぇん。 「ちぃーんぽっ」 もはや何言ってんだか人間では分からないみょん。 「「ゆっくりしんでいってね!」」 逢引が発覚しただけでこの言われよう。果たしてまりさはどれだけのフラグを立てていたのか。 さっきまではれいむは命がけで群れを救おうとする尊い犠牲だったのに、今では公開処刑、吊るし上げである。 「れいむ!たからものをほりかえしたよ!まりさはれいむのことをずうぅっとわすれないよ!」 天然スケコマシがやりとげた笑顔で戻ってきた。しかし離れていたうちに急変した場の雰囲気についていけない。 「どぼじでみんなれいむのわるぐちいっでるのおおおおお!?」 「まりさ!おいしくないれいむがわるいんだよ!」 「むきゅ!くるしむとおいしくなるということは、おいしくないれいむはくるしんでなかったのね!」 「れいむほどゆっくりしてるゆっくりがおいしくないわけないでしょおおおお!?」 「いいおもいばかりしてるわるいゆっくりなんだねー。わかるよー」 「おばえらにでいぶのなにがわがるっでいうんだあああああ!」 矢継ぎ早にれいむを罵倒されたまりさは声を張り上げて仲間に襲いかかった。 「おいしくなくてごめんなさい……おいしくなくてごめんなさい……」 れいむは泣きながら謝り続けている。そろそろいいかと餡子を舐めてみる。脊髄に衝撃が走るほどに甘い。かなりいい感じだ。 だがもうちょっといけそうか? 「れいむ。見てごらん。まりさが暴れてるよ」 そう声をかけると、れいむの目の焦点が定まる。 「まりさっ!?」 まりさは複数の仲間に体当たりを繰り返していた。ぱちゅりーは一撃で中身をこぼし、ありすとちぇんがまりさの攻撃を受け止めている。 「ちーんぽっ」 その隙にみょんが頭上からのしかかり、押さえつけた。 「まりさ!わるいのはれいむなの!」 「れいむはなに゛もわ゛るぐないいいい!」 「わるいの!おいしくないれいむはくるしんでないずるいゆっくりなの!」 「れいむ。助けたかった仲間が死にそうだねえ」 「ゆゆ!?」 「ほら、ぱちゅりー。体弱いんだろ?」 二匹だけの世界に入っていたところを引き戻す。ようやく瀕死状態のぱちゅりーに気付いたようだ。 「ああああ゛ぱちゅりぃぃぃぃ!どおじでえ゛え゛え゛え゛」 滂沱の涙で手が濡れる。甘ったるい匂いはシロップか。 「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆっくりばっかりしているわるいれいむでごめんなさい!おいしいものたべててぼめんなさい! まりざといっじょにたべたぢょうぢょざんおいじがったですうう!おはなさんはなんでもおいじがっだですうう! つめたいおみずおいじがったでずうう!でいぶはどろみずがおにあいでしだあああ!」 どこかのマラソン選手を彷彿とさせる言葉を発し始めたれいむ。その餡子を男は鬼気迫る形相で食らう。 甘い、甘いぞ。既に舌の感覚がなくなるほどなのに、舐めるたびに甘みが毒々しく舌を打つ。甘過ぎて頭痛がする。 それでいて瑞々しく、食べるたびに喉の渇きが癒される。 「おうちにすめててごめんなざい!まりざにてづだわぜでごめんなざい!れいむはまりざをひどりじめしようどしていたわるいこでずうう! ともだぢがいてごめんなざい!みんなでずるひなたぼっごぎもちよかったですうう!あかちゃんたちかわいかったですうう! いっばいおうだをうだってゆっぐりしまじだあああ!ありずどばちゅりぃぃ、めいわくかけてごめんなさいいい! ちぇんとみょん、いつもおぞくであじをひっばっでごめんなざい!!れいむはみんなどながよぐできでてじあわぜでじたあああ!」 走馬灯のような懺悔が紡がれるたびに、騒いでいた群れが静かになる。れいむがどれだけ自分たちのことを大事に思っていたか分かったのだ。 そのれいむに、ひどいことを言ってしまった。 「ごめんなさい!れいむのことわるいゆっくりっていってごめんなさい!」 「うまれでぎでごめんんざいいい!いづもあまえででごべんなざいいい!」 詫びの言葉は届かない。れいむが錯乱状態にあるのはもちろんのこと、恐ろしい速さで男がれいむを貪っているからである。 既に顔面とそれに付随する餡子しか残っていない。それも一口で噛み砕かれる。最期におかあさんとだけ残して、れいむは男の腹に消えた。 男が我に返ると残りのゆっくり達が汚れたまま放心していた。 ぱちゅりーは死亡。まりさも強く押さえつけられて瀕死。ありす、ちぇん、みょん、とばっちりを受けて子ゆっくりもぼろぼろだ。 存在すら忘れられていた、串刺しにされたゆっくりもいる。かつての清潔さと福々しさは見る影もない。 どうしてここまでこの群れは崩壊してしまったのだろう。俺はただ美味しいお菓子が食べたかっただけなのに。 そう思いながら今度こそ男はその場を後にした。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2340.html
前 「れいむ、ちょっといいかしら?」 毎晩恒例の会議が終わり、それぞれ自分たちの部屋に帰ろうとする中、側近ぱちゅりーがれいむを呼び止めた。 「ゆ? どうしたのぱちゅりー?」 「むきゅ……ちょっと、お話があるの……まりさとありすは先に寝ててね」 「ゆっくりわかったんだぜ! おやすみみんな!」 「ふたりとも! ねぶそくはびようによくないからむりしないではやくねるのよ!」 そういって部屋に戻っていく二匹を見送ると、二匹はゆっくりと洞窟の外へ向かった。 「ゆぅ~、ぱちゅりーったらふたりがいるのにだいたんすぎるよ~」 洞窟の外に出て早々に、れいむの態度が豹変した。 猫なで声……とでもいうのだろうか、実に気持ち悪い声でぱちゅりーに甘えだした。 実はこの二匹、こっそりと付き合っていたのである。 番いにならずに付き合うという形をとっていたのはれいむに前夫のまりさの子供たちがいるためだったが、二十匹の子供たちと当のれいむは浮気をした挙 句すっきりのしすぎで死んでしまった父まりさなど等に見限り、すっかりぱちゅりーを慕っている。 すでにこっそりと言いながらも、群れ一番賢いぱちゅりーと群れ一番子だくさんでやさしいれいむの関係にドスを除くほとんどのゆっくりが気が付いてい た。 「むきゅ~、実はれいむに話しておきたいことがあるのよ……」 「ゆ? どうしたの?」 「実はにんっしんしてるまりさ達なんだけど……」 「ゆ! あのあかちゃんがすごくゆっくりしてるまりさたちだね! きょうもみにいったらまたおおきくなってたよ!」 ぱちゅりーとれいむが言っているのは、あのお兄さんが改造したゆっくり達と同じ出産室にいた動物型妊娠のゆっくり達のことである。 あのゆっくり達はぱちゅりーの見たところ植物型出産のゆっくり達と同じ日に出産を迎える見立てだったのだが、あの地獄の出産劇の後もそういった気配 はなく、むしろ今まで以上にゆっくりとし、今まで以上の食糧をむさぼり、わずか二日で二倍近くまで肥大化していたのだ。 「ぱちゅりーの経験からすると、あのまりさ達の赤ちゃんはもう生まれてなくちゃいけないはずなのよ! それがまだ生まれていない上にあんなにふとっ ちゃってるのは……」 「ふとっちゃってるのは?」 「想像にんっしんに違いないわ!」 「な、なにそれえええええええ!?」 「むきゅ! 前の群れにもいたんだけれど、赤ちゃんが本当はできていないのに出来てるって言って、ぶくぶくと太っちゃうことなのよ!」 ぱちゅりーの言っていることは本来の想像妊娠とは違っているが、ゆっくりが想像妊娠した場合の餌の大量摂取と肥満はセットのようなものなので、ゆっ くりにとってはあながち間違いではない。 「ゆ! それはほんとうなの!」 「むきゅう…にんっしんしてからもうお日さまが二十回以上昇ったわ。あのまりさ達には赤ちゃんは生まれないのよ」 「ゆー! それじゃあみんながっかりするよ! あかちゃんがうまれるのたのしみにしてたのに!」 れいむの言うとおり、二日前の惨劇以来この群れのゆっくり達は動物型で妊娠している十匹のゆっくり達が赤ちゃんを産むのを楽しみにしていた。 ゆっくりするという行為に赤ん坊を眺めることを含めるゆっくり達にとっては、やはり普通に生まれた赤ちゃんを見たいという思いが強いのだろう。 「むきゅ! だからね……れいむ……ぱ、ぱちゅりーとれいむで赤ちゃんを作ってみんなを喜ばせましょうよ!」 この言葉にはれいむも驚いたようで、はっと目を見開いた。 いきなり子作りをしようと言われたのだから無理もないが。 「も、もちろんだいさんせいだよぱちゅりー! ゆっくりあかちゃんがうまれればみんなげんきになるよ!」 だがぱちゅりーの言葉と同じくらい素早くれいむは返事をしていた。 どうやらぱちゅりーがこういうのをずっと待っていたらしい。 「む……むきゅー! れ、れいむー!」 先ほどお兄さんと妖怪兎が賢い賢いとほめちぎっていた二匹とは思えない様子で交尾を始める二匹。 もともと自分たちが敷いたすっきり制限でいろいろと溜まっていたのだろう。 ぺにぺにのない二匹はお互いのモチモチとやわらかい頬をやわらかく、それでいて激しくすり合わせる。 「すーり! すーり! ぱ、ぱちゅりーのほっぺたすごくふわふわでゆっくりできるよー♪」 「むきゅぅ♪ れいむのほっぺたももちもちであったかいよぉ♪ すーりすーり♪」 ヌメヌメとした液体を体から染み出し、洞窟の前で交尾にいそしむ二匹のゆっくり。 今まで群れの体面や何やらですっきりできなかったのだから無理もないが、群れの仲間の出産状況を理由にすっきりするとは、この二匹ゲスの一面があっ たのかもしれない。 「ぱぱぱぱ、ぱちゅりー! もうがまんできないよー!」 「むむむむむむきゅー! ぱちゅりーもだよおおおおお!」 だからなのか、群れでトップクラスに賢く、群れでいちばん狩りのうまい二匹は交尾に夢中でついに気がつかなかった。 「「すっきりー!!!」」 自分たちの背後にいる…… 「むきゅう♪ れいむううううううう、ゆっくりした赤ちゃんよぉ!♪」 「ふとくてしっかりしたくきだね! これならゆっくりしたこがうまれるよぉ♪」 「むきゅぅ♪ おちびちゃんたちにも妹ができるね!」 「れいむはすごくうれしいよ! ゆっくりしたこにそだっ」 ぶちい!!!! 「むぎゅ!」 「あ、ああああああああああ! あがぢゃんがああああああああああ!」 一人の鬼意惨に。 「い~~~~~~い実ゆっくりだなあああああ! ちょっと貰うぞ!」 「むびゅうううううううううううううううう! ぱちゅりーのあがぢゃんがああああああああああああ!」 「ゆっぐぢでぎばいにぶげんはじねええええええええええええええ!!!」 久しぶりのすっきり。愛おしい相手との初めてのすっきり。その末に授かった赤ちゃん。 その茎を勢いよく引きちぎ李、恍惚の表情を浮かべるお兄さん。 光学迷彩を解いたその姿は、久しぶりの直接的な虐待にヘブン状態なのか全裸だった。 「その叫び声最高だよ! さすがお兄さんの大好きなド饅頭!」 そう叫ぶが否や、二匹のゆっくりの口に手を突っ込んで舌をつかんで持ち上げる。 「「んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」」 「兎からお前らを始末する許可はもらっている! すでにお前らの餓鬼どもも確保済みだあああああああああああああああああ!」 『私を”鬼意惨”と見込んで依頼を下さったのならば、信頼していただきたい』 『わかったウサ。幹部たちを殺して直接群れに介入するあなたの計画、了承するウサ』 そう、お兄さんが妖怪兎に許可を求めたのはぱちゅりー達を殺し、飾りを用いてゆっくりになりすまして介入するという、群れ虐待における非常にオーソ ドックスかつ危険なものだったのだ。 通常飾りで個体を識別し、飾りさえついていれば人間でさえ仲間と認識してしまうゆっくりだが、ドスまりさなどの比較的頭のいい個体には見分けられて しまう。 だが、一週間以上この群れを監視したお兄さんは気が付いていた。 この群れのぱちゅりーに対する過剰ともいえる期待と信頼に。そしてドスまりさの馬鹿さに。 だからこそ、ドスと幹部ゆっくりによる軋轢が生まれる前に群れをコントロール出来るこの手法を提言したのだ。 そして直接的な虐待のお墨付きをもらったお兄さんはヘブン状態になり、全裸に光学迷彩スーツを着込むとぱちゅりーとその恋人である幹部れいむを虐待 するために洞窟に向かったのだ。 そして鬼意惨と化したお兄さんの頭の中にあるのは、一週間以上にわたる幸せなゆっくり達を見続けたことにより溜まりに溜まったフラストレーション、 それだけである。 「なーにが依頼じゃ! なーにがじっくりじゃ! あの兎が勝手なこと言いやがって! 俺はもっとシンプルな虐待がしたいんだよ!」 「ばべでえええええええええええええ!」 「じだがいだいいいいいいいいいいいいいいいい!」 「今夜に限っては依頼は関係ねええええええええええええ! ひゃああああああああああ! 虐待だあああああああああああああああ!」 深夜二時。 ゆっくりの群れを虐めるために作られた森の中に、お兄さんの奇声が響き渡った。 そしてこの夜、森の賢者(笑)と称えられたぱちゅりーとれいむの地獄が始まった。 「ほらよ、ついたぜ!」 「ぶぎゅべ! むぎゅうううううううう!」 「いだいよおおおおお! ゆゆゆ!! ばがな”じじいばれいぶだじをおうじにがえじでね”! ……ゆ!?」 全裸のお兄さんに捕まれ小屋についた二匹が最初に見たのは、床にある真っ黒な塊とそれに生い茂る緑色の茎だった。 普通のゆっくりなら気がつかなかったかもしれないが、頭のいい二匹はすぐに気がついたようだ。 「おじびじゃんだじがあああああああああああああああ!」 「どぼじでごんなごどにいいいいいいいいいいいいいいい!」 「そのとおおおおり!!! てめえらが気持ちわりい逢引ごっこで交尾してたんでなあ! 親切なお兄さんが餓鬼どももすっきりさせてやったんだよ!」 相変わらずのハイテンションで叫んだお兄さんは、れいむの子供たちのなれの果てから赤ゆっくりのなり始めがついたままの茎をブチブチと引きちぎると 、まな板の上に乗せた。 「む、むきゅう! ちびちゃん達の赤ちゃんがついた茎を千切らないでね! まだ茎を餡子にさせば大丈夫だからやめてね!」 ぱちゅりーはお兄さんの行為に即座に反応したが、れいむの方は「ちびちゃんちびちゃん」と呟きながら餡子の塊にくっついている。 強すぎる母性のせいで合理的判断が取れなくなるれいむ種の典型的行動だった。 「はーっはっはっは! だーれがやめるかゲスぱちゅりーが!」 「むきゅ! ぱちゅりーはゲスじゃないよ! ゆっくり訂正してね!」 「いーやゲスだね! 自分ですっきりを制限しておきながら仲間が出産しないのをいいことに自分達はすっきりしちまうような奴はゲスなんだよ!」 「むぎゅ!」 うろたえるぱちゅりー。どうやら自覚はあったようだ。 「で、でもそれはしょうがないのよ! 群れのみんなを励ますためにも赤ちゃんは必要だったのよ!」 「ぞうだよ”! ぞでなのにぱじゅりーをげずよばばりするじじいはじねえええええええ!」 立ち直ったのか一緒になってお兄さんに罵声を浴びせるれいむ。 群れのゆっくりと同様に、いやそれ以上に信頼し、尊敬しているぱちゅりーを馬鹿にされたのが許せないのだろう。 「うるせえ!」 だがお兄さんにはそんなことは関係ない。 素早くスプーンをつかむと、それでれいむの両目をくり抜いた。 「ぎゃああああああああああああああ! でいぶのがばいいいおべべがあああああああああああああ!!」 「む、むぎゅううううう! ぷぺ!」 愛しいれいむに起きた惨状に思わずクリームを吐き出そうとするぱちゅりー。 しかしお兄さんの素早い腕がぱちゅりーの口をホチキスでふさぎ、それを許さない。 「落ち着けぱちゅりーさんよお。群れのやつらなら明日生まれる赤ゆっくりのおかげでしっかりとゆっくりできるさ!」 「…!!!」 「どぼいうごどなのおおおおおお! そうぞうにんっしんじゃだいのおおおおお!」 「想像妊娠? んなわけあるか! あいつらの出産が遅いのは俺が出産を遅らせる薬をあいつらの餌に混ぜ込んだからだよ」 お兄さんの言葉に絶句する二匹。 「それだけじゃない! 二日前に生まれた赤ん坊どもをああいう風にしたのも俺だよ」 「!!!んー!!!! んんんー!」 「どぼじでぞんだごどずるのおおおおおおおお!」 「それはなあ……お前らを虐待するためだあああああああああああああ!」 「ぎゅべえええええええええええええええ!」 ネタばらしで二匹のリアクションをたっぷり楽しんだお兄さんは、本日のメイン虐待を始めた。 「さあ! ゆっくりクッキングの始まりだぜ!」 「やべでええええええ! だずげでぱちゅりいいいいいいい!」 「んんーーーーー!!!!」 「まずはゆっくりの皮を剥きまーす!」 「ぶぎゃあああああああ! でいぶのもじもじのおばだがああああああああ!」 れいむの体の表面を包丁で器用に向いていくお兄さん。 肌色だった表面みるみるうちに白い饅頭になっていく。 「そして虫なんかをさんざん食べて汚い口をえぐりとりまーす! リアクションがほしいので喉は残しまーす!」 「むがーーーーーーー!!!! がーーーーーーー!」 「そしてさっき子ゆっくり達を交尾させて作った実ゆっくり付きの茎を強火で炒めまーす!」 「はへへーーー! ははひふへはひほーーーーー!(やめてーーー! まだしんでないよーーーーー!)」 喉だけで器用に叫ぶれいむ。 薄情なことにぱちゅりーは目と口の部分に穴のあいただけの饅頭になったれいむを見て、気絶してしまっている。 「塩こしょうで味を調えて完成! ゆっくりの実ゆっくり付き茎炒め!」 「んはーーーーーーーーーーーーーーーー!」 「そしてリアクションに飽きたれいむは温い油に入れて二時間かけて揚げ殺しまーす♪」 「ひひゃああああああああああああああああああ!」 油の入った鍋に突っ込まれ、ふるえながらゆっくりと油鍋の下から伝わってくる熱に怯えるれいむ。 お兄さんの言うとおり、すべてを失った悲しみを抱えながらすさまじい恐怖と狂うに苛まれあげ饅頭になるのだろう。 「さあて……やっぱりただ直接やるだけだとすっきりはするけどあんまり達成感はないなあ……」 すっかり溜まっていたフラストレーションを吐き出して通常に戻ったお兄さん。 イライラ解消のためだけに計画変更を認めさせられた妖怪兎はとんだ迷惑だろう。 「なんだかんだ兎には文句言ったけど……やっぱりじっくり虐待っていいよなあ……」 呟きながら静かに気絶したぱちゅりーを手に取るお兄さん。 「というわけで安心してくれぱちゅりー。あの群れは俺がしっかりとゆっくりさせてやるよ」 ひどくやさしい声で囁きながら、ぱちゅりーの帽子を取り上げるお兄さん。 そんなお兄さんの言葉にも、命より大切な帽子を取られたことにも、濁りきったぱちゅりーの眼は何の反応も示さなかった。 (むきゅう……ここは?) 体中に感じるズキズキとした痛みでぱちゅりーは目を覚ました。 愛しいれいむがひどい目にあわされているのを見て、思わず気絶してしまったところまでは覚えているのだが、その後は…… (むきゅ! そ、そうだ! れいむ! れいむは!) れいむを探そうと慌てて辺りを見渡そうとするぱちゅりーだが、なぜだかあたりは真っ暗で、そのうえ声も出すことができない。 (ど、どういうことなのおおおおおお! れいむううううう! ドスうううううううう! みんなああああああああ!) 必死に声を張り上げ、飛び跳ねようとするが、体に全く力が入らず、それはおろか自分の体が物に触れている感覚すら感じることが出来ない。 (むきゅうううううう! どういうことなの!) 慌て、混乱するぱちゅりー。するとその時、懐かしい、そして今のパチュリーにとって救世主ともいえる声が聞こえてきた。 「ぱちゅりー! ゆっくりおはよう!」 ドスまりさの大らかでとてもゆっくりとした声だ。 ぱちゅりーはようやくこのゆっくり出来ない状態から解放されると思い、ドスに挨拶を返した。 (ゆっくりおは)「ゆっくりおはよう! ドスまりさ!」 だが、その耳に聞こえたのは自分の声ではなく、昨日れいむとちび達を殺した憎むべき人間の声だった。 (む、むきゅうううう! ど、どうしてあの人間がいるのおおおおお!) 「ゆ! ぱちゅりーどうしたの? なんかおおきくなったみたい!」 そのドスまりさの声でぱちゅりーは気がついた。 あの人間は帽子を取り上げて自分になり変っているのに違いないのだ。 (むきゅう! 騙されちゃだめよドス! あの人間が群れに行ったらみんなゆっくり出来なくなるわ!) 帽子でのごまかしが聞くのは概ね普通のゆっくりまで。 ドスともなれば大きさなどに違和感を感じてそれに気がつくことが出来るはずだ。 ぱちゅりーはドスまりさに一縷の希望を託したが……。 「実は夜の内にぱちゅりーには体が生えてきたんだよ。これでもっとみんなをゆっくりさせてあげられるよ!」 (ああああああ! だめよドス! だめよおおおおおおお!) だが、ぱちゅりーの願いは、 「すごいねぱちゅりー! どすはぱちゅりーみたいなゆっくりがそっきんでとってもうれしいよ!」 愚かなドスまりさには届かなかった。 (どすううううううううううううう!) 「ありがとうドスまりさ! これもドスまりさのおかげだよ! これはそのお礼だよ!」 「ゆ! なにそれ! しろくてまんまるでとってもゆっくりしてるよおお!」 (むきゅ!) しろくてまんまる。 ドスのその言葉にぱちゅりーはあることに気がついた。 自分がドスと自分になりすました人間の近くにいるのに、なぜドスは帽子がないとはいえ自分に全く反応しないのだろうか。 その時、最後に見たれいむの状態を思い出す。 目を抉られ、体中の皮を削られてまるでお饅頭のようになったれいむの姿を……。 (むきゅううう! まさか! まさかあああああああ!) 「これは森で見つけたお饅頭だよ。れいむ達が見つけてくれたんだ、ドスまりさにあげるよ。」 「ゆうううう! ぱちゅりーありがとうねええええ! 本当にぱちゅりーはゆっくりしたそっきんだよおおお!」 そう言って舌でお兄さんが抱える饅頭をからめ捕るドスまりさ。 その表情は甘い物が食べられる喜びでとてもゆっくりとしていた。 (むきゅううううううううう! ドス!やめてえええええええ! ドスうううううううううううう!) 「ゆーっくりいただきまーす! むーしゃ♪ むーしゃ♪」 (いぎゃああああああああああああああ! ぶぎゅううううううううううううううう!) 少し間の抜けた、けれどもゆっくり達のことを第一に考えているドスまりさ。 前の群れでも、そして今の群れでも頑張っている、尊敬すべきドスまりさ。 (いぢゃいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! どすうぅぅうううううぅううううう……………) そのドスまりさに咀嚼されて、目と口と皮を失ったぱちゅりーは苦しみながら死んでいった。 「美味しかったドスまりさ?」 「とってもゆっくりできたよぱちゅりー!」 「それはよかった。さあ、朝礼を始めようドスまりさ」 「ゆっくりわかったよ! あれ、そういえばれいむとおちびちゃんたちはどうしたの?」 「ああ、れいむ達には新しい餌場を探しに行ってもらったんだよ。少し群れを留守にするから待っててあげようね」 「ちびちゃんたちとおとまりだね! ゆっくりわかったよ! さあ、みんなをおこすよお!」 成長したそっきんと働き者の幹部たち。 そしておいしいプレゼントにとてもゆっくりした気持ちで、ドスまりさは声を張り上げた。 「ゆっくりしていってね!!!」 ※どうも、えらい間のあいた割には虐待模写が少なくてすいません。 一応話の筋は考えてあるので、暇を見つけてじっくりと描き上げますので、もうしばらくお待ちください。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2213.html
※ちょっと基本にかえってリハビリ 『森の消毒』 D.O ここは人里から少し森に入った所にある、平和でのどかなゆっくりプレイス。 気候も穏やかで大きな動物もおらず、背の低い草が青々と茂り、 木々も程よくまばらに生えているため、日の光も柔らかに大地を包む。 豊かにして優しい、実にゆっくりとしたゆっくりプレイスであった。 「ぱちゅり~!きのみさん、たくさんとれたのぜ!」 「むきゅ~・・・むきゅん!おつかれさま! じゃあ、これとこれはほぞんしょく、あとはみんなでたべましょう。」 「ゆっくりりかいしたのぜ!みんなー!ちょぞうこまではこぶの、てつだうのぜ!」 「「「わかるよー!!」」」 こんな場所なら当然だろうが、ここにはゆっくりの群れが住み着いていた。 まだ住み着いて一回しか冬を越していない、若い群れだ。 長はそこそこ賢いぱちゅりーが、補佐はその旦那さんであるまりさが行っている。 頭脳労働はぱちゅりーが行い、その提案に沿って群れを動かすリーダーがまりさの役割。 あえてぱちぇを長としているのは、その方が群れのみんなが言う事を聞いてくれそうだからである。 元からリーダー格のまりさについては、特に肩書きを必要とはしてなかったのであろう。 ともあれ、能力をきちんと考えた役割分担で、群れの運営はなかなかに上手くいっていた。 そんなゆっくりプレイス内にある一本の枯木の根元。 そこにれいむは住んでいた。 「おかーさん!おかえりなさい!!ゆわーい、いもむしさんだー!」 「おちびちゃん、ただいま!」 れいむはまだまだテニスボールサイズの子ゆっくり。 赤ちゃん言葉は抜け切り、お外を元気に跳ね回れる程度には成長しているものの、 まだまだ独り立ちは先のことだ。 それでも、父まりさが狩りの途中に命を落として以降、、 母れいむが狩りに行っている間は、妹たちの世話をしながらお留守番を一生懸命がんばっている。 「はやくむーちゃむーちゃさせちぇにぇ!れいみゅ、おなかぺーこぺーこにゃんだよ!」 「ゆゆ!?れいむ、おかーさんにおかえりなさい!がさきでしょ!」 「ゆぴっ!?・・・ゆぅ、ゆっくちおかえりなしゃい・・・ごめんにぇ。」 そんなれいむには、2匹の妹達がいる。 好奇心旺盛で元気いっぱい、少々わがままなのが玉にきずだが、 それでも姉である自分のいうことは素直に聞く次女れいむ。 「むーちゃむーちゃ、むーちゃ、ち、ち、ちあわちぇー!!」 「ま、まりさぁ。おくちのまわりがよごれてるよ。ぺーろぺーろ。」 「ゆぅぷ、ちゅっきりー!おねーしゃん、ありがちょーなのぢぇ!」 それと、とっても甘えん坊で、いつも自分にべったりの、お姉ちゃん子の末っ子まりさ。 れいむの可愛い妹達。 ホントは姉妹ももっと多かったのだが、野生の世界は全員無事に成長させてくれるほどには甘くない。 それでも、れいむは優しい母れいむと、自分を慕ってくれる妹達に囲まれて、 この上なくゆっくりした毎日を送っていた。 「しつれいするみょ~ん!おちびちゃんたち、あそびにいこうみょ~ん!」 「わかるよー。ちぇんたちとおそとであそぼうねー。」 「むほぉ!むほぉぉ!」 れいむ一家が仲良く昼ごはんをむーしゃむーしゃしていると、 今日も群れの保育担当であるみょん達が、赤ゆっくり達に遊びのお誘いに来た。 天気のいい日には、この群れでは赤ゆっくり達を広場に集め、みんなで仲良く遊ばせているのだ。 同年代の赤ゆっくり達を仲良く遊ばせることで、将来大きくなってからも群れが結束するように、との考えである。 まあ実際のところは、手のかかる赤ゆっくり達を一時的にでも一か所に集めて管理し、 親ゆっくり達の負担を軽減しようという狙いがあったりするのだが。 「ゆあーい!れいみゅ、みょんおにぇーしゃんたちと、あしょんでくるにぇ!」 「ゆふふ。じゃあ、みょん、ちぇん、ありす。おちびちゃんをよろしくね。」 「むほぉおお!!」 「ゆぃ。まりしゃ、おかーしゃんとゆっくちしゅるのじぇ!」 「ゆ?ゆふふ。おちびちゃんは、まだまだあまえんぼさんだね。」 もちろんどんな赤ゆっくりでも連れていくわけではない。 ベッドから這い出れない、生まれて数日以内の赤ゆっくりは、もちろんおうちで母親が世話をするし、 末っ子まりさのようにまだまだ精神的に幼い赤ゆっくりは、両親の元に残ることも多い。 「おかーしゃん!おねーしゃん!いってくるにぇ!」 「「ゆっくりいってらっしゃい!!」」 ともあれ、普段おうちからも出してもらえない赤ゆっくりにとって、 この青空お遊戯会は、おとな社会への最初の一歩なのであった。 次女れいむは保育みょん達の方に跳ねながら、母達に輝くような笑顔を見せて出発の挨拶をした。 「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」 そしてこれが、れいむ一家が仲良く顔を合わせた最後の時になった。 ------------------------------------------------- 「むきゅきゅ、まりさ。むれのおちびちゃんたち、ゆっくりしてるわね。」 「そうなのぜ~。これもぱちゅりーのおかげなのぜ~。」 「むきゅぅん。まりさがきょうりょくしてくれてるからよ。ゆぅ・・・すーりすーり。」 「だ、だめなのぜぇ。こんなおそとですっきりーなんて、はずかしいのぜぇ。すーりすーり・・・」 群れの素晴らしいゆっくりっぷりに、思わずすっきりーしてしまいそうになる長ぱちゅりー達。 保育みょん達が集めた赤ゆっくり達は、その長ぱちぇと補佐まりさが見守る小さな広場の中で、 楽しそうな声を上げながら遊びまわっていた。 「おし~りふりふり、の~びの~び!うんうんさんも~おでかけするよ~!す~す~、すっきり~!」 「「「うんうんしゅるよ~!しゅっきり~!」」」 保育ちぇんは最近お腹の調子が悪いおちびちゃん達を集め、お通じをよくするうんうん体操をさせる。 「むほぉおお!むほぉおお!むほぉ!」 「「「みゅ、みゅほぉおお!!ちゅ、ちゅっきり!」」」 保育ありすは赤ありす達を集め、都会派になるための礼儀作法やコーディネート技術を教えている。 「ちょうちょしゃん!ゆっくちまっちぇ~!」 「ゆっくちこっちにくるのじぇ!まりしゃがむーちゃむーちゃしてあげるのじぇ!」 「おはなしゃん、れいみゅにゆっくちたべられちぇにぇ!」 また、お腹がすいた赤ゆっくり達は、狩りの練習を兼ねて野原の美味しい恵みを味わう。 本能的に備わっているのであろう。 遊びの内容も、将来おとなになってから役立つ技能を身につけるのに必要なものなのだ。 「まりしゃがぷくーするのじぇ!ぷっきゅ~!」 「ゆわわ~、しゅごいにぇ!まりしゃはさいっきょうのゆっくりだにぇ!」 「ゆゆぅ~ん。でも、おとーしゃんのほうが、ぷっく~はおっきいのじぇ!おとーしゃんがさいっきょうなのじぇ!」 口の中に空気を溜めて体を膨らませる、威嚇行動であるぷくーの練習をしている赤ゆっくりもいる。 これなら、将来は家族達を守っていける、立派なおとなになれることだろう。 「かけっこだよー!ちぇんについてこれるー。」 「みゅほぉ!みゅほおお!!」 「あ、ありしゅ?おめめがこわいよー!?」 森で生きるには、駆けっこの速さも大事な技能だ。 多くのおちびちゃん達は、有り余る元気を発散させるように、広場の端から端まで元気に跳ねまわっている。 ・・・この広場で遊ぶおちびちゃん、群れの次代を担う新しい生命達は、 子育てのベテランである保育ゆっくり達に見守られ、元気に遊びながら目に見えるほどスクスクと成長し続けていた。 その明るい未来に、一点の曇りすらないかのように・・・ ガサッ。ガサッ。 「ゆぅ?」×200 そこに、なんの前触れもなく、突然の来訪者が現れた。 「むきゅ?・・・にん、げんさん?」 それは、長ぱちゅりーを含め、群れでも数匹しか見た事のない生き物。 ゆっくりと同じ言葉を使い、胴付きゆっくりのような体を持った不思議生物。 ・・・『にんげんさん』。 「ぽかーん。」×200 赤ゆっくり達は、その未知の生物を見て、逃げるでもなく声をかけるでもなく、 口をぽかーんと開けてその姿を見上げていた。 にんげんさんは、ひとりではなく、この広場をぐるっと囲めるほどの人数がいて、 そして手には、先端が赤くメラメラと燃える棒、松明を持っていた。 まだ真昼間で、森の中でも心地よいほど明るいというのに。 しばらくお互いに無言のまま、広場には静寂が続いた。 「おにーしゃん!ここは、れいみゅたちのゆっくちぷれいすだよ!ゆっくちしちぇっちぇにぇ!!」 その静寂を破り、最初ににんげんさんに声をかけたのは、ここにいた赤ゆっくり達の中でも特に好奇心の強いゆっくり。 あの、れいむ一家の次女れいむだった。 ジュゥゥ・・・ボゥワッ! そして、次女れいむがおにいさんに近づき、声をかけると同時に、 その頭に松明の火が押し付けられた。 「ぴぃうっ?・・・ぴ・・・」 妹れいむは、か細い悲鳴をわずかにあげてころころと2、3回転がると、そのまま炭になって動かなくなった。 「・・・・・・むきゅぅぅうう、みんなにげてぇぇえええ!!」 突然の光景に、ここにいた全てのゆっくりが考える事を止めたかのように茫然となった中で、 長ぱちゅりーの叫びが静寂を切り裂いた。 「ゆ、ゆわぁぁああ!おちびちゃんたち、ちぇんのおくちにはいってねー!」 「むほぉおお!むほ、むほぉっ!」 「みんな、はやくまりさのおぼうしにはいるのぜ!にげるのぜぇええ!!」 「めらめらしゃんは、ゆっくちできにゃいぃぃ!」 「ゆぴぁああん!おにぇーしゃんのおくちに、ゆっくちはいりゅよ!ゆっくち!!」 「ゆっくちー。おくちのなかなら、あんしんだにぇ!」 長の叫びは、群れの全員を自失の状態から現実に返すことに成功した。 保育ゆっくり達は、自分達のお口に赤ゆっくり達を入らせていく。 子供達をお口の中に入れるこの行動は、ゆっくり達が自分の子供達を危険から守る時に行う、本能的行動だ。 親のお口の中に赤ゆっくりを入れることで、 外敵から隠す・親の体を外敵からの盾にする・逃走が必要な時はそのまま赤ゆっくりを連れていく、 といった効果を無意識に狙って生まれた本能なのであろう。 「むきゅっ、みんな!おちびちゃんをおくちにいれたら、はやくここからにげるのよ!!」 「「「ゆっくりりかいしたよ!!」」」 そしてお口に、近くにいた赤ゆっくり達を数匹づつ入れた保育ゆっくり達は、 長ぱちゅりーの指示に従って広場から飛び出していったのであった。 お口に赤ゆっくりを満載したせいで、這うように遅い歩みではあったが。 長ぱちゅりーはその間にも、次の指示を補佐まりさに出す。 「むきゅ、まりさ。まりさはみんなのおうちをまわるのよ! ここにきてないおちびちゃんたちを、はやくにがしてあげて!」 「ゆっくりりかいし・・・ゆゆっ!?ぱちゅりーはどうするのぜ!?」 「ぱちぇは・・・にんげんさんと『こうしょう』してみるわ!」 長ぱちゅりーは、最も危険な任務を自分に課すつもりだった。 「そ、そんなのあぶないのぜ!いっしょににげるのぜ!!」 「ぱちぇのあんよじゃ、まりさのあしでまといよ! それに、おはなしするのは、ぱちぇはむれでいちばんじょうずだわ! まりさはまりさの、ぱちぇはぱちぇのできることをするのよ!むきゅんっ!!」 「ゆ、ゆ、ゆっくりりかいしたのぜ・・・にげきったら、またすーりすーりしようなのぜー!」 ぱちゅりーはその弁舌をもって人間と交渉を、まりさはその脚力とリーダーシップをもって群れの避難誘導を、 お互いに能力を生かして最善の役割を果たそう、長ぱちゅりーはそう言って補佐まりさを説得した。 だが、それは半分正しく、半分嘘だった。 長ぱちゅりーは自分が生き残れない可能性が高いと理解しながら、 みんなが逃げる時間を稼ぐためにここに残ったのであった。 ・・・そして、もちろん補佐まりさもそれを察していた。 「むきゅ!にんげんさん、ぱちぇたちは、ここでゆっくりしてるだけよ! もしなにかめいわくをかけたなら、あやま『ジュゥゥウウウウウ』びゅ・・・」 結局、長ぱちゅりーは時間を5秒も稼げなかった。 長ぱちゅりーは顔面だけを松明で軽く炙られ、目と口だけを潰されたまま死ぬ事も出来ずに放置されて、 群れの崩壊する悲鳴を最後の最後まで聞き続けることになったのである。 お口に赤ゆっくりを入れて広場から逃げ出した保育ゆっくり達も、 その這うような鈍足のせいで早々に追いつかれ、近場の木の洞に逃げ込むのがやっとだった。 「むほぉおお!ぷっくー!!」 「ありしゅおにぇーしゃん、がんばっちぇー!」 「ゆっくちまもってくれちぇ、ありがちょー。」 保育ありすは、もはや逃げ切れない事を悟り、近場の木の洞に赤ゆっくり達を放り込むと、 その入り口を塞ぐようにぷくーっして赤ゆっくり達を守っていた。 隙間なくぷくーっで塞がれたその入り口からは、人間さんの手どころかイモムシ一匹も入る事はできないだろう。 そこに松明を持った人間さんが近づく。 「むほぉ!ぷっくー!!」 どむっ。 ジュゥゥゥゥウウウ。 「む・・ほごぉ・・・とか・・いば・・・・・・」 人間さんと向かい合った次の瞬間には、保育ありすのまむまむを松明が貫いていた。 せめてもの救いは、ありすの中枢餡がその一撃で砕かれ、ほとんど一瞬で絶命出来た事だろう。 ジュゥゥウウウウ!ボゥワッ!ジュジュジュウウ! 「ゆぴゃぁああん!あちゅい、あちゅいぃいいい!!」 「どうしてめらめらしゃん、はいってくりゅのぉおお!?こっちこにゃいでぇぇえ!」 「ありしゅおにぇーしゃん、どうしちぇ、たしゅけちぇくれにゃ・・・『ボゥッ』ぴぅっ!」 松明の先端はありすの体をやすやすと突き破って、木の洞の奥まで届いていた。 ありすには、逃げ場のない洞の中で焼き尽くされるおちびちゃん達の悲鳴が、聞こえていただろうか。 保育みょんとちぇんも、人間さんに追いつめられていた。 2匹は背後の木の根元に10匹ほどの赤ゆっくり達をかばいながら、周囲を人間さんに取り囲まれている。 もはや逃げ道を作るには、人間さんと戦って包囲を破るしかなかった。 「みょぉおん!みょんがこのけんで、みちをつくってやるみょん!みょっ!!」 ぶんっ!ひょい。ぶんっ!ひょい。 鋭く尖らせた木の枝を振りまわしながらみょんは包囲に突撃したが、 その木の枝の一撃一撃は、人間さんにあっさりとかわされる。 「がんばっちぇ~!みょんおねーしゃーん!」 「ゆっくちまけにゃいでー!」 「みょぉおおん!げんきひゃくばいだみょん!!みょっ!」 声援に力づけられさらに攻撃を続けるみょん。 だが、何回か突撃を続け、もう一撃、そう思った時、ふとみょんは後頭部の熱に気づいた。 「みょ・・・」 「「ゆぴゃぁぁああん!みょんおにぇーしゃぁああん!!」」 メラメラメラ・・・ 人間さんは、みょんの攻撃を軽くかわしながら、その松明をみょんの髪の毛にかすらせていた。 そして、みょんがその熱に気づいた頃には、みょんの髪の毛はほとんど全体が炎に包まれていた。 「みょぉぉ!?ぉおお・・・!!」 ゆっくりは、特にその皮膚や髪の毛は燃えやすい。 みょんが高熱の中で、自分がもうすぐ走る事も、 声を出す事も出来なくなる事を悟るまで、それほど時間はかからなかった。 だから、みょんはその最後に残された力全てを、おちびちゃん達への叫びに注いだ。 「お、おぢびぢゃんだち・・・にげでぇぇえええ!」 「みょ・・・?」 だが、そんなみょんを処理済みと判断した人間さんは、 その時すでに赤ゆっくり全員を火だるまにし終えていた。 「ぴょ・・・ぴ・・・」 「あちゅ・・・ぴぃ・・・」 「やめちぇぇぇええ!めらめらしゃんこわい『ボウッ』ぴ・・!ぴゃ!?・・・」 「みょ・・ん・・・」 「おぢ・・び・・・・・・」 ちぇんはみょんの死にざまを見て、すでに戦意も保育役としての誇りも失っていた。 目の前でおちびちゃん達を焼き尽くされるのを茫然と眺めながら、よろりと仰向けになり、腹を人間さんに見せる。 これは、ゆっくりの全面降伏を意味していた。 「だ、だずげでよー・・・。ちぇんはむていこうだよー、わかるー・・・?」 もちろんそんなことどうでもいい人間さんは、ちぇんの腹のど真ん中に松明を押し付けた。 たっぷり一分ほどかけて、ちぇんは炭になった。 一方その頃れいむ一家は、補佐まりさに先導されて群れの避難場所に向かっていた。 その集団は、生まれたばかりでベッドからも這い出られないような幼い赤ゆっくりと、 その母ゆっくり達でほとんどを占められていた。 「みゃみゃー、どこいくにょ?ゆっくち!」 「とってもゆっくりできる、あんぜんなところだよ。ゆっくりあんしんしてね。」 「ゆぁーい!みゃみゃのおくちのなか、ゆっくちしちぇるにぇ!ゆゆぅ~ん。」 母ゆっくり達は、赤ゆっくり達をお口の中に入れ、 なるべく自分達の不安を伝えないように話しかけながら這い進んだ。 そんな中、れいむ一家の母れいむが、決意を固めた表情で補佐まりさに話しかけた。 「まりさ・・・れいむは、おちびちゃんをさがしてくるよ!」 母れいむは、保育みょん達に預け、広場に遊びに行かせた次女れいむを諦めることができなかったのだった。 たとえ自分の身を危険にさらし、残り2匹のおちびちゃんが母親を失うことになってしまうかもしれないとしても。 「な、なにいってるのぜ!?れいむ!!」 「みょんたちがいるからだいじょうぶだとおもうけど・・・やっぱりむかえにいかないと・・・」 補佐まりさも、群れで最初に焼き殺されたのが、このれいむ一家の次女れいむだと言うことにまでは気づいていない。 だから、母れいむを止めるのに躊躇してしまった。 「まりさ、おちびちゃんたちをよろしくね!おちびちゃん!れいむはすぐもどってくるからね!いいこにしてるんだよ!」 「おかーさん!はやくかえってきてね!ぜったいだよ!」 「ゆっくち、いってらっしゃいなのじぇ!」 「ま、まつのぜ!れいむー!!」 そして、補佐まりさは母れいむを止め損ねてしまったのであった。 ぐしゃ。 母れいむは、変わり果てた次女れいむの姿を目にすることは無かった。 木の影から不意に顔を出した人間さんに、すれ違いざまに松明を振り下ろされ、 一撃で顔面を砕かれて息絶えたからである。 ------------------------------------------------- 母れいむとの永遠の別れの後、補佐まりさに先導されたれいむと末っ子まりさは、 群れの生き残り達と一緒に大きな洞窟へと避難していた。 人間さんでもすっぽり入れるほど大きな広い洞窟。それが、群れであらかじめ決めていた緊急時の避難場所。 他にも人間さんの目をかいくぐった生き残りがいれば、全員ここに集まってくるはずであった。 洞窟の中には、れいむと末っ子まりさ、補佐まりさの他には、 10匹程の母ゆっくりと、その幼いおちびちゃん達が一家族あたり4~5匹づつ。 それが全てである。 「ゆぅーん。このどうくつしゃん、ゆっくちしちぇないよぉ。」 「ごめんね、ちょっとがまんしててね。」 「みゃみゃー、おなかすいちゃよぉ。むーちゃむーちゃさせちぇにぇ。」 「いまは、ごはんがないんだよ。ちょっとだけがまんしててね。」 洞窟の中では生き残りのゆっくり達が、不安をまぎらわそうと、寄り集まってお話をしていた。 れいむ姉妹も例外ではなく、補佐まりさにぺったりくっついて、お話をしている。 「おきゃーしゃん、おそいのじぇ。」 「ゆぅぅ、きっともうすぐもどってくるよ。まりさもがまんして、ゆっくりまとうね。」 「そうなのぜ。きっとだいじょうぶなのぜ。」 ばさっ。 その時、洞窟内の地面全体を覆うように、網がかぶせられた。 「ゆわぁぁああ!?なんなのこれぇぇええ!!」 「ゆっくちうごけにゃいー!みゃみゃー!」 「な、なんなのぜ!このあみさんは、なんなのぜぇぇ・・・え?」 網の向こうには、人間さんが立っていた。 最初から、全ては人間さんの計画通り。 ゆっくりの行動、子連れならどのくらいの速さで逃げるか、 そして、このゆっくりプレイス内で最後に逃げ込むとすれば、それはどこか・・・ ・・・全てを計算した上で、逃げ込みやすく捕まえやすい、適度な広さの洞窟を用意していたのだった。 その後、網に捕まった群れの生き残りのうち、赤ゆっくり達は卵パックのような容器に優しく分別され、 母ゆっくり達はダンボールに乱暴に突っこまれて、最初に襲撃に遭った広場のど真ん中まで連れてこられた。 「ゆぅ・・・ゆぅぅ~、にんげんさん!いもーとを、すえっこまりさをかえしてね!」 「ゆんやぁ~ん。ゆっくちできにゃいのじぇ~。」 れいむ姉妹もまた、離ればなれにされていた。 れいむはダンボールの中に、末っ子まりさは卵パックの中へと。 そして、広場のど真ん中にはたき火が作られ、その上には水を張った、炊き出し用の大鍋が湯気を上げている。 れいむは実際に火を見た事などなかったのだが、メラメラと輝くそれと、白い湯気を上げる鍋が、 とてつもなく不吉な物に見えていた。 ちゃぷちゃぷちゃぷっ・・・ 「ゆわーい!みずあびしゃんは、ゆっくちできりゅにぇ!」 「ゆっくちー!」 そんな不安をよそに、赤ゆっくり達の方からきゃっきゃと楽しそうな声が聞こえてきた。 何事かと見てみると、人間のおねえさんが、ボウルに張った水で赤ゆっくりを丁寧に洗ってあげているのが見える。 「ゆ、ゆぅう!!そうだよ!おちびちゃんたちは、ゆっくりできるんだよ!ゆっくりさせてあげてね!!」 「おねーさん、ありがとー!」 「ゆわぁ~。おちびちゃんたち、ゆっくりしてるよぉ~。」 補佐まりさとれいむを除く母ゆっくり達は、みんな自分達のおちびちゃんが嬉しそうに水浴びしているのを見て、 早くも先ほどまでの恐怖を忘れて、ゆっくりし始めていた。 だが、それも人間さんが、赤ゆっくり達全員をキレイに洗い終わるまでのことだった。 「こーりょこーりょ、ゆっくちー。」 「ぷりゅぷりゅぷりゅっ!しゅっきりー!」 水浴びを終えた赤ゆっくり達は清潔な布巾の上に乗せられ、 赤ゆっくり達はこーろこーろ、ぷーるぷーるして水分を切っていた。 そうしてみんながすっきりーとした表情でゆっくりしていると、 先ほどのおねえさんが、何やら変わった手袋を両手につけて、 手近にいた赤れいむをつまみあげる。 「おしょらとんでるみちゃーい!」 そして、手袋をつけた両掌で包み込むと、 ごしっ・・・ごしっ・・・ 2回ほど揉んだ。 「ゆっぴ?ぃぃいいいいあぁああああああ!?」 おねえさんが手のひらを開けると、そこには髪の毛と薄皮がきれいに削り取られた、 スベスベ真ん丸饅頭の『元』赤れいむがいた。 「いぢゃぁぁああいぃぃ!!みえにゃい!いぢゃい!?みゃみゃぁぁあああ!!」 その皮膚はムラなく薄皮がこそぎ取られ、まぶたと目玉の表面も削り取られている。 髪の毛もお飾りも、薄皮と一緒に手袋の中に残っていた。 「「「ど、ど、どうぢでぞんなごどずるのぉおおおお!!」」」 そのおねえさんが付けていた手袋は、ゆっくり用皮むき手袋。 表面がやすり状になっており、野生ゆっくりの汚れた皮膚や髪の毛などを削り取るために作られたものだった。 森に響き渡る悲鳴は、おねえさんが手をごしごしと揉むたびに大きくなっていった。 「ゆびゃぁあぁああ!!やべぢぇええええ!!」 「おぎゃあぢゃあああん!!」 「みえにゃい!みえにゃいよぉおお!!いぢゃぁぁあい!!」 数十匹の赤ゆっくり達が、あっという間にスベスベの薄皮饅頭になっていく。 それはゆっくり達にとって、まさしく地獄の光景だったであろう。 悲鳴を上げつづける母ゆっくり達に混じり、れいむも必死に叫び続けた。 そんなれいむの視界に、れいむの良く知る、世界で最も愛する存在の姿が映った。 「おにぇーぢゃん!たしゅけちぇぇぇええ!!」 「まりさ!ゆ、ゆぁあああん!!おねーさん、やべで、やべであげでぇぇええ!!」 末っ子まりさの順番は、赤ゆっくり達の中で、一番最後だった。 「いやなのじぇ、だじゅげ」 ごし・・・ごしっ・・・ そして、集められた赤ゆっくり達は、一匹残らず薄皮饅頭になった。 「ゆぴゃぁあああ!!ゆっぐぢでぎにゃい、ゆっぐぢでぎにゃいぃぃいい!! おぎゃーしゃん、おにぇーじゃん!ゆびゃぁぁああああ!!」 「どうぢで・・・どうぢでぇ、ゆっぐぢぢでだのにぃ・・・」 れいむは、可愛い末っ子まりさを、守りきることが出来なかったのだった。 『元』赤ゆっくり達の悲鳴が周囲に響き続ける中、 母ゆっくり達は、自分達のおちびちゃんの、あまりにも痛ましい姿に、 泣き叫ぶ気力も残されておらず、ただすすり泣くように懇願し続けた。 「もうやべで・・・ゆっぐぢぢで・・・」 「おちびちゃ・・・ぺーろぺーろさせてぇ・・・」 その様子を気にしているのか、母ゆっくり達にはおねえさんの表情からはなにも読みとれなかった。 そして、おねえさんは薄皮饅頭を数十個乗せたおぼんを持ち上げると、 たき火の上でクツクツと音を立てる大鍋の前に運び、 じゃぽじゃぽじゃぽっ おぼんの中身を大鍋の中に落としていった。 「「「ゆっぴゃぁぁあああああああぁぁぁぁ・・・・・こぽ・・・こぽ・・・」」」 「「「おぢ・・・おぢびぢゃ・・・」」」 赤ゆっくり達は、一匹残らず大鍋の湯の中に溶けて消えていった。 ダンボールに入れられたゆっくり達は、それからしばらくの間放置された。 母ゆっくり達の詰め込まれたそのダンボールには、 赤ゆっくり達からこそぎ取られたお飾りや、髪の毛も放り込まれていた。 母ゆっくり達は、自分のおちびちゃん達の、お飾りと髪の毛をぺーろぺーろして泣き続ける。 だが、やがてたき火の火が弱くなったところで、そのダンボールから完全に気力を失った補佐まりさが取り出された。 「ゆ・・・やべで、やべでぐだざい・・・もういいでじょ・・・あとのみんな・・・ だずげでください・・・ぱちゅりーにやぐぞぐぢだんでず・・・だずげるっで、みんなだずげ」 ひょいっ・・・ボゥッ 「ゆぁぉ・・・」 補佐まりさは、一瞬で火の中に消えていった。 「やべでぇぇえええ!!」 「もうやぢゃ、もうやべぢぇ、ゆびゃぁぁあああ!」 それから間もなく、可愛いおちびちゃん達の物だったお飾りごと、母ゆっくり達はたき火に投げ込まれていった。 「どうぢで・・・どうぢでぇ・・・ゆっぐぢ、ゆっぐぢぃ」 最後に残されたのは、子ゆっくりだったためダンボールの中で一番小さかった、れいむだった。 ひょい。 恐怖と絶望で体が動かなくなっていたれいむは、逃げる事もできず、人間さんにあっさりつまみあげられた。 「おねえざん・・・どうぢで・・・?」 れいむは、すでに生を諦めていた。 ただ、それでも、どうしても質問せずにはいられない疑問があった。 れいむは、恐怖で震える口から、必死で声を絞り出したのだった。 「どうぢでごんなごどずるの・・・れいむたち・・ゆっくりしてただけだよ・・・?」 ひょいっ・・・ボッ そしてれいむは、疑問に対する答えを最後まで得ることなく、たき火の中に放り込まれて炭になった。 それから数分後、 ゆっくりの楽しげな声が消えた、かつてのゆっくりプレイスには、 美味しそうなお汁粉の鍋と、それを囲い談笑する人間さん達だけが残された・・・
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/4020.html
『こうっかん 中編』 56KB 制裁 自業自得 越冬 群れ ゲス 自然界 独自設定 中編 そして……。 「どういうことなのぜええええええ!こんなふざけたはなしを、うけいれろっていうのかぜえええええ!」 「いったいなんなの!このいなまものまるだしの、こうしょうけっかはああああああああああ!」 「どうもこうも、これがおさであるれいむのけつだんだよ!はやくこのけっかを、むれのみんなにつたえてきてね!」 ここは大きな群れにある長れいむのおうち。 長れいむは、長ぱちゅりーとの二匹だけの会議の後、すぐに自身の群れへと引き返していった。 そして会議の結果を幹部二匹に伝えたのだった。 しかし、長れいむの口から告げられたその内容を聞くや否や、声を荒げる幹部二匹。 その態度から長れいむの決断に不満があるのは明らかだった。 「ふざけるんじゃないのぜえええええ!おやさいぷれいすをてにいれるのはいいとして、 そのじょうけんが、まりささまたちのぷれいすをあけわたすことは、どういうことなのぜええええええ! そんなばかげたじょうけんを、ほんきでうけいれたのかぜええええええええ!」 「まったくあきれたわ!そんなありさまで、よくおさをなのってはずかしくないものだわね! もういいかげん、さっさといんたいしたらどうかしら?そのほうがこのむれのためよ!」 口々に長れいむの決定を非難する幹部まりさと幹部ありす。 長れいむの決断。 それは、長ぱちゅりーの提案した土地の交換を全面的に受け入れることだった。 「ゆふん!なんといわれようと、これはおさであるれいむがきめたことだよ! しょせんかんぶであるまりさたちに、もんくをいうけんりはないんだよ!」 「いくらなんでも、げんどってものがあるのぜええええええええ! ぷれいすがせまくなったら、せっかくどれいをてにいれても、ぞんぶにゆっくりできないのぜええええ!」 「まったくだわ!いなかものどもに、たっぷりとあいのこういをおしえるには、とかいはなひろいおうちがひつようなのに!」 「ゆゆ?ああそうだったよ!そういえばいうのをわすれていたよ! よていしてた、れいむたちと、ぱちゅりーたちとのむれのがっぺいのはなしはなしになったよ!」 「ゆへ?」 「なっ!」 長れいむの口から何気なくもたらされた事実に対し、驚きを口にする幹部二匹。 「ちょ、ちょっとまつのぜえええええ!それじゃどれいは? がっぺいのみかえりにえるはずの、まりささまのどれいのはなしはどうなったのぜええええええええ!」 「そんなもの、とうぜんなしにきまってるでしょ! だいたいぷれいすをこうかんするんだから、そのあとでむれをがっぺいしてもいみないでしょおおおおお! そんなこともわからないの?ばかなの?しぬの?」 長ぱちゅりーからの受け売りをそのまま口にする長れいむ。 だがそんな理屈で怯む幹部たちではない。 「ゆがあああああああああああああああ!ばかなのはれいむのほうなのぜえええええええええええええ! ぷれいすはわたす、どれいもあきらめる、それだけやって、えるのがおやさいぷれいすだけじゃ、どうかんがえてもわりにあわないのぜええええええ!」 「そうよ!そうよ!ふざけないでちょうだい! だいたい、ありすにとってはおやさいなんかよりも、どれいたちにとかいはなあいをおしえるこういのほうだいじなのよおおおおお! あああああああああああ!ちきしょおおおおおおおおおおおお!ありすの、いちだいすっきりはーれむけいかくがあああああああああ!」 ぷれいすを渡す上に、当然得られると思っていた奴隷も得られないと知り、もはや幹部二匹は長れいむへの侮蔑を隠そうともしない。 「れいむ!いまならまだまにあうのぜ!もういちど、ぱちゅりーのところへいって、このはなしをことわってくるのぜ! そして、むれのがっぺいでもなんでもいいから、とにかくまりささまのどれいをてにいれるのぜ! おやさいぷれいすなんて、そのあとで、やつらからうばってしまえばいいだけのはなしなのぜ!」 「そうね!そうするべきだわ!そして、それがすんだられいむはそっこく、おさをやめなさい! それがあなたがこのむれにたいしてできる、いちばんのことなのよ! さぁぐずぐずしないではやくいきなさい!さっさとするのよ!」 怒りのためか本来の自分らの立場を忘れ、長れいむに協定の取り消しをするように迫る幹部まりさと幹部ありす。 今までは内々にその不満や野心を隠してきたこの二匹だが、ここまであからさまな態度に出たのははじめてのことである。 つまりはそれだけ腹に据えかねた事態だということだ。 「いいかげんにしてね!だれにたいしてものをいってるの!」 だがそれでも長れいむは全く動揺していなかった。 むしろ望むところだといった視線で、長まりさと長ありすを睨みつける。 「たしかに、まりさやありすのいうとおり、どれいがてにはいらなかったことや、ぷれいすがちょっとせまくなっちゃったことはざんねんだよ! でも、れいむはこんかいのけんで、おやさいがかってにはえてくるぷれいすをてにいれたんだよ! これはとりひきとしては、じゅうぶんすぎるせいかだよ! それに、もしこれいじょうをのぞむようならば、ぱちゅりーたちのむれとのせんっそうはさけられない! れいむはむれのおさとして、むれのゆっくりたちに、むだなぎせいをしいるせんっそうできないんだよ! ただじぶんたちがゆっくりすることばかりかんがている、まりさやありすとちがってね!」 群れ全体の利益のために、これ以上の要求をすると発生する戦争は出来ないと説く長れいむ。 本当は戦争をしたくない一番の理由は、戦闘になれば一番に自分が狙われるのを知っているからであるが、 もちろんそんなことはおくびにも出さない。 「ゆががああああ!せんっそうがさけられないというのなら、やってやればいいのぜええええ! いやむしろ、ほんとうにむれのゆっくりのことをかんがているのなら、せんっそうすべきなのぜええええ! それでゆっくりも、おやさいも、なにもかもあのぱちゅりーからうばってしまえばいいだけのはなしなのぜえええええ!」 「んほおおおおおおおおお!そのとおりよおおおおおおおおお! ありすもせんっそうはいやだったけど、もうそんなこといってられないわあああああああ! こうなったら、とかいはなあいをおしえるのは、せんっそうでつかまえたほりょでもかまわない! だから、むれをあげてのせんっそうめいれいをだすのよれいむ!」 「いやだよ!」 きっぱりと否定する長れいむ。 「なにをふぬけたことをいっているのぜれいむ! むれぜんたいのりえきのために、せんっそうするべきのぜ! むれのことをかんがえらないれいむは、おさしっかくなのぜ!」 必死に力説する幹部まりさ。 「ゆふん!なにがむれのためだよ!じぶんのゆっくりのためのくせに、ばかいわないでね! そんなにせんっそうがしたいのなら、まりさやありすたちがせんっそうしたいゆっくりをあつめてやればいいよ! それならべつにれいむはかまわないよ!」 「ゆなっ!なにをいっているのよれいむ!せんっそうはおさのしじによってはじまるのよ! そうじゃないとすべてのゆっくりがさんかしないわ!」 「だからこそだよ! れいむは、むれのみんなのゆっくりがだいじだから、せんっそうはしないといっているんだよ! でもまりさやありすがどうしてもせんっそうがしたいというのなら、せんっそうにさんせいしているゆっくりだけで、せんっそうしてかまわないといっているんだよ! それならじこせきにんだしね! でもこのままだまっていても、れいむのてがらでおやさいぷれいすがてにはいるというのに、わざわざせんっそうしたいなんてかんがえてるゆっくりが、 このむれにどのくらいいるのかなぁ?」 「ゆがっ!ぐっ!それは……」 痛いところを突かれたうろたえる幹部まりさ。 長れいむはわかっていた。 自分の決断に反対するゆっくりが少数派であることが。 「ゆふん!せんっそうなんて、このむれのゆっくりは、ほとんどそんなことのぞんでないんだよ! ほんとうにむれのことをかんがえてないのはどっちなの! わがままはよそでやってよね!」 見下したように言う長れいむ。 長れいむの予想は極めて正しかった。 実際に長れいむの提案が群れ中に知れ渡ったとして、その選択を非難するゆっくりは、 幹部まりさや幹部ありすのような、奴隷を得ることを楽しみにしていたような少数派だけである。 多くのゆっくりは、そんなことよりもお野菜ぷれいすの取得を望むだろう。 それがわかっているからこそ、長れいむは幹部二匹にこれほど否定的な態度を示されても余裕なのだ。 そもそもこの二匹が反抗的な行動を取るであろうことは、事前にした分析で予測済みのことである。 いまさら慌てることはない。 「ゆががががが!こんな!こんなことがぁあ!」 「なんなの!なんなのよ!れいのくせに!」 逆に幹部二匹の旗色はかなり悪いといえる。 期待していた奴隷は得られない上に、今回のれいむの功績が群れのゆっくりたちに支持されれば、 自分たちの長就任への夢は遠のくばかり。まさに踏んだり蹴ったりである。 苦肉の策として、しきりに長れいむに戦争をするように迫ったのも、別に群れの利益のためではなく自分らの欲望のためと、 戦争で出た犠牲の責任を、長であるれいむに押し付けて失脚を狙うためである。 しかしどうやらそのたくらみは完全に長れいむには看破されていたようであり、長れいむは絶対に戦争はしないと言い張っている。 つまりは完全にしてやられた形になる。 今まで実力は自分たちのほうが上であると、密かにバカにしていた長れいむにここまでやり込められるのは、 幹部二匹にとってはこの上ない屈辱である。 しかし現実問題として打つ手がない。 完全に手詰まりの状況であった。 「ゆふふふふ!りかいできたなら、さっさとこのこをむれのみんなにつたえてきてね! ぷれいすのいどうはあすだよ!」 うな垂れ、黙っている幹部たちに長れいむが笑顔で言う。 それは自身の判断が正解だったと確信する、まごうことなき勝利宣言であった。 一方その頃、長ぱちゅりーの群れでは。 「むきゅ!みんな急いで移動のための荷物をまとめて! できるだけ多くの食料を持っていくのよ! ただし!事前に説明した通り、畑に生えているお野菜はもっていっちゃダメよ! アレが今後の私たちの運命を左右することになるんだからね!」 「「「「ゆゆー!」」」」 てきぱきと指示を出す長ぱちゅりーと、それにそれに応じる群れのゆっくりたち。 今、長ぱちゅりーの群れでは明日の移動に向けての準備の真っ最中だった。 「でもくやしいみょん!くろうしてそだてたおやさいを、あのれいむたちなんかにわたすのは!」 「そうね、せっかく育てたお野菜を食べられないのはとても残念だろうけど、今回ばかりは諦めてもらうほかしかたないわね。 ここで欲を出して、群れが崩壊してしまっては意味がないもの。 でも大丈夫よ!お野菜はまた作ればいいんだもの、今度はもっと広い土地を活用してもっと沢山作れるようにするわ」 「みょん!それはわかってるみょん!」 流石に苦心して育てたお野菜畑を、あっさり明け渡してしまうという長ぱちゅりーの策には群れのゆっくりからも反対意見が出たが、 それでも奴隷になったり、戦争して滅びるよりははるかにましだ、ということで群れ内の意見は一致していた。 それに命さえあれば、今度は広くなった土地でお野菜はまた作ればいいのだ。 今やこの群れのゆっくりたちはそのことを理解していた。 ゆえに移動準備は長ぱちゅりーが思っていたよりも問題なくスムーズに行うことが出来た。 「わかるよー!ぜんゆっくり、いどうのじゅんびがかんりょうしたよー! あとはあすをまつばかりなんだねー!」 「そう、ありがと。 ここまでのところは作戦通りね。 あとは、あのれいむたちがどうでるか……」 「わかるよー!だいじょうぶだよー! きっとおさのさくせんどおりうまくいくよー! いままでだってそうだったんだからねー!」 「そうね!そうなるといいわね……」 長ぱちゅりーはふぅ、と溜息をつく。 (今ぱちぇがやっていうことは、人間さんでいうところの詐欺師ってところかしらね。 だまされているあのれいむにはまったく同情しないけど、これはあまり気分はいいものじゃないわね) 長ぱちゅりーは黄昏時の空を見上げながら、ふとそんなことを思ったのだった。 次の日。 「むーしゃ!むーしゃ!しあわせー!」 「うめぇ!これめっちゃうめぇ!」 「がーつ!がーつ!」 「びゃあ!うまいいいいいい!」 ここは元長ぱちゅりーが治めていたぷれいす。 そこに存在している今まで大切に育てられてきた野菜畑にて、我が物顔でお野菜を食い散らかしているゆっくりの一団があった。 言うまでもなく、元長ぱちゅりーのぷれいすに移住してきた長れいむの群れのゆっくりたちである。 このお野菜ぷれいすは正式な土地の交換の代償として手に入れたものなので、 別にこれらのゆっくりが悪いことをしているというわけではないのだが、 何故かこのゆっくりたちの態度には人を不快にさせる何かがあった。 「ゆふふふ!おちびちゃんあわてないで!まだまだたっくさんおやさいはあるからね!」 「すきなだけむしゃむしゃするよー!なくなったって、どうせおやさいはまたかってにはえてくるんだからねー!」 「みょん!こんなゆっくりとしたぷれいすをてにいれるなんて、さっすがおさだみょん!」 「ちぇんははじめからわかってたよー!おさはたよりになるよー!」 一通り満腹になるまでお野菜を食して満足したのか、次々に長れいむを賞賛し始める群れのゆっくりたち。 「ゆふふふふ!それほどでもないよー!ゆふふふ!」 それに対してこみ上げる笑みを隠せない様子で応える長れいむ。 実際長れいむは有頂天であった。 今まで群れのみんなからはなんとも思われてなかった自分が、こうして皆からはっきりと認められ、賞賛されている。 自分を密かにバカにしていたであろう、幹部まりさや幹部ありすをまんまと出し抜き、群れ中の支持を一身にあつめているのだ。 多少当初の予定とは多少狂ったものの、結果としては自分の望み通りとなった。 そうとも!これこそが長としての本来の自分の実力なのだ! もう誰にも親の七光りなんて言わせない! この群れの長は自分こそが相応しいのだ! 多少ぷれいすが狭くなったからといって、それがどうしたとういのだ! この『お野菜が勝手に生えてくるゆっくりぷれいす』さえあれば、自身のゆっくりは保障されたも同然だ! そろそろ迫ってきた越冬の季節もなんら恐れることはない! 全てうまくいく! 何故ならこのむれの長は、このれいむさまだからだ! 「ゆぷぷぷぷ!ゆふ、ゆふふふふふふふふ!」 いつまでもニヤニヤとしている長れいむ。 この瞬間、長れいむは今までのゆん生の中で一番のゆっくりを感じており、まさにゆん生を謳歌していた。 「ちっ、きにいらないのぜ!」 そしてそれを少し離れた端のほうからじっと睨んでいるゆっくりが一匹。 幹部まりさだった。 今回の件では幹部まりさは別段何か失態をやらかしたというわけではないので、自身の支持基盤を失ったというわけではない。 だが無党派層ゆっくりたちによって、長れいむばかりが賞賛されているこの状況を鑑みれば、これは事実上自分の完全なる敗北であった。 望む物は得られず、れいむの支持率が上がったことにより自分の長への道は遠のくばかり。 不満をぶちまけようにも、群れ全体が長れいむムードに染まっている現状、下手をすれば自分が悪者扱いだ。 何だってこうなった! 本来ならば、あそこで笑っているのは自分だったはずなのに! いや、もし自分が長だったらのならば、お野菜ぷれいすだけでなく土地も、奴隷だって一緒に手に入れていたはずだ! クソ!チキショウ!何だってあんな駄ゆっくりが! 「くそ!まりささまだって!まりささまだって……」 悔しそうに呟きながら、幹部まりさはガブリと乱暴にお野菜にかぶりついたのだった。 さて、こうして長ぱちゅりーのぷれいすと長れいむのぷれいすとのこうっかんは無事成功した。 このこうっかんは若干のシコリを残しつつも、双方ともに非常に満足の行くものであり、 通常の取引ならば、これでめでたしめでたしといったところであろう。 しかし残念ながら……。 いや、当然のことながら。 これで話が済むはずもない。 長れいむは……。 いいや、長れいむの群れのゆっくりたちは。 ある重大な勘違いをしている。 それは人間ならば誰の目にも明らかな事実。 いちいち偉そうに言わずともみんな気づいていることだ。 だがあえて言おう。 その勘違いとは。 『お野菜が勝手に生えてくるゆっくりぷれいす』なんて世の中をナメ切ったゆっくりの妄想の産物は、この世のどこにも存在しないということである。 そして月日は流れる。 始めに異変に気づいたのは子ゆっくりたちだった。 あるいは子ゆっくりは生まれてまだ間もないために、いわゆるゆっくり界に蔓延る思い込みがそれ程強固でないのが原因だったのかもしれない。 とにかく、始めに違和感を口にしたのは子ゆっくりたちだった。 「ゆゆ?なんだかおやさいがすくなくなってきているきがするよ?」 「そうだねぇ、まえはもっとたっくさんあったはずなのに、なんだかへってるかんじがするよ!」 畑を前にし、野菜の数が減ってきたと主張する何匹かの子ゆっくり。 そりゃそうだ、実際野菜の数は減っている。 ゆっくりが食べてしまった分だけ、野菜の数が減るのは至極当然のことだ。 なんらおかしいことではない。 だが、長れいむはそんな子ゆっくりたちに諭すように言った。 「ゆゆん!ばかなかこといわないでね!おちびちゃんたち! ここは、おやさいがかってにはえてくるゆっくりぷれいすなんだよ! むーしゃ!むーしゃ!したおやさいは、しばらくすればまたかってにはえてくるんだよ! おちびちゃんたちは、へんなことしんぱいしないでゆっくりしてればいいんだよ!」 長れいむは自信たっぷりに胸をはって主張する。 「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」 そしてその主張に元気よく返す子ゆっくりたち。 別に子ゆっくりたちだって、本気でお野菜ぷれいすがどうこうしたとか考えたわけではなく、 ただちょっと疑問に思ったことを口に出しただけで他意はない。 だがこういった日常のちょっとした変化が、大きな出来事の前触れであることは珍しくない。 優秀な統治者ならば、こういったことには常に気を配っていてしかるべきである。 しかし長れいむは自ら率先してこの変化の芽を握りつぶした。 こうして長れいむたちの群れのゆっくりは、一つの重大なきっかけを自ら見過ごすことになる。 今の段階で気づけていれば、まだいくらでも打つ手はあった。 だが、もう全ては遅い。 順調に、着実に。 その時は迫ってきていた。 そうこうしているうちにまた月日は流れ……。 「ゆん?なんだかおやさいぷれいすのようすが……」 「へんだねぇ……おかしいねぇ……」 「へってるよ!まちがいなくおやさいがへってるよ!」 畑へとやってきたゆっくりたちが、にわかに騒ぎ出している。 それも当然で、畑に生えているお野菜の量は初期に比べて今では半分以下にまで減少していた。 流石にここまで劇的な変化が起これば、いくら能天気なゆっくりたちといえど次第に認識しだす。 お野菜が減っているという事実に。 「ゆん?どうしたのみんな?へんなかおしちゃって!ゆっくりしてないよ!」 そこへ、のこのことやってくる長れいむ。 「おさぁあああ!なんだかおやさいさんがへってるみたいなんだよおおおお! どうなってるのおおおおおおおおお!」 「ゆん?おやさいさんが? ゆーむ!」 畑に集まっているゆっくりたちに指摘され、じぃーと畑を凝視する長れいむ。 確かに言われてみれば昔よりもだいぶお野菜が減っているような気がする。 だがしかし。 「ゆん!たしかにほんのちょっとだけおやさいさんがすくなくなってるかもね! で?それがどうかしたの?」 何の問題ですか?といった表情の長れいむ。 「ゆっ!だっておやさいがこのままへっていっちゃったら、いつかは……」 一匹のまりさが、不安げに長れいむに訴える。 始めこそ沢山あったお野菜だが、その数は目に見えて減ってきている。 このまま減り続ければ、いずれはお野菜がなくなってしまうのではないかと疑うのは至極真っ当な発想だ。 しかもこれが平時ならともかく、今の季節は秋の真っ只中を少し過ぎた時期なのだ。 本来ならとっくに越冬の準備に取り掛かっているところである。 だがこの長れいむの群れのゆっくりたちは、お野菜を当てにして殆どのゆっくりが全く越冬の準備をしていなのだ。 このような状況で、もしお野菜がなくなったら……と一部のゆっくりが危惧を感じるのは無理からぬ話である。 しかし長れいむは、そんな焦燥に駆られているゆっくりたちを子バカにしたような目で見つめ返す。 「はぁ?なにいってるの?あたまだいじょうぶなの? いったいなにをいいだすかとおもえば、なにもしらないようなおちびちゃんじゃあるまいし! そんなんで、おとなのゆっくりとしてはずかしくないの? おやさいはかってにはえてくる!これはじょうっしきだよ! そしてこのばしょには、おやさいがはえていた!だからまたここにはまた、たっくさんのおやさいがはえてくるんだよ! そのぐらいのことがわからないの?ばかなの?しぬの?」 心底呆れたような口調で長れいむが言う。 「ゆっ、ゆう!でももしはえてこなかったら……。 げんにおやさいのかずはへっているわけだし……」 「くどいよ! まったくなんなの!こんなにあたまのわるいゆっくりが、れいむのむれにいるなんておもわなかったよ! じゃあかってにすれば!れいむはきょうもこのぷれいすで、おやさいをむーしゃ!むーしゃ!するから! きょうも、あしたも、あさっても!ずっとずっと、えいっえんにね!」 それだけ言うと、長れいむは今では半分ほどに数を減らした野菜へと向かう。 「ゆっ、ゆう!おさがそういうんだったら!」 「そうだね!おやさいはかってにはえてくるものだしね!」 「わかるよー!しんぱいしすぎなんだねー!」 「…………」 長れいむが自信満々で畑に向かったの見て、オロオロしていたゆっくりたちもまた畑へと向かう。 多少の胸騒ぎを感じていたとしても、ここ最近好き放題食べているお野菜の味の魅力には到底抗いがたい。 ふらふらとひきつけられるようにお野菜へと集まっていくゆっくりたち。 そして今日も今日とて群れのゆっくりたちは、己の欲望の赴くままにお野菜を食い散らかすのであった。 そしてまたしばらく月日が流れ、秋の終わりをいよいよ肌で感じ始めた頃。 「ゆがあああああああああああああああ! はえてこないよおおおおおおおおおおお! ぜんっぜん、おやさいがはえてこないよおおおおおお! どじでえええええええええ!なんでなのおおおおおおおおおおおお! おやさいさああああああああああん!ゆっくりしないではえてきてねえええええええ!」 そこにはお野菜の九割を食いつくし、残りが約一割程度の量となった畑で慌てふためく長れいむたちの姿があった。 「おさああああああああ!どうなってるのおおおおおお! こんなちょっとじゃ、えっとうにまにあわないよおおおおおおおお!」 「はえてくるっていったのにいいいいいい!うそつきいいいいいい!どうするのおおおおおおおおおお!」 「わがらないよおおおおおお!なんとかしてよ、おさあああああああ!」 「しるかばかああああああああ!こんなのれいむのせいじゃないよおおおおおおおお! おやさいさんがわるいんでしょおおおおおおおおおおお! かってにはえてこないからああああああああ!れいむわるくないよおおおおおおおおおお!」 今やほとんどの面積が土だけになった畑で、大パニック状態の群れのゆっくりたち。 実際これはヤバイ状況だ。 前にも述べたが、この群れのほとんどのゆっくりたちはお野菜を当てにしていたために、 今ではもう間近に迫っている越冬の準備を全くといっていいほどしていないのだ。 このままでは確実に越冬失敗し、群れは壊滅状態におちいることだろう。 「みょん!おさがだいじょうぶだといったから、みんなあんしんしておやさいをたべたんだみょん! いまさらわるくないなんてはなしは、つうようしないみょん!」 「そうだ!そうだ!」 「このせきにん!どうとるつもりなの!」 「なんとかしてね!はやくなんとかしてね!」 「さっさとしろ!このぐず!」 「しね!むのうなおさはゆっくりしね!」 今までの賞賛とはうって変わって、掌を返すように長れいむを責め立てる群れのゆっくりたち。 「ゆがあああああ!ちっ、ちがうんだよ!これはなにかのまちがいなんだよ! おっ、おやさいさんはいまちょっと、きゅうけいしてるんだよ! きっとそうだよ!だっ、だからもうすこしだけまってね!そうすればきっと……」 「ゆっへっへっへっへ!もうすこしまてばなんだって? まりささまたちがむしゃむしゃしたいときに、おやさいがはえてこないぷれいすなんて、とんだけっかんぷれいすなのぜ! しょせんれいむがてにいれたおやさいぷれいすなんて、そのていどのものだってことぜえええええ!」 必死に弁解する長れいむの横から割り込むようにして、大声で主張するゆっくりがいる。 それはここ最近ではめっきりおとなしくなっていた幹部まりさだった。 否、別におとなしくしていたわけではない。 ただ虎視眈々と機会をうかがっていたたけだ。 今の状況のように、長れいむの信頼が揺らぐ絶好の機会を! 「みんなきくのぜええええええええ!みてのとおり、このむのうなおさであるれいむがてにいれたおやさいぷれいすは、 いつ、つぎのおやさいがはえてくるかもわからないような、けっかんぷれいすなのぜえええええええ! こんなおさについていくようじゃ、みのはめつはあきらかなのぜえええええ!」 ここぞとばかりに長れいむをこき下ろしはじめる幹部まりさ。 「でも、あんっしんするのぜえええええ! これからは、このまりささまが、むのうなれいむにかわって、このむれのおさになってやるのぜえええええ! まりささまがおさになれば、こんなちんけなものとはひかくにならないくらい、もっともっとすごいぷれいすでゆっくりできるのぜえええ!」 そしてついには自身の長宣言まで飛び出した。 これは事実上、現長であるれいむに対する宣戦布告であり、これを群れ中のゆっくりの前で宣言するということは、 もはや幹部まりさは冗談ではすまない領域へと踏み込んだことを意味する。 幹部まりさはこの機に乗じて本気で長の座を奪いにきたのだ。 「ゆあああああああああああ!なにいってるのおおおおおおおお! みんなだまされないでねえええええ! このばしょいじょうの、ゆっくりぷれいすなんて、あるはずないよおおおおおお! まりさがいってることはでたらめだよおおおおお!」 たまらず叫び返す長れいむ。 「でたらめなんかじゃないのぜええええええ! まりささまは、こんなちんけなおやさいぷれいすなんかじゃなく、もっともっとひろくて、 おやさいのかずなんてまったくきにしなくていいような、しんのおやさいぷれいすをてにいれてみせるのぜえええ!」 「なっ、なにいってるのまりさああああああああ! とうとうあたまがおかしくなっちゃったのおおおおおお? このやまに、ここいがいのおやさいぷれいすなんてあるわけないでしょおおおおお! ばかなこといわないでねええええええええ!」 「ゆっへっへっへっへ!これだから、れいむはむのうだというんだぜぇ! めさきのちいさなことばかりにとらわれて、ぜんたいがまるでみえてないんだぜぇ!」 長れいむを嘲笑しながら幹部まりさは群れのゆっくりたちに向き直り、そして大声で力説する。 「むのうのれいむにできることなんて、こんなやくたたずのちっこいおやさいぷれいすをてにいれるのがせいぜいなのぜ! だけどまりささまはちがうのぜえええええ! まりささまたちは、これからやまをおりて、くそにんげんどもの、おおやさいぷれいすをうばいにいくのぜええええ! さらに、そこにいるくそにんげんどもも、ねこそぎどれいにしてやるのぜえええええ! ひろいひろいとち!さらにおやさいがかってにはえてくるゆっくりぷれいす!そしてどれい! まりささまをおさとしてみとめ、したがうのならば、そのすべてがてにはいるのぜええええええ! さあ!まりささまといっしょに、みんなでやまをおりるのぜええええええええ!」 山を下り、人間の土地に侵略し、土地、野菜、奴隷の全てを手に入れる。 それが幹部まりさの提示した政策だった。 この政策は幹部まりさの内面が非常によく反映された考えだといえる。 長れいむは、お野菜が勝手に生えてくるぷれいすを手に入れたことで皆からの支持を集めた。 なればこそ幹部まりさは、それ以上の成果を上げることで長として認められなければ、自身の気がすまない。 長れいむに劣る成果など、幹部まりさのプライドが許さない。 その発想の結果が、この人間ぷれいすへの侵略計画なのである。 「ゆええええええええええ!なにいいだすのおおおおおお! このやまのしたは、にんげんさんたちのゆっくりぷれいすなんだよおおおおおお! しかも、そのばしょには、ぜったいにちかづいちゃいけないって、むかしからのおきててかたくきめられてるでしょおおおおおお! まりさはそのおきてをやぶるきなのおおおおおおおお!ばかなこといわないでねええええええ!」 長まりさの提示した政策に、珍しく正論で反論する長れいむ。 これは実際にその通りで、この掟は確かに実在し、今まで破られたことがない。 返しとしては至極まっとうな意見である。 だが、しかし……。 「はん!むれがほろびるかどうかってときに、そんなまりささまがうまれるずっといぜんからあるおきてのことなんざ、 しったこっちゃないのぜ! だいたいわるいのは、くそにんげんどものほうなのぜ! まりささまはしっているのぜ!このやまのふもとには、くそにんげんどもが、 たいりょうにあるおやさいぷれいすを、ひとりじめしてるってことを! そんなげすどもからぷれいすをうばって、どれいにしたところで、いったいなにがわるいっていうのかぜ!」 ゆっくりお得意のトンデモ思考で、自身の正当性を訴える幹部まりさ。 もはや何を言われたところで、民衆の面々で長宣言までしてしまった幹部まりさは後には引けないのだ。 ただただ猪のように突き進むのみである。 「さあ!このむのうなおさと、しみったれたぷれいすをすてて、えいこうをてにしたいゆっくりは、 まりささまのもとにあつまるのぜえええええ! そして、みんなでずっとゆっくりするのぜええええええ!」 ざわ…ざわ…。 幹部まりさの突然の勧誘に揺れる動く群れのゆっくりたち。 あまりの事態に皆動揺を隠せずにいた。 どのゆっくりも一様に、周囲をチラチラと盗み見て様子を窺っている。 だがやがて……。 「みょん!みょんはまりさについていくみょん! もうみょんは、おやさいのあじなしじゃやっていけないみょん! そのためには、こんなちんけなぷれいすじゃまんぞくできないみょん!」 「まりさも!まりさもいくよおおおおおお! こんなところで、のたれじぬのはごめんだよおおおお!」 「ありすもまりさについていくことにするわ! もうこんないなかぐらしはまっぴらよ!」 「れいむもおおおおおおお!こんなおやさいがすぐにはえてこないぷれいすなんかに、ようはないよ!」 「わかるよー!おさなんかよりも、まりさのほうがずっとたよりになるんだねー!」 次々と幹部まりさに賛同していく群れのゆっくりたち。 やはりすぐそこに迫った越冬の危機感と、もはやお野菜が僅かしか残っていない畑の視覚効果は大きいようだ。 次々に賛同者は増えていき、やがては群れの半分程のゆっくりたちが、幹部まりさとともに群れを降りる決断を下した。 この半分という割合は、突発的な提案にしては十分すぎる成果だと思われるが、幹部まりさとしては不満だった。 幹部まりさの当初の見込みでは、群れの八割ほどのゆっくりが自分にの味方になると考えていたからだ。 その目算は決して幹部まりさの思い上がりではなく、かなりの精度で正しいといえるものだった。 では何故半分程のゆっくりしか集まらなかったのか? その最大の原因は……。 「ありす!しょうきなのかぜ!こんなばしょにれいむとのこっても、ゆっくりはないのぜ! まりささまとくるのぜ!いまならひきつづきかんぶにしてやるのぜ!」 幹部ありすだった。 なんと幹部ありすと彼女を支持する取り巻きのゆっくりたちは、この場に留まるという選択をしたのだ。 てっきり幹部ありすも、自分と同じように長れいむに反目してると踏んでいた幹部まりさは、 幹部ありすたちのグループも、自分を支持すると計算に組み込んでいたのだ。 しかしここでまさかの幹部ありすの長れいむ擁護。 これにより幹部まりさの計算は狂い、賛同するゆっくりの数は半分程度に留まったというわけだ。 「ありす!いったいなにかんがえてるのぜ! いまらさられいむをしじして、いったいなんになるんだぜ!」 「べつにそういうわけじゃないけどね! ただ、ありすはまりさやれいむとちがって、おやさいぷれいすにそんなにしゅうちゃくがないだけよ! それに、すっきりするかちもないような、むのうでいなかものの、にんげんなんてどれいにしてもしょうがないしね!」 「ゆぐぐぐぐ!ふん!じゃあかってにするがいいのぜ! あとでなきついても、たすけてやらないのぜ! さあみんな!こんなやつらほっといて、さっさといくのぜ!あらたなる、まりささまのゆっくりぷれいすへ!」 そう捨て台詞を吐くと、幹部まりさはぞろぞろと群れのゆっくりたちを引きつれ、山を下りていく。 後に残されたのは長れいむ、幹部ありす、そして今ではその数を半分にまで減らした群れの面々であった。 「ゆっ、ゆゆうううう!あっ、ありがと、ありすううううううううう! ありすがれいむのみかたをしてくれるなんてえええええええ!」 幹部まりさが去った後、感極まった表情で幹部ありすに礼を言う長れいむ。 長れいむがいまだに長でいられるのは、幹部ありすがこの場に残っているおかげなのだ。 もし、幹部ありすが幹部まりさの誘いに乗り、群れを離れていたら、全体の八割以上のゆっくりが群れからいなくなることになり、 長れいむの群れは瓦解する。 そうなっていれば長れいむの命は恐らくなかった。 幹部まりさが生かしておかないからだ。 だが、今のように半分程度のゆっくりが残っている状況での長殺しは流石にまずい。 だからこそ、幹部まりさは長れいむに手を出さずに下界へと向かったというわけだ。 「ゆゆ!だいじょうぶだよありす!きっとなんとかなるからね! あんなくずまりさのことなんてわすれて、これからはにひきでがんばっていこうね!」 長れいむは幹部ありすが自分の味方と知って安心したのか、急にごまをするように擦り寄っていく。 「あら、かんちがいしないでほしいわね!」 だがそんな長れいむを、氷のように冷たい表情で見つめる幹部ありす。 「たしかにありすたちは、このばにのこるせんたくをしたけれど、れいむがむのうといういけんにかんしては、 ありすはまりさとおなじなのよ!」 「ゆっ、なっ!」 「そういうわけで、もうこんごいっさいありすたちは、れいむのしじにはしたがわない! あとはかってにやらせてもらうわ! それじゃいきましょみんな!」 「「「「ゆーーー!」」」」 言いたいことだけ言い終えると、ぞろぞろとその場を去っていく幹部ありすとその取り巻きたち。 その場にはポカンとした表情の長れいむと、どうしていいかわからずオロオロとうろたえるゆっくりたちが取り残された。 結果として群れの数はさらに減ることとなり、今ではもう全体の四分の一程度の数しかその場には残っていない。 最早ここまでくると群れとは呼べず、ただのゆっくり集団である。 「……えっと、あの……おさ…」 残ったゆっくりが、遠慮がちに長れいむへと話しかける。 が、憤怒の炎に身を焦がしている長れいむはまともに取りあおうとしない。 「ゆがあああああああああああ!だまってねええええええええええええええ! どいつもこいつも、だまってねええええええ!はえてくるよ! はえてくるんだ!もうすこし!もうしこしだけまてば!おやさいはかってにはえてくるんだよおおおおおおおおおお! だからだまれえええええええええええ!ちぎじょおおおおおおおおおおお! ふざげやがってええええええええ!このくそおやさいばたけがあああああああああ!」 体をブッルンブッルンと震わせながら、やけくそ気味に叫ぶ長れいむ。 そしてそのまま、僅かに残ったお野菜ところまでドスドスと跳ねていき、乱暴にお野菜にかぶりつく。 「むーじゃ!むーじゃ!じあばぜええええええええええええええええええ! はあああああ!こんなゆっぐりじだ、おやさいばたけをすてるなんて、どいつもこいつもおおばかだよおおおおおおおおおお! ちぎじょおおおおおおお!いまにみてろおおおおおおお!はえてくるにきまってるだろおおおおおお! そうなってからほえずらかくなよおおおおおお! ほらああああああ!ゆっくりしないで、さっさとはえでごいいいいいいいい! むれのおさである、れいむのめいれいがきけないのがああああああああ!」 叫びながらバン!バン!と地面を叩きつけるようにその場で飛び跳ねる。 誰がどう見てもまともな行動ではない。 お野菜が勝手に生えてくると信じること、それだけが長れいむのできる唯一のことだった。 だが、どれだけ叫ぼうと、どれだけ畑で飛び跳ねようと、ゆっくりの妄想に合わせて世界が動くことは決してないのだ。 こうしてこの日、長れいむの群れは大きく三つに分裂することになる。 新たなるぷれいすを求め、下界へと旅立った幹部まりさ。 お野菜が生えてくると信じ、ただただ畑で祈るだけの長れいむ。 そして、何が狙いか、不気味に沈黙する幹部ありす。 これらの三つの勢力である。 いや、正確には少し違った。 実はこれらのどこのグループにも属していない、少数の第四の集団が密かに存在していた。 その集団とは……。 「むきゅ!それで?あなたたちが、ぱちぇの群れに新しく入れて欲しいっていうゆっくりたちかしら?」 「そうだよ!まりさたちはもう、あんなおさや、かんぶたちにのおさめるむれにはついていけないよ! だからおねがいだよ!ぱちゅりーのむれにいれてね! ぜったいにめいわくはかけないよ!」 ところ変わってここは長ぱちゅりー群れ。 新たに広くなったぷれいすへと移住した長ぱちゅりーたちは、現在大混乱にある長れいむのたちの群れと違い、 順調に越冬の備えを終えつつあった。 特に大きな問題もなく、これならば無事計画通り上手くいきそうだと思っていた矢先、 突如として長れいむの群れに所属していた少数のゆっくりたちが長ぱちゅりーの下へとやってきたのだ。 何事かと身構える長ぱちゅりーだったが、やってきたゆっくりの口からは以外な言葉が飛び出した。 なんと、自分たちを長ぱちゅりーの群れに加えて欲しいというのだ。 「かんぶまりさはばかだよ!にんげんさんのぷれいすには、ぜったいにはいっちゃいけないって、むかしからおきてできまってるのは、 にんげんさんは、とってもつよくて、ゆっくりじゃぜったいにかてないのがりゆうなのに! にんげんさんのぷれいすをうばおうなんて、じさつこういだよ!」 「おさのれいむはおろかものよ! まだ、あのおやさいはたけにしゅうちゃくしているの! まえまえからおかしいとおもっていたけど、こんかいのけんでかくしんしたわ! たぶん、きっと、おやさいはかってにははえてくるものではないのよ!」 「あのかんぶありすはぶきみなのぜ! きっと、なにかよからぬことをかんがているのぜ! そしてそれはきっと、むれのゆっくりではなく、じぶんのゆっくのためなのだぜ! そんなかんぶはしんようできないのぜ!」 口々に長や幹部たちの不満を言うゆっくりたち。 だがそれらの不満は実に正鵠を得いていた。 「むきゅ!いいたことは分かったわ! でも多少不満があるとはいえ、群れを抜けるのは長に対する裏切りではなくて?」 「べつにうらぎったわけじゃないよ!むしろうらぎったのは、おさたちのほうだよ! まりさたちだって、いままで、おさやかんぶたちのむちゃくちゃに、さんざんがまんしてきたんだ! でもそのけっかが、おさたちとのしんじゅうだなんてじょうだんじゃないよ! まりさたちだって、べつにすきであのむれにうまれたわけじゃない! だいいち、むれをでていって、ほかのむれにはいっちゃいけないなんておきてはないからね! わるいことをしているつもりはないよ!」 「まっ、たしかにそれは道理かもね」 長ぱちゅりーは頷く。 「それにまりさたちだって、ただでむれににいれてもらおうなんておもってないよ! みんな!あれをだしてね!」 「「「「ゆゆ!」」」」 集まったゆくりたちが懐から何かゴソゴソと取り出す。 「あら!」 「みょん!あれは!」 「わかるよー!おやさいだよー!」 そう、集まったゆっくりたちが取り出したのは、かつて畑に生えていたお野菜だった。 「もしものときのために、たべずにとっておいたんだよ! このおやさいを、すべてわたすから、ぱちゅりーのむれにまりさたちをいれてね! そもそもまりさたちは、ぱちゅりーのむれにいれてもらったからといって、なにからなにまでせわになるきはないよ! えっとうのそなえぐらいかくじでちゃんとしている! ただ、このままあのむれにいるとゆっくりできなそうだから、ぱちゅりーのむれでほごしてもらいたいんだ!」 切実に訴えるゆっくりたち。 集まったゆっくりたちは、長れいむの群れにあっても、お野菜を食い散らかさずにきちんと越冬の備えをしていたごく少数のゆっくりたちだったのだ。 先見の明があったこれらのゆっくりたちは、これ以上あの群れに留まっているのは危険と考え(越冬の準備をしていないゆっくりたちに食料を力ずくで強奪される可能性が高い)、 長ぱちゅりーの群れへと移住を決意したのだ。 「むきゅ!なるほどね!ちゃんと考えあってのことらしいわね! わかったわ!あなたたちの、群れへの移住を許可します! ちぇん!みんなを群れに案内してあげて!」 「わかったよー!みんなこっちだよー!」 「「「「ゆっくりありがとね!」」」」 幹部ちぇんに連れられて、ぞろぞろと群れに入っていくゆっくりたち。 皆一安心といった表情で、笑顔だった。 「みょん!いいのかみょん? あんなにかんたんに、うけいれて? もしかしらた、れんちゅうはすぱいかもしれないみょん!」 幹部みょんが警戒するように言う。 「考えすぎ……とまでは言わないけれど、その可能性は限りなく低いわね。 越冬準備不足で混乱している長れいむたちの群れが、少数とはいえ越冬できるだけの食料を持たせてゆっくりを送り込んでくるなんて、 そんなこととても考えられない。 第一私たちの群れの一体何をスパイしようというの? 長れいむの様子を聞く限りじゃ、未だにはめられたことにすら気づいてないみたいじゃない?」 「みょん!そういわれてみればそうだみょん!」 納得したように頷く幹部みょん。 さて、今更あえて説明するまでのないことだが、一応ここでネタばらしをしておこう。 今、長れいむの群れを襲っている混乱。 その根源は長ぱちゅりーたちの策略によって引き起こされたものである。 かねてから奴隷か、戦争かの二択を迫っていた長れいむの無茶な要求に困り果てていた長ぱちゅりーたちは、 この現状を打破するためにある一計を案じた。 それこそがこの、土地のこうっかん作戦である。 そのやり方はこうだ、まずは今まで長い間群れの奥で隠しながら栽培していたお野菜の情報を大々的に流出させる。 この情報を早速耳にした長れいむたち幹部一同は、案の定お野菜畑にやってきて、物欲しそうな目をしだす。 そこで、長ぱちゅりーは長れいむに、この土地が欲しくないかと持ちかけるのだ。 ここで大切なことは、長れいむ一匹のみと交渉することである。 これには二つの意味がある。 その一つは、長れいむと幹部たちの不和を煽るため。 幹部ぱちゅりーは、風の噂で長れいむと幹部たちがあまり仲がよくないという話を知っていた。 また、定期的に開かれる群れの会議でも、幹部まりさ幹部ありすは長れいむに渋々従っているような節が見られていたのだ。 これを最大限利用するために、長れいむのみを交渉相手に指名し、幹部たちの嫉妬や功名心を煽ったのだ。 理由の二つ目は、やはり長れいむ一匹のほうが格段に交渉がやりやすいからである。 特に戦争の際に、長れいむだけを狙う等の話は、二匹だけの密談の間でないと話題に出しづらい。 仮に出しても、幹部二匹に押し切られてしまう可能性が高い。 ゆえに長ぱちゅりーとしては、長れいむと一対一で交渉することは重要な意味があったのだ。 そして最後の難関としては、実際に長れいむが土地の交換へと応じるかという問題があった。 この部分だけは本当に賭けだった。 もし長れいむが自身の犠牲をいとわずに、戦争を選択していたらと思うとゾッとする。 当然その可能性は0ではなかったのだから。 だが、何度かの会議で長れいむの性格をある程度熟知している長ぱちゅりーは、 かなり高い確率で長れいむが土地の交換へ応じると踏んでいた。 そもそもの前提として長れいむの側だって、戦争はなるべく避けたいのではないか? そう長ぱちゅりーは推測していたのだ。 もちろんそう考える根拠はある。 長れいむが提案した合併奴隷法を長ぱちゅりーが最初に断ってから、最終的に長れいむが戦争を宣言するまでに、 随分と間が開いているというのがその理由だ。 長れいむの短気で幼稚な性格を分析するに、もし戦争というカードが自由に使えるのならば早々に、 それこそ始めに長ぱちゅりーが始めに要求を断ったときに使っているのではないか? それをせずに、何度もまどろっこしく、ゆっくりできない交渉を長れいむにしては我慢強く続けたということは、 戦争は向こうにとっても都合がよろしくなく、なるべくなら避けたいものだということの証拠に他ならない。 以上の推論をもとに、長ぱちゅりーは強気の勝負にのぞんだ。 そして結果はごらんの通りである。 長ぱちゅりーと長れいむは、野菜畑と広大な土地とを交換した。 この交換は双方が満足いくものだったが、実際の価値はとても釣り合っているものとはいえない。 いくら野菜が生えているとはいえ、少量の土地と広大な土地ではとても同等ではないだろうことは明らかだ。 にもかかわらず長れいむが交換に応じたのは、この土地を『お野菜が勝手に生えてくるゆっくりぷれいす』と勘違いしているからだ。 一般的にはゆっくりに、お野菜は勝手に生えてこないという事実を認識させるのは難しいとされている。 過去には何度もゆっくりに、お野菜が勝手に生えてこないということを教えよう、という試みが話として伝えられ、 そのたびに結局は失敗に終わったり、あるいはこんな簡単なことを悟らせるのに、割に合わない苦労を強いられてしている。 この最大の原因は、ゆっくりたちがお野菜が勝手に生えてこないということを理解できないのではなく、理解しようとしないことにある。 ゆっくりがお野菜は勝手に生えてくると強く認識しているのは、そちらのほうがゆっくりにとって都合がいいからにほかならない。 だからゆっくりは口をそろえてそう主張するし、そう信じる。 どれだけ現実を見せ付けてもそう簡単に考えを変えようとしない。 そして長れいむの群れのゆっくりたちもその例にもれず、ほとんどが理解しようとしないゆっくりだった。 だから長ぱちゅりーはそこを逆手に取ったのだ。 今まで秘かに栽培していた野菜畑を、ある日突然生えてきたと偽り、まんまと長れいむたちの広大な土地と交換した。 予想通り長れいむたちはお野菜は勝手に生えてくると信じ込み、そろそろ冬が近いというのに越冬の準備を怠った。 そして必然的に畑の野菜が減っていくにつれ、長れいむは徐々に求心力を失い、 代わりに幹部まりさ、幹部ありすが台頭することにより群れは空中分解することとなる。 さらにに幹部まりさが群れの約半数のゆっくりを連れ、人間の領土に攻め込むとう暴挙に出たために、群れは大きく弱体化。 とどめとばかりに僅かに残ってた優秀なゆっくりたちも、全て長ぱちゅりーの群れへと亡命したことにより、現在長れいむの群れへと残っているのは、 駄ゆっくりばかりという状態だ。 正直ここまでの結果は長ぱちゅりーとて予想してなかった。 当初の予定では、越冬に失敗させ、長れいむの群れの国力を長ぱちゅりーの群れと同等程度まで削ぐ、くらいの腹積もりであった。 だが今や長れいむの群れは半壊滅状態にある。 仮に戦争となっても確実に勝利できるだろう。 いや、わざわざ手を下さなくても、春まで待ってれば勝手に越冬失敗して滅びるに違いない。 それもこれも全ては長ぱちゅりーが土地のこうっかんを促したからだ。 だが同情はしない。 もとはと言えば、長れいむが土地の合併奴隷法なんて馬鹿げた要求を迫ったからこんなことになったのだ。 要するに自業自得だ。 そして長れいむは今でも自分の過ちに気づかずに、畑の前でお野菜が勝手に生えてくると信じ込んでいるらしい。 まあ、そんなに勝手に生えてくると信じたいならば、勝手に信じていればいいのだ。 決して勝手に生えてくることのない畑の前で、延々と信じ続ければいい。 どれだけあからさまな真実を突き付けられても、いまだに生えてくると信じ、畑の前で祈っているという長れいむは、 愚か、いやむしろ憐れですらあった。 「むきゅ!れいむはどうやらもうだめね、まりさも人間さんのところに攻め込むなんてバカげたことをするわ」 「みょん!でもそんなことしてにんげんさんのいかりにふれないみょんか?」 最もな疑問をもらす幹部みょん。 「多分……大丈夫だと思う……一回くらいなら……。 山狩りは時間と手間がかかるから、めったなことではやらないと聞いたわ。 でもほとぼりが冷めるまでしばらくの間は、いかなる理由があろうとも山を下りないように群れのみんなに徹底しておく必要があるわね」 「りょうかいしたみょん!」 頷く幹部みょん。 実際今からでは手の打ちようがない。 人間がどう出るかについては運を天に任すしかないのだ。 「幹部まりさのことはもうしかたないとして、あと残っているのは幹部ありすね。 亡命してきたゆっくりたちの話だと、いまだに何かよからぬことを考えてるらしいから、要警戒しておかないと」 「みょん!どうせたいしたことじゃないみょん!」 「だといいんだけれど……」 若干不安気に言う長ぱちゅりー。 ゲスゆっくりというのは、時に正常な理屈からでは全く想像もつかないような行動を取ることがある。 ゆえにそれらの行動を予想するのは難しい。 たとえ大した脅威ではないとわかっていても、何が起こるかわからないというのは不安なものなのだ。 こうして一抹の不安を残しつつも、長ぱちゅりーの群れは順調に越冬の準備を進めるのであった。 そしてまた少し月日が流れ、いよいよ越冬が目前と迫りつつあった頃。 「はえてきてね……おねがいだよぉ! おやさいさん、ゆっくりしないではえてきて!れいむをたすけてね! なんでこんなにおねがいしてるのに、はえてきてくれないのぉ! いじわるしないでねぇ!どうして!どうしてなのぉ! れいむなにもわるいことしてないよぉ!いまならゆるしてあげるよぉ! だからはてえてきてねぇぇぇぇ!ゆっくりしないで、はえてきてぇぇぇぇぇ!」 今ではもうすっかりお野菜を食いつくしてしまい、ただの荒地となった畑にて、 ぶつぶつと念仏のように懇願を繰り返す長れいむの姿があった。 長れいむはすっかりやせ細り、薄汚れ、その目には生気というものがなかった。 最後のお野菜を食いつくしてからもうだいぶ日が経つ。 その間全く食事をしていないのだからこの衰弱は当然だ。 今までお野菜食い放題で贅沢三昧していた長れいむは、いまさら狩に行くような生活には戻れない。 できることといえばこうして畑で無駄な祈りを捧げることぐらいなのだ。 ところで、今この畑には長れいむの姿しか見られない。 他にいたゆっくりたちは今では長れいむを完全に見限り、幹部ありすについていったからだ。 つまりは事実上今の長れいむは一人ぼっちであり、もう長でも何でもないただの駄ゆっくりに成り下がったというわけだ。 ここまできてしまえば長れいむは群れのゆっくりたちに、こんな事態になったことに責任として制裁されてもおかしくない状況である。 だがそんなことにはならず、一匹畑に放置されたままでいるのは、今では群れの実権を完全に握っている幹部ありすによって、 長れいむに手を出せば自分らが容赦しないと宣言したからである。 本人は知る由もないが、この宣言によりかろうじて長れいむの命は繋がっている状況であった。 では何故幹部ありすはこんな宣言をしたのか? 長れいむの身を案じて? そんなわけがない。 全ては自分のためである。 幹部ありすは物陰から秘かに、ぶつぶつと畑に呟いている長れいむを覗き見る。 「ゆほほほほほ!ころあいねぇ! それじゃ、そろそろいこうかしら!」 じゅるりと舌なめずりをし、その場を離れる幹部ありす。 向かう先は長ぱちゅりーの群れ。 今まで不気味に沈黙していた幹部ありすが、ついに動くときがきた。 「おさーたいへんだよー!むこうのむれの、かんぶありすが、おさとかいだんをしたいって、やってきたよー! いま、いりぐちのところでまたせてるけれど、どうするのー!」 おうちでゆっくりしていた長ぱちゅりーのところに、幹部ちぇんの声が響き渡る。 「みょん!とうとうきたみょんか! しかしいったい、いまさらなんのようなのかみょん!」 その場に一緒にいた幹部みょんが疑問を口にする。 「さぁ? 単純に考えれば、越冬用の食料の援助要請かしらね? もしそうだとしたら、少しぐらいは援助してあげてもいいと思ってるわ、 あの群れの勢力を削ぐという当初の予定は十二分に達成されてるしね。 まあどんな話がくるにしろ、いまさらこちら側がピンチになるようなことはないとは思う。 でもこういう楽勝ムードのときこそ油断は禁物よ。 最後まで用心していかないとね」 「こころえたみょん!」 長ぱちゅりーと幹部みょんが気を引き締めていると、外からは何か揉めるようなけたたましい声が聞こえてきた。 「まっ、まってねー!まだおさはあうっていってないよー! かってにはいってこないでねー!」 「うるさいわね!このいなかもの!おまえみたいなしたっぱじゃ、はなしにならないっていってるでしょ! さっさとそこをとおしないさい!」 どうやら幹部ありすは、幹部ちぇんたちの静止を振り切り、勝手に群れ内に進入してきているようだ。 「やれやれ、何やってるのかしらまったく」 どういう状況になっているのか、嫌でも想像できてしまうような展開に溜息をつきながら、長ぱちゅりーおうちから出る。 するとそこには案の定、幹部ちぇんと群れのゆっくりたちに取り押さえられている幹部ありすの姿があった。 「おとなしくするんだよー!わかれよー!」 「さわらないで!けがらわしい!はなしなさいよしたっぱ!ありすをだれだとおもってるの! ありすはおさにはなしがあるのよ!それをとめるとはなにごとよ!これはじゅうようなもんだいなのよ!」 取り押さえられたままジタバタともがいている幹部ありす。 何があったかは聞かなくても大体分かる。 大方やってきた幹部ありすが、取り次ぐから待ってくれといったゆっくりの静止を聞かずに、 勝手に群れに入ろうとしたところを取り押さえられたのだろう。 バカバカしい話だ。 「ほら、ありす、お望みの通りやってきてあげたわよ! だから暴れるのをよしなさい! あなたたちも放してあげなさい」 「わかったよー!」 「ゆう!」 長ぱちゅりーがやってきたことにより、おとなしくなった幹部ありすを放すゆっくりたち。 「んぼぼぼぼぼ!ごきげんよう!ぱちゅりー!あえてうれしいわ! でもあなた、ぶかのしつけがなってないようね!いきなりこのありすをつかまるなんて、ぶれいにもほどがあるわよ! こんどからは、にどとこんなことがないように、よーくいいきかせておいてちょうだい!」 自由になった幹部ありすが頬を膨らませる。 「それはありすが勝手に群れをに入ろうとしたからでしょ。 まあ、そんなことはどうでもいいわ。 何かぱちぇに話があってきたんじゃないの? さっさとその話をしてちょうだい!」 「ゆほほほほ!きがはやいのね!これだからいなかものはゆっくりしてないというのよ! まっ、いいわ! きょうはぱちゅりーにとって、とってもみみよりなはなしをもってきたのよ!」 「耳寄りな話? いきなり胡散臭いわね。 今のありすたちが、ぱちぇたちの得になるような情報を持っているとは思えないのだけれど?」 訝しげな表情の長ぱちゅりー。 「ゆふふふふ!そんなことないわ! これはぱちゅりーにとって、とってもおいしいとりひきよ! ぜったいにきいてそんはしないわ!ほら!きょうみがでてきたでしょう!」 ニヤニヤと三流セールスマンの売り口上のようなセリフを述べる幹部ありす。 対して長ぱちゅりーは早くも呆れ気味である。 「ふぅ、まあいいわ。 どうせ言うまで帰る気はないんでしょう。 だったらとりあえず言うだけ言ってみなさいな。 「んほほほほほ!そんなふうに、むりしてきょうみのないふりしちゃって!つんでれなのね! でもいいわ!ありすはとかいはだからゆるしてあげる! それじゃさっそくほんだいだけど、ねぇぱちゅりー、あなたありすたちのむれのおさになるきはない?」 「!?」 長になる気はないか? 幹部ありすの突然の提案に、驚きの気配を隠せない長ぱちゅりー。 そんな長ぱちゅりーの様子に気をよくしたのか、嬉しそうに話を続ける幹部ありす。 「ゆふふふ!きょうみをもってくれたみたいね! とうぜんよね!だってもしありすたちのむれのおさになれたのなら、ぱちゅりーは自分のむれと、 ありすたちのむれの、ふたつのむれでおさになることになる! それはつまり、このやまぜんたいのおさになるということだものね! きょうみがないはずがないわ!」 相変わらずのニヤついた笑みを顔に張り付けながら、幹部ありすはさらに続ける。 「いまありすは、たちばしょう、いちおうはかんぶのちいにおさまっているわ! でもじっしつじょう、むれをおさめているのは、あのくずれいむじゃなくて、このありすなの! あのくずれいむのしたについているゆっくりは、もういっぴきとていないのよ! すべてのゆっくりは、ありすのしはいかにあるわ! このいみがわかる?つまりは、くずれいむのおさのしょうごうは、それこそ、ただのかざりものというわけ!」 淡々と己の群れの現状を説明する幹部ありす。 「んほほほほほ!あのむのうれいむは、いまでもおやさいはたけでいっぴき、ぶつぶつとやってるわ! だから、このありすがちょっとめいれをくだせば、いともかんたんにえいえんにゆっくりさせることができのよ! そして、そのあとにのこったしたいを、ぱちゅりーにさしだせばどうなるかしらぁ? むのうなおさはしに、そしてゆいいつのこったかんぶであるこのありすが、ぱちゅりーをつぎなるおさとみとめるならば、 だれのもんくもなく、ぱちゅりーがありすのむれのおさとなるのよ! どう?すばらしいはなしだとおもわない?」 「へー!ぱちぇのために、長であるれいむをありすがわざわざ始末してくれるってわけ? しかもその長の地位を、ぱちぇに譲るですって! そりゃ随分と至れり尽くせりな話じゃないの?」 「ゆほほほほ!かんちがいしちゃこまるわね!もちろんこのありすがここまでやるからには、かわりにじょうけんというものがあるわ!」 「ふん!でしょうね!」 長ぱちゅりーが鼻で笑う。 この幹部ありすが、誰かの得になるだけの行動をするわけがないのだ。 ゆえに何か条件をつけてくることなど容易に想像できていた。 「ありすは、おされいむのくびをさしだすじょうけんとして、このありすを、かんぶたいぐうで、ぱちゅりーのむれへとくわえることをようきゅうするわ! おうちは、たっくさんのゆっくりが、かいてきにすめるむれいちばんのおおきさのものをよういして! もちろんえっとうようの、しょくりょうもわすれずにね! それから、これがいちばんじゅうようなんだけど、このありすせんようの、どれいをよういしてちょうだい! かずはそうね……おおまけにまけて、じゅっぴきていどでいいわ!そのかわり、むれいちばんのびゆっくりをよこすのよ! まっ、とりあえずはそんなとこね! これがありすのようきゅうする、さいていげんのじょうけんよ!むれひとつてにいれるとしては、はかくのじょうけんでしょ!」 「…………」 「…………」 「…………」 幹部ありすの条件を聞いた幹部ちぇん、幹部みょん、それに周りのゆっくりたちはみな黙っていた。 言葉がない。 開いた口がふさがらない 二の句が告げない。 何を言っていいか、どうやってこの幹部ありすを罵っていいのか適切な言葉が瞬時にみつからないのだ。 「一つ聞きたいたいんだけど、あなたはその条件で満足かもしれないけど、残されたれいむの群れのゆっくりたちはどうなるわけ? そのあたりのことがまるで言及されてないんだけど?」 そんな中、全く表情を変えずに幹部ぱちゅりーは問う。 実はこれは、まるで意味のない質問だ。 聞かなくてもおおよそ答えはわかっているし、たとえどのような答えが返ってきたとしても、長ぱちゅりーがこれから下す決断はかわらないからだ。 だがそれでも聞かずにはいられなかった。 「あら、なにそれ?そんなのありすのしったこっちゃないわ! だいたいれいむをころして、ひきわたしたあとなら、もうありすはれいむのむれのかんぶじゃなくて、 ぱちゅりーのむれのかんぶになるんだから、もといたむれのゆっくりたちが、しのうが、えっとうしっぱいしようがなんのかんけいもないわ! あたらしく、むれのおさになったぱちゅりーが、せきにんをもって、えっとうようのしょくりょうをわたすなり、ほうちするなりするといい! それこそ、いちかんぶであるありすのかんよするところではないわ!」 「そう、わかったわ」 全てわかった。 要するに幹部ありすは、長れいむや、群れのゆっくりたちを見捨て、利用することで自分だけ甘い汁を吸おうというのだ。 もとよりそのためだけに、長れいむを生かしておき、群れのゆっくりたちのリーダーとなったのだ。 長れいむや、幹部まりさは、ゲスで愚かでどうしようもないゆっくりだったが、まだ多少は(ほんのちょびっとだけ)群れのことも考えていた。 だが幹部ありすは違う。 一から十まで本当に自分のことしか考えていない。 そもそも幹部ありすは長や幹部の地位、あるいはお野菜ぷれいすなどにはそれ程執着心がないのだ。 無論それらがあるに越したことはない、だが幹部ありす本当の目的は自分を中心としたすっきりはーれむを作り出すことなのである。 今までに幹部となり、さらには長の地位を狙っていたのは所詮そのための足がかりに過ぎない。 ゆえに、ゆっくり以外の人間を奴隷にしようとしていた、幹部まりさの誘いになど乗るはずもなく、 この山に残ったのは、群れのためでも人間を恐れたからでもなく、自分の目的のために群れを裏切る算段を思いついたからだ。 いや別に裏切ったわけではないか。 始めから幹部ありすは、群れのことなどこれっぽっちも考えていないのだから。 全ては自分が理想とする、はーれむぷれいすを作り出すため。 そのためならば他のゆっくりがどうなろうが、知ったことではないのだ。 「ゆほほほ!しつもんはそれだけかしら!それじゃけつだんをきこうかしらね! もっとも、かんがるまでもないはなしだとおもうけど!」 「そうね、考えるまでもないわ」 「あらあら、それはなかなかに、とかいはね! ぱちゅりーとはかんぶになってからも、うまくやっていけそうだわ! じゃあ、きくまでもないことだけど、みんなのまえではっきりとこたえをせんげんしてもらえるかしら! うたがうわけじゃないけど、れいむをしまつしたあとで、やっぱりそんなはなしなかった、なんていわれるとこまるからね!」 幹部ありすは左右を見回しながら言う。 今ここに集まっているゆっくりたちを、この話の証人にしようというわけだ。 「いいわよ別に。 じゃあ答えるけど、この取引はお断りよ! 到底受け入れられるものじゃないわ! さぁ、これで話はお終いでしょ。 さっさと帰りなさい。 そして二度とこの群れ来ないでちょうだい!」 「……ゆほ?」 キョトンとした目になる幹部ありす。 あまりにも自身が予想していた答と異なるために、理解が追いつかないのだ。 「みょん!いつまでそこでぼーっとしてるみょん!ようがすんだのならさっさとでていくみょん!」 「わかるよー!そんなところでつったってられると、じゃまなんだねー!」 いつまでも静止したままの幹部ありすに、幹部みょんと幹部ちぇんが帰るように促す。 周りにいたゆっくりたちもまた、そうだそうだと同調する。 「ちょ、ちょっとまちなさいよおおおおおおおおお! なんなのいったい! ことわるって、なによ! ちゃんとありすのいっていることのいみをりかいしているの! いまなら、ありすのようきゅうした、かんたんなじょうけんをのむだけで、おさになれるのよ! それをことわるなんて、しんじられないわ!もういちどしっかりかんがえなおしなさいよ!」 ようやく頭に理解が追いついたのか、納得いかないといった風にわめきたてる幹部ありす。 しかし長ぱちゅりーはとりあわない。 「はっきり言って、あなたたちみたいなゆっくりの群れの長をやれなんて、どんなに頼まれてもごめんなのよ。 それなのに幹部にしろ?おうちを用意しろ?奴隷をよこせ? バカじゃないの? まあ、実際バカなんだからこんなこと堂々とできるんでしょうけどね」 「ゆっ、ぐっ!なによ!そんなにこのじょうけんがきにくわないの! だったら、どれいはいっぴきへらして、きゅうひきでいいわよ!けちんぼね! ほら!これでもんくないでしょ!さっさとありすとのとりひきをうけいれるといいなさいよ!」 何を勘違いしたのか、要求を譲歩し出す幹部ありす。 そもそもそういう問題の話ではないということを、どうやら理解できていないらしい。 「恥ずかしいゆっくり!」 そしてそんなふざけた態度の幹部ありすを、幹部ぱちゅりーは怒気をはらんだ一言で切って捨てた。 「もう何も話すことはないわ。 これ以上ごねるようなら、力ずくで追い出すことになるわよ!」 「ゆっ、なっ、ゆぐぐぐぐぐぐぐ!」 悔しそうに唸る幹部ありす。 見れば先程から、幹部みょんと幹部ちぇんがじりじりと幹部ありすとの距離をつめてきている。 何か不審な動きをすれば、すぐさま取り押さえにくるだろう。 多勢に無勢、周りには他のゆっくりもいるし、今幹部ありすにできることはそう多くない。 「ちきしょおおおおおおおおおお!おぼえてなさいよおおおおおおおおおおお!こうかいさせてやるわああああああああ!」 そして幹部ありすは、許された数少ない選択肢である、おとなしく帰るという選択した。 その際に言い放った小悪党が言うような捨て台詞はもはやお約束である。 事実小悪党なんだからこれは仕方がない。 こうして、幹部ありすの愚かな企みは瓦解した。 それはつまり、長れいむの群れの脅威が完全に去ったことを意味する。 この瞬間、長ぱちゅりーたちはついに群れ始まって以来の危機を乗り切ったのであった。 つづく
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1642.html
※ある意味ゲス大勝利 ※おれ、希少種好きなんだな、これからもどんどん優遇するよ! 人里から離れた所にある森のゆっくりの群れ。 開けた場所にある群れの広場では、れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、み ょんと言ったゆっくりたちが思い思いにゆっくりしている。 朝から好きにゆっくりし続けていたが、やがて昼頃になると、子供たちが空腹を訴えて 騒ぎ出した。 「おきゃあしゃん、おにゃかすいちゃよ」 「ゆん! れいみゅも!」 「まりしゃも!」 「ゆん! それじゃ長のおうちに行こうね!」 ぞろぞろとゆっくりたちは長のおうちの洞窟へと向かう。天然の洞窟を利用している長 のおうちは、いざとなった時に避難する場所でもあり、多少窮屈なのに我慢すれば、群れ のもの全員を収容できる広大さであった。 「むきゅ、それじゃ持って行きなさい」 長のぱちゅりーは、洞窟の奥の貯蔵庫にあるごはんを分配した。 「わーい、おいちちょーだにぇ!」 「おうちにかえってむーしゃむーしゃしようね」 「むーちゃむーちゃしたらおひるねすりゅよ!」 「れいみゅたち、とってもゆっくちちてるね! 意気揚々と引き上げようとするゆっくりたちだったが…… 「ゆっ!」 一匹の子まりさが、何かを見つけて声を上げた。 「くじゅのれっとーちゅがいりゅよ!」 そう言った子まりさの視線の先には、一匹の子ゆっくりがいた。 「ゆ?」 なにが起きたのかよくわかっていないらしいその子ゆっくりは、 「ゆっくちちていっちぇね!」 とお決まりの挨拶をした。 「ゆ?」 「ゆゆ!」 子まりさの両側から子れいむと子ありすがやってきて、その子ゆっくりを見やる。 子まりさも含めて三匹とも、今の挨拶を聞いているはずなのに何も言わない。これだけ で異常事態である。普通ならば、この三匹も同じ挨拶を返すはずなのだ。 「ゆぅ? ゆっくちちていっちぇね!」 不思議そうにしたその子ゆっくりは、もう一度元気に挨拶した。 それに返って来たのは、汚いものを見るような子れいむと子ありすの目であり、同じ目 をした子まりさの体当たりであった。 「ゆぴ! い、いぢゃいぃぃぃぃ!」 「くじゅのれっとーちゅがあいしゃつしにゃいでにぇ!」 「むきゅ! やめなさい!」 騒ぎを聞きつけて長ぱちゅりーがやってくる。 「ゆぅ……おさ」 子まりさは、不満そうに後ろに下がった。 「れっとーちゅはきやすくあいさつしにゃいでにぇ!」 「いにゃきゃもののれっとーちゅめ!」 「れいみゅたちみたいなきちゅとはみぶんがちぎゃうんらよ!」 三匹は口々に罵倒しつつ帰っていく。 「ゆ……ゆぴぃ……お、おしゃぁ」 泣いていた子ゆっくりは、三匹が去り、そこにいるのが長ぱちゅりーだけと知るとそれ に縋り付いた。 「まったく、あの子たちは……よしよし、泣くのは止めなさい」 「ゆぅ……しゃなえは……れっとーちゅにゃんだにぇ」 子ゆっくりは、さなえ種であった。 子さなえは、どことなく諦観を面に表していた。 これまで教育されて頭では理解していたことを体に刻み込まれて嫌でも理解させられて いた。 「むきゅぅ……確かにそうよ……でも、だからと言って暴力を振るうことはぱちゅは許し ていないわ。さっきみたいにされたら言いなさい」 「ゆぅぅぅ、おしゃぁぁぁ!」 子さなえが長ぱちゅりーの言葉に感泣する。 「ゆぴゃあああん、おしゃあ!」 「ゆっ、ゆっ、おしゃ、ありがちょう」 「ゆぅぅぅ、ゆうきゃたちはれっとーちゅだけど、やさちいおしゃがいてよかっちゃわね」 そして、一連の出来事を物陰から見ていた子ゆっくりたちも同様であった。 かなこ種、すわこ種、ゆうか種――他にもらん種、すいか種、めーりん種の子供たちが いた。 皆、れっとーちゅ、すなわち劣等種であった。数は大人が十匹、子供が二十匹ほどだ。 この群れは、厳しい身分制があり、劣等種は、先ほどの子れいむが言っていた「きちゅ」 すなわち貴種の下に置かれている。 貴種はれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、みょん種である。こちらは大人 が百匹、子供が二百匹以上といったところか。 あらゆる点で貴種に劣ってゆっくりしていない劣等種は、毎日狩りをしてその成果を貴 種に献上することでなんとか群れにいることを許されていた。貴種の方が数が多いのだか ら、それは大変な労働であった。 今現在、大人の劣等種たちは狩りに出かけているところであり、その間、子供たちを長 が預かっているのである。 先ほど貴種たちが労せず持っていった食べ物も、全て劣等種が集めてきたものだ。 相当ゆっくりできていない劣等種たちだが、生まれた頃から自分たちは貴種よりも遙か に劣っていると叩き込まれているために反乱に踏み切ることなどできなかった。 そして、先のやり取りを見てもわかるように、長のぱちゅりーはかなり穏健な対処をと っており、どのようにゆっくりできなく劣等なものたちでも同じ群れの仲間であり、また 一生懸命劣った体で狩りをして食料を集めているのだからと、馬鹿するのはともかく物理 的な暴力の行使は許さなかった。 そのため、劣等種たちは重労働の狩りに耐え、貴種からの蔑みにさえ耐えれば、子供を 産むことも許されたし、夜の一時――むろん早朝から狩りに行くのだから早く眠るために 僅かな一時ではあったが、家族でゆっくりできぬこともなかった。 反抗できずとも、群れからの逃亡ならば可能であるのに、それをしないのもそのためだ。 ここから逃げ出しても、群れの外もまた劣等種である自分たちへの敵意に満ちているで あろうと、思い込んでいた。 自分たちが逆らっても勝てっこないという諦観――。 そして、我慢していれば殺されたりはしないという希望――。 その二つが天秤の両端に乗って、バランスをとっていた。 「ゆぅぅぅ、おしゃがじゃまちなければ、れっとーちゅをせいっしゃいしてやっちゃのに ぃ!」 「ゆゆん、にゃんでおしゃはあんなやちゅらにやちゃちくすりゅんだろうにぇ?」 先ほど、子さなえをいたぶろうとして長に止められた子まりさたちは不平たらたらであ った。 貴種は貴種で、自分たちがいかに優れていて、いかにゆっくりしているかを教えられて 育っているので劣等種のことは当たり前に見下している。 粗暴なものは、劣等種へ暴力を振るいたがるが、それを許さぬ長に対して不満を持って いた。 「ねえ、どうちちぇ?」 子まりさは、不満と疑問をストレートに親にぶつけた。 「ゆぅ、まりさたちも長はやさしすぎだと思ってるけど……この群れができたのは長のお かげだからね……」 親まりさはそう答えた。 大人のゆっくりたちも、長が劣等種を(貴種に言わせると)優遇しているのは疑問に思 っているのだが、そもそもこの群れを作った創成期のゆっくり唯一匹の生き残りがあの長 ぱちゅりーなのである。いわばその功績に対する尊敬というか気後れというかが大人たち が表立って長に不満を表明することを躊躇わせていた。 「むきゅ、安心しなさい」 そう声をかけてきたのはぱちゅりーだった。 このぱちゅりー、長ぱちゅりーの孫にあたる。 両親は既に死んでいて、長の唯一の身内であった。長と同じぱちゅりー種ということも あって頭がよく、次の長になるだろうと言われていた。 「ぱちゅが長になったら、全部よくなるわ」 と、言ったこの孫ぱちゅりー、もう自分は長になるのは決まっていると言わんばかりで あった。 「おばあちゃんは……あんまり言いたくないけどもう長くないわ。もう少しの辛抱よ。ぱ ちゅが長になったら、貴種は貴種らしく劣等種は劣等種らしくするわ」 と、あんまり言いたくないようには見えない顔で言った孫ぱちゅりーに、その場にいた 貴種ゆっくりたちの期待の眼差しが注がれる。 孫ぱちゅりーは、それを心地よさそうに受けていた。 ここ最近、孫ぱちゅりーはこうやって今の長が劣等種に対して肩入れし過ぎると不満を もらすものがいると、このように自分が長になったらよくなると言って回っていた。 いわば、次の長の座を確実にするための運動である。 これによって、不満を持っている貴種たちも、差し当たっては暴発せずに我慢していた。 ここにもまた微妙なバランスをたもつ天秤があった。 「ゆっゆっゆっ」 「きょうはたくさんとれたねえ」 「そうだねえ、みんなよくがんばったよ」 陽が落ちる前に、狩りに行っていた大人の劣等種が帰って来た。 その成果を長のおうちの貯蔵庫に運び込む。 「むきゅ、今日はまたがんばったわね、ごくろうさま」 長ぱちゅりーが声をかけると、劣等種たちはとてもゆっくりした笑顔になった。 この群れで、このように暖かい言葉をかけてくれるのは長と、もう一匹ぐらいであった。 その、もう一匹というのが、狩りに付き添っていた一匹のれいむである。 「ゆぅ、なんにもいじょーなしだったよ」 「むきゅ」 長にそう言ったれいむの役目は、劣等種たちの監視である。と、言っても、実際はただ 単に付き添っているだけである。 貯蔵庫に食べ物をおさめると、劣等種たちは長に預けていた子供たちを連れておうちに 帰る。 入り口までそれを送りに出たれいむは、それを見ている貴種たちを見た。ひーそひーそ と内緒話をしているが、聞こえずとも何を言っているかはわかる。 劣等種と、それに劣らぬ劣等ぶりなれいむを嘲笑っているのだろう。 れいむは、貴種たちにダメれいむと呼ばれていた。 はっきりいってそう言われるだけのことはあり、れいむは何をやってもダメだった。 かけっこ、おうた、けんか、何をやっても同世代のものたちの中で最低だった。 いつしか、あいつは姿形こそれいむだが中身は劣等種だと言われるようになった。その ことを特に苦々しく思っていたのが同じれいむ種たちで、自分たちの面汚しだとばかりに もうこいつの扱いを劣等種と同じにしろと言い出したものだ。 長が、れいむに身の回りの世話を頼んだのはそんな時だ。 貴種は、労働をしない。 長の世話を労働と呼ぶかどうかについては議論の余地はあろうが、少なくとも劣等種た ちに課された狩りに比べれば軽労働であろう。 それとともに、劣等種の監視という名目で狩りに同行させることにした。 とりあえずそれで、ダメれいむを完全に劣等種扱いせよとの声はおさまった。もちろん 劣等種同然のダメれいむという評価は定着してしまったが。 れいむは、長のその一連の処置を感謝していた。 今ではれいむは狩りに行くのが楽しみになっていた。 狩りに行けば、そこには自分をダメれいむと蔑む貴種はいない。 散々自分が蔑まれたれいむは劣等種たちにも優しく接していたために、彼らとも仲良く なっていた。 「ゆぅ……」 おうちの奥へとぽよんぽよんと跳ねるれいむの顔色は冴えない。 ここ最近、時々れいむは誰もおらぬところでこのような顔をすることがあった。 「どうしたの?」 突然いないと思っていた長に声をかけられて、れいむは驚いて跳ね上がった。 「ゆ! ゆ! ゆゆ! れ、れいむは別になやんでないよ! 長に聞きたいことなんかな いよ!」 「むきゅきゅ」 長はれいむの様子を見て微笑んでいた。 「む……き……」 だが、次の瞬間、その顔は歪んだ。 「げ……ごほ! ごほっ!」 「ゆゆ! 長!」 れいむが慌てて跳ねよって心配そうにする。 「むきゅ……大丈夫よ……でも、もうそろそろぱちゅも永遠にゆっくりするころね」 「ゆゆぅ、長、そんなこと言わないでね」 れいむは、純粋な悲しさもあったが、長という庇護者を失うことへの恐怖も同時に感じ て表情を暗くした。 次の長は、おそらく長の孫のぱちゅりーだろう。 しかし、こちらは劣等種にも自分にも相当辛くあたってくるであろうことは容易に推測 できた。 「れいむ……」 「ゆん?」 「なにか聞きたいことがあったら、ぱちゅが永遠にゆっくりするまえに聞くのよ。……今 までよくやってくれたれいむだからね、どんな質問にも答えるわよ。……孫にも教えてい ないようなことでも、ね」 「ゆ! ……ゆ、ゆぅ……も、もしどうしても聞きたいことができたら、そうするよ」 「むきゅきゅ」 長は笑顔になった。 先ほどの、慌てるれいむを見て浮かべた微笑が混じり物無しの純度の高いそれであった としたら、その笑顔には、多分に斜にかまえたような色があった。 「ゆっ! ゆっ! ゆゆゆゆっ!」 「ゆぐっ!」 かなこがごろりと地面に転がる。 「ゆん!」 転がしたのはすいかだ。 「さすがだねえ、すいか」 「ふふん、これでようやく勝ち越したよ」 何をやっているかと言えば、お互いに体を押し合って倒す遊びである。これをみんなは スモウと呼んでいた。 すいかは劣等種の中では一番の力持ちだ。 「よーし、それじゃ次は」 「かなこ、こないだのりたーんまっちだよ!」 と踊り出してきたのはすわこだ。 「よし、いっちょもんでやるか」 「まけないよー」 かなことすわこは、仲が良い一方でお互いへの対抗意識も強くことあるごとに張り合っ ている。 みんなが囃し立てる中、二匹は真っ向から激突した。 「ゆぅ……」 れいむも、それを見ていた。 今は、狩りの最中である。と言っても、もうだいぶ成果を上げたので、こうして遊んで いるのである。 監視役という本来の役割からすれば、れいむはこのことを咎めるべきであった。遊んで いる暇があったらもっと狩りを続けろと。 しかし、貴種よりも劣等種に親近感を感じているれいむは、そのようなことは言わなか った。 長は、どうも感付いているらしいのだが、 「……まあ、息抜きのゆっくりは必要ね」 と言って黙認している。 「ゆぅ……」 れいむは、複雑な表情であった。 かなことすわこのスモウは白熱している。 それを見て、れいむの中でどんどんある一つの疑問が大きくなっていくのを止められな い。 なんでもどんな質問にも答える、という長の言葉が何度も何度も思い浮かぶ。 明敏な長のことだ。れいむがどんな疑問を抱いているのかすら知っているのかもしれな い。 「……れいむ」 そんなれいむに声をかけてきたのはらんだ。 このらんは、とあることがあってからそれまで快活だった性格が暗く沈んだものになり、 あまり他のものとも話さなくなった。 そのらんが自ら声をかけてくるのは珍しい。 「かなこもすわこも強いな」 「ゆ?」 「わたしも、まけてないぞ。最近はやってないが、前はよくスモウをした。すいかにも勝 ったことがあるんだぞ」 「ゆ……それは……れいむも見てたよ」 まだ、らんの性格がこうではなかった頃、らんもみんなと一緒になって遊んでいたもの だ。何度かすいかのパワーをいなすようにらんが勝ったのをれいむも見たことがある。 「れいむは、どうかな」 「ゆ?」 「れいむは、わたしや、すいかやかなこやすわことスモウしたら、勝てるかな」 「ゆゆゆゆ!?」 れいむは改めてらんをじっと見る。冷徹な無表情であった。 そこからは蔑みとか挑発しようとかそういった感情は読み取れなかった。 「……勝てないよ……れいむは弱いから」 他の貴種ならば、口が裂けても言わぬことだが、ダメれいむと蔑まれ続けてきたれいむ にとっては、あまり抵抗のある言葉ではなかった。 なにより実際、とてもではないが勝てるとは思えなかった。 すいかやかなこだけではなく、ゆうかやさなえ、めーりん、この場にいる劣等種の誰に も勝てる気がしない。 「貴種で、一番強いのって誰だろうな」 「ゆ? ……それは……たぶん、まりさだよ」 まりさは、腕自慢のものを全て叩きのめした群れ一番の喧嘩自慢だった。れいむも長の 庇護を受ける前はよくいじめられたものだ。 「まりさ……ああ、あいつか」 「ゆぅ」 れいむはドキドキしていた。 らんが、ダメなれいむにならともかく、それ以外の貴種にも平気でぞんざいな口をきい ているからだ。 今のも、あいつ呼ばわりされたことを知られただけでまりさにせいっさいっされるだろ う。 「あのまりさとならどうだろう。どっちが強いと思う?」 「ゆ?」 れいむは卑屈な探るような視線でらんを見る。 まさか、まさか、まさか――。 「れ、れいむにはわからないよ。れいむダメだから、ばかだから」 困った時にいつもやっていたことをれいむはした。 れいむはダメだから、ばかだから、だから、わからない、だから、できない。 そう言えば、みんな納得してくれた。 「もちろんまりさのほうが強いよ、とは言わないんだな」 「ゆゆっ!」 れいむは哀れなぐらいに困惑していた。あの疑問がなければ、そう答えていたはずなの だ。れいむとて、貴種が優れており劣等種は劣っていると教え込まれて育ったのだ。 「れいむを困らせようとしたわけじゃないんだ。すまないな」 らんは、涙目になっているれいむにそう言って離れて行った。 らんも、れいむと同じ疑問を持っているに違いない。 そして、その疑問が確信に変わった時どうなるのか――。 長ぱちゅりーは数日後に生クリームを吐いて昏睡状態になった。 そこからなんとか意識を取り戻したが、もはや死を確信した長は皆を集めてその前で次 の長を誰にすべきかを問うた。 一瞬の間があってから、孫ぱちゅりーを長に推す声が上がり、やがてそれは大きな声と なった。 ちなみに、当然のことながら群れの行く末を決めるこの場に劣等種はいない。 「むきゅ……そう、それじゃあそのようにしましょう」 長ぱちゅりーはそう言って皆を解散させ、孫ぱちゅりーを自室に招いて話をした。 待ちに待った時が来たと孫ぱちゅりーは興奮しつつ帰っていった。 「長……」 れいむは長ぱちゅりーの死を間近にして、決意していた。 そして、それを長も察していた。 「れいむ、なにか聞きたいことがあるんでしょう?」 「……ゆん」 「むきゅ! 劣等種の子供なんか預かるのは嫌よ」 長の死後、新たな長になった孫ぱちゅりーは、とりあえず大人が狩りに行っている間に 劣等種の子供を長のおうちに預かるのを止めた。 今や我が城となった長の住居に劣等種など入れたくなかったのだ。 それに合わせて狩りのノルマも増やされた。 当初、子供たちだけを残していくのに不安を覚えた大人たちは何匹か残ろうとしたのだ が、増大したノルマに対応するためにはそれは無理であった。 そして、数日もしないうちに、留守に残っていた劣等種の子ゆっくりが、貴種の子ゆっ くりに暴行される事態が起きた。 もちろん、親たちは長に対して訴え出たが、劣等種といえども暴力を振るってはいけな いというのは前の長の時代の掟であって、自分が長になったからにはそのような馬鹿げた 掟は廃止だと告げられた。 仕方なく、大人が何匹か残ったが、貴種の子ゆっくりたちは制止する大人たちを嘲笑い ながら劣等種の子たちをいたぶった。制止と言っても少しでも触れたら劣等種の大人が貴 種の子供をいじめた、などと言われるのはわかっていたために懇願するしかなかったのだ。 それまでは満腹とは言わぬものの、それなりの量が支給されていた食料についても新長 は大幅に削減したために、空腹で傷付いた子供たちを前に劣等種たちは途方にくれた。 一度、れいむが改善を掛け合ったが当然のことながら無視された。 そればかりか、その話が群れに伝わるや、とうとうれいむはダメれいむから劣等れいむ と呼ばれることになった。 前の長の頃はこんなことはなかったのに、と嘆く劣等種たちにれいむはかける言葉も無 いといった顔をしていた。 「れいむ」 そのれいむへ声をかけたのは、らんであった。 「長に掛け合ったらしいな……馬鹿なことをする」 「……ゆぅ、でも、あまりにもひどいからね……」 「れいむは、ちぇんが死んだ時に、わたしをなぐさめてくれたな」 「ゆ、そんなこともあったね……」 「わたしは……いやわたしたちは、れいむのことを仲間だと思っているよ。……劣等種に そう思われるのは嫌かな?」 「……そんなことはないよ。れいむも、そう思っているよ」 「そうか」 らんは久しぶりに微かに笑って言った。 「ゆああああああ、おねえざん! おねえざぁぁぁん!」 一匹のさなえが泣いていた。 その前には黒ずんでいるさなえ種の死体がある。 頭から何本もの茎が生えていることから、すっきりのしすぎで死んだのは明らかだ。 泣いているさなえの姉のさなえで、今日は狩りの間に留守番をしていた。 お決まりの貴種の子ゆっくりの襲撃があり、それにやめてやめてと懇願し無視され、そ れでその日は終わらなかった。 子ゆっくりたちが引き上げた後、大人のゆっくりが何匹もやってきて代わる代わる、さ なえが死ぬまで犯したのだ。 その光景を見せ付けられた劣等種の子供たちはむろん見たままを証言したのだが、長と 幹部たちにより「劣等種の証言は信用できない」と断定されて無視された。 姉さなえを犯し殺した貴種たちの、 「さなえから誘ってきた。ほんとうなら劣等種なんかとすっきりしたくないんだけどあま りにもひっしに頼むからかわいそうになってすっきりしてやった。なんどやってももっと もっととせがむのでかわいそうに思って相手してやっていたら死んでしまった。まったく とんだいんらんめすぶただった」 という証言が全面的に採用され、姉さなえの死は事故、それも自ら望んだ自業自得のも のとされてしまった。 長も他の貴種たちも、それでその件は解決したとしてすぐに忘れてしまった。 劣等種をとことん見下していた貴種たちは、その細かな感情の動きなどに気を配ったり はしなかったし、そんな必要もないと思っていた。 奴らは劣等であり、自分たちの方が強い上に数も多いのだ。何かの間違いで反抗してき てもすぐに叩き潰せる。 そして、劣等で根性無しの連中は、見せしめに子供たちを痛めつけてやれば言うことを 聞くはずだ。 その程度の認識であった。 だから、劣等種たちの顔色から何から何までが以前のようではないことに気付いたのは れいむぐらいであった。 さなえは、死んだのだ。 前の長の頃には死ゆっくりなど出なかった。 それが超えてはならない一線であるというような認識は、当然ながら貴種たちには無か った。 今まで、前の長に遠慮していただけで、内心では劣等種など貴種に殺されても当然の存 在なのだと思っていた。 それが、一連の事件とそれに対する貴種の態度で、劣等種たちに刻み込まれた。 「れいむ、頼みがあるんだ」 らんがやってきた。 「ゆ? なに?」 「ほら、あのまりさ、群れで一番強いまりさ」 「ゆ……ああ、あのまりさ」 「まりさを呼び出してくれないか」 「ゆ?」 「実は……」 れいむはらんの話を聞いてまりさの所へ行った。 今や劣等種扱いのれいむであるから、ゴミでも見るかのような目をされたがそれでも一 応はれいむ種なのでなんとか話を聞いてもらえた。これが生粋の劣等種ならば話にもなら なかっただろう。らんも、それを見越してれいむに頼んだのだ。 そして、れいむの話を聞くや、まりさは身を乗り出してれいむに促されるまま、らんが 待っているという群れから少し離れたところへと着いてきた。 「ゆっ、ゆっ、ゆ~っ」 れいむの後ろで上機嫌にまりさは口ずさんでいる。 「ゆっへっへ、劣等種のくせになかなかわかってる奴なのぜ、あのらんのことはそれなり ーにあつかってやってもいいんだぜ」 まりさは、群れでけんかが一番強いことで貴種の中でも威張り散らしており、普通なら ば劣等種の呼び出しになど応じるわけがない。 それに応じたのだから、もちろんまりさがそうせざるを得ないほどの旨味があるのだ。 らんからの申し出は、狩りで得た食べ物の一部を他のものには内緒でまりさに渡すので 劣等種への便宜をはかって欲しい、というものであった。 最初それを聞いた時、まりさは疑わしい目つきでなぜ長に言わないのか、と聞いた。 「正直、長はあてにならないって……みんな、まりさの言うことの方を聞きそうだって」 と、れいむは答えた。らんに絶対にそう言っておいてくれと頼まれていた言葉だった。 それを聞くと、まりさはあからさまに喜んでれいむに着いてきた。 まりさは、その強さで新体制において群れの幹部におさまっているが、実のところ不満 であった。 自分こそ、長に相応しいと思っていた。 しかし、今の長は支持されている。前の長と同じぱちゅりー種で、その孫だからみんな 盲目的に支持しているのだ、とまりさは固く信じていた。 幹部であるまりさは、他のものより多くの食料支給を受けていたが、自分以外のものへ 分け与えられるほどではない。劣等種どもから別途食料が得られれば、それを与えて自分 のシンパを作ることができる。 それがある程度増えたところでクーデターを起こして長に取って代われば、みんななん となく支持しているだけなので、すんなりまりさを新しい長と認めるに違いない。 「ゆふふふ」 ほくそ笑むまりさの目の前のれいむが停止した。 「ゆ? ついたのかぜ?」 「ゆん」 れいむは一瞬、まりさを哀れみを込めた視線で見た。 しかし、劣等れいむごときにそんな目で見られるわけはないと思っているまりさは、そ れには気付かなかった。 れいむは、らんの申し出をそのまま受け取ってはいなかった。 これが他のもの、かなこ辺りからの申し出ならば、そうしただろうが、らんはどう見て もれいむと同じ疑問を持っていた節がある。 今回のまりさの呼び出しもおそらくは…… 「ゆん」 現れたらんに、まりさは倣岸にそっくり返る。 「わざわざまりささまが劣等種のために来てやったのぜ。話は本当なのかぜ?」 「ああ、嘘だ」 あっさりと、あまりにもあっさりとらんは言い切った。 「ゆあ? はあ? ゆゆゆゆ? な、なに言ってるのぜえええええ!?」 まりさは何を言っているのかしばらく理解できなかったようだが、ようやく理解すると 当然のことながら激怒した。 「まりささまは貴種でも一番けんかが強いのぜ! そのまりささまを劣等種ごときがから かったらどーなるかわかってるのぜ? 同じ貴種でも、まりささまをからかう奴はせいっ さいっするのぜ? それを、それを、劣等種ごときがあ!」 「せいっさいっ、か……」 らんは、少し考えるような素振りを見せたが…… 「じゃ、せいっさいっしてもらおうか」 「ゆっぎいいいいいいい!」 まりさはもう怒り過ぎて全く感情を制御できていない。 ただでさえ喧嘩っ早いまりさである。 「ゆっくりじねええええ!」 すぐさま跳ねてらんに飛びかかった。 「……!」 らんは、一瞬緊張した表情を見せたが、素早く後ろに飛んでまりさの体当たりを回避し た。 「ゆっ? よ、よくかわしたのぜ」 渾身の体当たりがかわされて、まりさは一瞬戸惑った。劣等種など、自分の体当たりを かわせもしないと思っていたのだ。 「ゆひゃあああ! いつまでかわせるのぜえええ!?」 気を取り直して飛び掛る。 「ゆ、ゆひぃ……ゆひぃ……なんで……どぼじで……」 そして、何十回も攻撃を繰り出し、そのことごとくがかわされ、とうとうまりさは疲労 で動けなくなった。 一方、らんは涼しい顔でそれを侮蔑をあらわに見ている。 「ゆ、ゆぎ、ゆぎぎぎぎ」 劣等種などにそんなふうに見られることは、貴種の中でも特に気位の高いまりさには耐 えられないことであった。 しかし、いかなまりさとて、実際ここまで攻撃がかわされ続ければ、らんの素早さは認 めざるを得ない。 ――ゆぎぃ、あたれば……いっぱつあたればあんな奴ぅぅぅ。 歯軋りするまりさに、らんは言った。 「終わりか、それじゃこっちから攻撃するぞ」 「ゆぅ……ゆへ」 まりさがにやっと笑う。 調子に乗って劣等種ごときが攻撃と来た。 これはチャンスだ。これを逃してはいけない。 「ゆ、ゆへえ、お、面白いのぜ、劣等種のごみのこーげきがまりささまに効くかためして みるのぜ、お、おばえみたいにコソコソ逃げないで、受け止めてやるのぜ」 そう言ってまりさはべたりと地面にあんよを密着させ、歯を食いしばった。 「よし、いくぞ」 らんは、跳躍した。 「ゆっはああああ! かうんたーなのぜ!」 まりさも同時に飛んで、真っ向から迎え撃った。 両者が激突し、らんがよろめきながらも着地する。 「ゆべえええ!」 一方のまりさは、跳ね飛ばされて着地もままならず顔面から地面に落ちた。 「ゆびぃぃぃぃ、い、いだいのぜええええ」 地面でこすった顔に小さな擦過傷が無数についている。 「ゆ、ゆびぃ、お、おがじい、おがじい、のぜ」 「おい」 「ゆ、ゆひぃぃぃ、く、くるなああああ! れ、劣等種は近付くんじゃないのぜえええ!」 「ふんっ!」 らんはまりさの前でくるりと回転した。 「ゆばああああ!」 尻尾に叩かれたまりさがふっ飛んで木の幹に激突する。 「ゆ、ゆびぃ、い、いだいのぜえ」 「おい、みんな、出て来い」 らんが言うと、そこかしこから劣等種たちが出てきた。 「ゆ、ゆひぃ」 プライドの高いまりさにとっては、こんな哀れな姿を劣等種に見られるのは辛いことで あった。 しかし、逃げ出そうにも体が動かない。 「「「ゆぅぅぅ……まさか、そんな……」」」 みな、愕然としている。 らんには、今から自分がやることを隠れて見ていてくれと言われていた。 群れで一番強いまりさがやってきて、らんがそれにあからさまに喧嘩を売るようなこと を言い出した時には皆恐怖に震えた。 らんがせいっさいっされて永遠にゆっくりしてしまう、と。 だが、そうはならなかったのは見ての通りである。 「みんな、わかっただろう。……こいつは……いや、こいつらは、貴種は……弱い!」 「「「ゆぅぅぅぅぅぅぅ……」」」 さすがにショックからすぐには立ち直れずに、劣等種たちは唸るばかりである。 らんの強さは幾度となくスモウで対戦してわかっている。劣等種の中でもそんなに群を 抜いて強いわけではない。 らんが、あそこまで余裕を持って勝てるのなら、他のものも、劣等種の中ではそんなに 強くないさなえでも十分に勝てるだろう。 「れいむ、すまなかったな」 「ゆん」 「……あまり、驚いていないな……やっぱり、お前もわかっていたのか?」 「ゆぅぅぅ、もしかしたら、とは思ってたよ……らんたちが狩りをしているのを見てたら ……どう見ても、れいむはもちろん、他のまりさとかれいむよりも……」 どう見ても、劣等種の方が身体能力が高い。 何度も何度も狩りに同行し、それを見ているとそう思わざるを得なかった。 それをそんなわけはない、そんなわけはない、と押さえ込んでいたのだ。 しかし、そんなれいむの前で劣等種たちは、群れで一番のジャンプ力が自慢のちぇんよ りも高く飛び、群れで一番の「剣」の達人であるみょんよりも巧みに口で棒を使っていた。 木の実を落とそうと幹に何度も体当たりするめーりんはどう見ても貴種の誰よりも頑丈 な体だったし、すいかよりも多くの荷物を持てるものなど貴種にいるとは思えなかった。 それが、れいむの抱いていた疑問であった。 れいむの餡子脳裏に、あの時の情景が蘇る。 あの時――そう、先代の長ぱちゅりーが死ぬ前のあの時だ。 「れいむ、なにか聞きたいことがあるんでしょう?」 「……ゆん」 れいむは疑問をぶつけた。 劣等種は弱く劣っていて、貴種は強く優れている。 そう教えられてきたし、この群れのものはみんなそう思っている。 だが、劣等種たちの狩りを見ていると、どうしてもそうは思えないのだ。みんな、貴種 の中でも優れたものたちよりも上に見える。 「むきゅきゅきゅ」 長は、笑った。 「……れいむ」 「ゆ、ゆぅ」 「その通りよ……劣等種は、貴種なんかよりも遙かに優れているわ」 「ゆ!? ゆゆ!?」 疑問は解決した。 しかし、戸惑う。長年の先入観は強く、れいむは実は、長にその疑問を馬鹿げた疑問と して否定されたがっていたのかもしれない。 「で、でも、どぼじで……」 「少し長くなるけど、話しておきましょう……あの馬鹿孫は話す価値がなかったからね」 長は、吐き捨てるように言った。 この群れが出来てしばらく経った頃、そばに住んでいた現在の劣等種たちの祖父母の代 のゆっくりたちと接触した。 友好的に付き合っていたのだが、こちらの群れから、油断しているうちにやってしまお うという意見が出た。 そんな物騒な意見が出たのは、奴らがその気になって侵略してきたらおしまいだからだ。 群れの創成期のものたちは、劣等種――人間たちは希少種と呼んでいるようだ――は自 分たちなど問題にしないような強さを持っていると認識していたし、それは間違ってはい なかった。 ゆっくりの天敵といえば捕食種のれみりゃ、ふらんだが、通常種(貴種)がこれらには なす術が無いのに対して、希少種はやりようによっては互角に渡り合える強さを持ってい る。 そこで、寝込みを襲って皆殺しにした。 むろん、罪悪感なくやってのけたわけではなくやらねばやられると思い込んでのことだ った。しかも、完全に奇襲したのに反撃にあってこちらも相当殺された。 目を覚まして騒いだ子供たちも殺したが、眠っていた子供たちをどうするかで意見が割 れた。 結局、とりあえず殺さずに、両親は突然襲ってきたふらんたちから自分たちを守るため に死んでしまったと言って、育てることにした。 子供の頃から洗脳して育てていけば、従順になるのではないかという打算があった。 奇襲成功にも関わらず手痛い反撃を受けて希少種の恐ろしさを痛感していたぱちゅりー たちは、こんな恐ろしいものは殺してしまわないと、と思うと同時にこの力を使えるよう になったら……という思いもあったのだ。 そして、希少種は劣等であると教え込まれ、貴種とされた通常種に逆らうような気にな らぬように育てられた。 創成期のゆっくりたちは次々に死んでいき、生き残ったぱちゅりーがそのシステムを完 成させた。 今や、群れでそのことを知るのはぱちゅりーだけだ。 「ゆぅぅぅ……」 話を聞いて、れいむは唸るしかなかった。れいむの中の長ぱちゅりーはひたすら慈悲深 い存在だった。 「むきゃきゃ……つまり、ぱちゅはとんでもないゲスなのよ」 長がそう言ってにたりと笑った時、れいむは中枢餡がゾッとする思いだった。 「で、でも長は優しいよ。劣等種にも優しくしてたよ」 「むきゅ」 長はおかしそうに笑った。 「れいむは優しいわね。だから、そういうあまあまなふうに考えるのよ」 「ゆ、ゆぅ……」 「ぱちゅが優しくしていたのには、全部理由があるのよ」 子供たちを預かるのは、ゆん質である。 暴行を禁止していたのは、何度もやられているうちに劣等種が死を覚悟で反撃して、そ れであっさり貴種が殺されてしまい、劣等種が真相に気付いてしまうのを防ぐため。 その他、あらゆる「優しい」処置は、全て劣等種を追い詰めてダメで元々と覚悟を決め て反乱に立ち上がらせたり、群れから逃亡させないためである。 「ゆ……ゆ……ゆ、で、でも」 れいむは、震えながら言った。 「でも、劣等種のみんな、長のことを好きだよ。長に感謝してたよ」 「むきゃきゃきゃきゃ! それもこれもぱちゅたち貴種が狩りもしないでむーしゃむーし ゃしてゆっくりするためよ」 「ゆぅぅぅ……」 「もう一度言っておくけど……ぱちゅは、ゲスよ、むきゃっ」 「ゆぅ……ゆ? ゆ、ゆ、長、長」 「なにかしら」 「そ、それじゃあ、これから……長が永遠にゆっくりしちゃったら、どうなるの?」 「むきゅきゅ」 「さ、さっき長、言ってたよね、次の長のぱちゅりーにはこのこと話してない、って」 「むきゅ、そうね」 「ど、どぼじて? は、話しておかないと、いけないんじゃ、ないの?」 「むきゃきゃきゃきゃ! だから、ぱちゅはゲスなのよ!」 「ゆゆぅ……」 「ぱちゅはね……あの馬鹿にはもうあいそがつきてるのよ」 「ば、馬鹿って……でも、ぱちゅりーは頭がいいってみんなが」 「あんなのはただの馬鹿よ、口だけ達者なだけ」 長ぱちゅりーは、次の長になる孫ぱちゅりーのことを話す時は声から表情から嫌悪感が ありありと出ていた。 「馬鹿のくせに、こともあろうに、このぱちゅを……」 「ゆゆ!?」 先ほど、孫ぱちゅりーと二人きりで話した時、その時に劣等種のシステムを全て打ち明 けるかどうかは長も迷っていたらしい。 しかし、孫ぱちゅりーは長ぱちゅりーの言うことを一切聞こうとはせず、あからさまに どうせもうすぐ死ぬのだからと軽んじていた。 そのことに、長ぱちゅりーは激怒した。 そうなると、日頃から自分が長になったらこんな間違った状態は正してやると言って回 っていたことも思い出された。 しかし、その場で罵ったりはしなかった。そんなことは馬鹿のやることだと思っていた。 だから、長ぱちゅりーは、何も教えてやらずに孫ぱちゅりーを帰したのだ。 「むきゅきゅ、ゲスなぱちゅは、もうあの馬鹿も群れの連中もどうでもいいのよ。むしろ あの貴種だと威張っている馬鹿どもは、劣等種に皆殺しにされてしまえばいいのよ」 「そ、そんな……」 これまでの経緯から、れいむの気持ちはとうに貴種などよりは劣等種寄りになっている。 しかし、それにしても、慈悲深いと思っていた長ぱちゅりーがこのようなことを考えて いるということがショックであった。 「れいむ……ぱちゅは、劣等種を道具だと思っていたわ」 自分たち、貴種が狩りもせずにゆっくり暮らすための道具。 そのために、長ぱちゅりーは長ぱちゅりーなりにあれこれ考えてやってきたのだ。 「なんとか……ぱちゅの生きてる間は上手くいったけど……これだって綱渡りよ。運がよ かっただけよ」 些細なきっかけで、天秤のバランスは崩れ、真実に気付いた劣等種たちが怒り狂って貴 種を殲滅する可能性はこれまでいくらでもありえた。 「それでも、ぱちゅだからできた、とは思っているわ。ぱちゅが死んだらほんの少しの遅 い早いの違いはあっても……すぐに駄目になると思うわ。それに……」 「ゆ……」 「れいむ、貴種を見てどう思う」 「ゆ、ゆゆ?」 「あいつら、ゆっくりしてるように見えるけど、どうかしら」 「ゆ……ゆっくり、してるよ、でも、なんか劣等種たちを馬鹿にしてる時とかは、ゆっく りしてないよ」 「むきゃきゃ、それはね、あいつらが働かないでもゆっくりできるからよ」 「ゆ!?」 「ぱちゅは、まさにそのために色々苦労してきたんだけど……生まれた時からそういう環 境にいると腐るのよ」 長ぱちゅりーの目から見て、とてもではないが奴らは貴種などという呼び名に値しない 存在だ。それどころか、奴らこそ劣等種と言うに相応しい。 「それに比べて、あの子たちは違うわ」 ずっと何かにがにがなものを噛んでいるようだった長ぱちゅりーの顔が、ふっと綻んだ。 あの子たち、というのはゆん質として預かっている劣等種の子たちのことだ。 子供たちは、先ほどれいむの言った通りに、長に感謝し、これを慕っていた。 知っていることを教えてやると、どんどん吸収する賢さもある。 長のやることは甘いよ、などと文句を言う連中や、自分が長になったら今のやり方は全 部変えてやる、などと言い回っている孫ぱちゅりーに比べれば、こちらの方が幾倍も可愛 い。 いわば、預かっていた子たちに情が移ってしまったのだ。 「ゆ! や、やっぱり、やっぱり長は優しいんだよ!」 れいむは勢い込んで言ったが、それに返って来たのは長ぱちゅりーの嘲りだった。 「優しいものですか! ぱちゅは、自分でそうしたというのに、そのせいで群れの奴らが 駄目になったからと、それに比べて可愛くて賢い劣等種の子たちに情を移してそのために 貴種の奴らなど殺されてしまえと思っているのよ」 「ゆ!?」 「無責任でひどいゲスなのよ、ぱちゅは」 「ゆ、ゆぅ……」 「むきゅぅ……大きな声を出して疲れたわ。そろそろ永遠にゆっくりさせてもらおうかし ら」 「お、長ぁ……」 「こんなゲスの死に泣くあまあまで馬鹿なれいむに言っておくわ」 「ゆ?」 「今でも、あなたは劣等種たちには好かれているわ。次の長が劣等種たちへひどいことを したら、それを止めるように言いなさい」 「ゆ、で、でも、れいむの言うことなんか」 「いいのよ、それで、あなたは劣等種たちの大きな好意を得られるわ……そうすれば、あ なたは生き残れるはず」 「長ぁ、なんで、なんでれいむにそこまで……」 長ぱちゅりーはそれには何も言わなかった。 劣等種の子たちのように賢いとは言えないものの、れいむもまた長を慕っていた。そし て、足りないながらも懸命に長の世話をしていた。 そんなれいむもまた、長にとっては可愛い子だったのだ。 しかし、それは言わぬままに長ぱちゅりーは永遠にゆっくりした。 ゲスが最後に言う言葉ではない、と思っていたのだろう。 「れいむ、れいむ、れいむ!」 「ゆっ! あ、ご、ごめん、ちょっとぼーっとしてたよ」 らんが自分の名前を連呼しているのに気付いて、れいむの意識は過去のあの時から、現 在へと戻ってきた。 れいむが回想をしていた間に、らん以外のものたちも現実を受け止めたらしい。 ていうか、いつのまにかまりさが破裂して死んでいた。 なんでも、すいかがまりさに思い切り押してみろと言い、まりさが必死に押したのだが すいかがその弱々しさに怒り出して、もっと強く押せと激昂し、これでせいいっばいなん でず、もうゆるじでぐだざい、とまりさが言ったらすいかがキレて体当たりしてそのよう なことになったらしい。 すいかがキレたのは、目の前のまりさにだけではなく、今までこんな弱っちい連中の言 うことを聞いていいようにされていたのかということへの怒りであろう。 そのすいかをはじめとして、かなこたちも明らかに先ほどまでと顔つきが違っていた。 その顔に、劣等種をごみと見下す貴種たちに通じるものを感じたれいむは寒気を感じた。 「れいむ、前にも言ったが、れいむは今の長がわたしたちにひどいことをした時に、それ を止めてくれた。ちぇんの時のこともあるし……れいむのことは、仲間だと思っている」 れいむは薄々と劣等種たちの本当の強さをわかっていたようだが、それとても確信があ ったわけではなく、さらにはあの時点でそのような行動に出るには十分に勇気が必要だっ たことをらんは認めていた。 「おう、そうさ! れいむは仲間さ!」 すいかが同調すると、それに賛同する声が上がる。 れいむは、とりあえずはほっとしたが、すぐに恐ろしくなった。 ――長、長! 長の言った通りになったよ! 長! 長はすごいよ、怖いぐらいに、す ごいよ…… 「よーし、それじゃ早速、あいつらぶっ飛ばしてやるか!」 すいかが頭を振って角をぶんぶんさせながら言うと、らんがそれに反対し、かなこも同 意した。 「なんといっても、数があまりにも違う、正面からやるのは少し減らしてからにしよう」 「そうだな」 「うーん、二人がそう言うなら、あたしはそれに従うよ」 「あいつらは、わたしたちを弱いと思っている……それにつけこむんだ」 活き活きとした表情で相談しているらんたちを見て、れいむはぶるりと震えた。自分は 外れているからいいものの、標的になっている群れの貴種たちのことを思うと、やはりそ こはれいむ種である、一抹の哀れさを感じていた。 後編に続く
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/779.html
『ありすの婚活』 D.O 「おにーさん!ありす、このまりさとけっこんするわ!」 「まりさはありすと、ずっとゆっくりするのぜ!」 今日は日当たりもよく、程よい気温で何とも心地いい。 そんなわけで、庭で縁側に座りボーっとしてたら、 薄汚いありすが、さらに汚らしい野良まりさを連れてやってきた。 何やら結婚報告をしているらしいが、 ありすの頭上の茎には、すでに3匹の赤ゆっくりが実っている。 ・・・できちゃった婚じゃねえか。 「で?」 「だから、まりさもかいゆっくりにしてくれなのぜ!」 「ゆっくりおねがいするわ!」 ・・・・・・。 「なんで?」 「だ、だって、ありすのだーりんなのよ?」 「ま、まりさ、とってもゆっくりしてるのぜ?ありすのだーりんなのぜ?」 「いや、だって・・・ありす。お前、俺ん家の庭に、勝手に住み着いただけだろ。」 ・・・・・・。 「そんなのきいてないのぜぇぇええ!?」 「こ、これは、いなかもののじょうだんよぉ!?おにーさん、へんなこといわないでね!?」 「お前みたいに薄汚くて、おまけにバッジもついてない飼いゆっくりが居てたまるか。」 俺からすれば当たり前の事実に対して、茫然とした表情を2匹は見せていたが、 野良まりさの方が多少早く立ち直り、野良ありすに向かってすごい剣幕で怒鳴りつけ始めた。 「・・・うそついたのぜぇええ!!ありすがかいゆっくりだっていうから、まりさはすっきりーしてやったのぜぇ!? まりさのこの、いたたまれないきもち、いったいどうしてくれるのぜぇえええ!!」 「まりさぁぁあ!これはなにかのまちがいなのぉぉおお!!」 「うるさいのぜっ!!もうありすなんて、はにーでもなんでもないのぜ!! ここでひとりで、ゆっくりしてればいいのぜ!!」 「ま、まって、まりさぁぁああああ!!」 野良まりさは、そのまま踵を返し(?)庭からゆっくりらしからぬスピードで走り去っていった。 なんだかんだ言っても、人間と関わる危険くらいは理解していたのだろう。 「まりさ、まりさぁぁ・・・」 そして、捨てられた方の野良ありすはメソメソ泣いていた。 このままほっといてもウザったいので声をかけてやる。 「お前、これで7度目だろ。いいかげん懲りろ。スルメ食うか?」 「おにーさぁん・・・ばたぴーさんがいいわぁ。」 バタピーを2、3粒食べている内に、ありすも多少は落ち着いてきたようだ。 「むーしゃむーしゃ・・・。ありす、『おとこうん』がないのかしら」 「馬鹿にはクズしか寄ってこねえんだよ。」 「むほぉ・・・」 理解したのかしないのかはわからないが(多分何もわかっていないが)、 食事を終えたありすは、心の隙間を埋めるためなのか、 縁側から投げ出していた俺の脚にすり寄ってくる。 「すーりすーり」 「汚ねぇ、べとべとする!すっきりーしてそのまんまのクセに触りやがって! ・・・洗ってやるからタライに水張っとけ。」 「ゆっくりりかいしたわぁ。」 ありすが足洗い場のタライに水を張ってる間に、 洗面所からゆっくり石鹸を取ってきた。 じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ・・・ 「いつものことだか、そのガキ共どうする気だ。」 「・・・おちびちゃんにつみはないもの。ちゃんとうんで、そだてるわ。」 「馬鹿なクセに?」 「むほぉぉおお!?ありすはばかじゃないわ!とかいはなのよぉぉおお!!」 「・・・・・・(意味変わんねえじゃねえか)」 まあいい。 こいつはゆっくり平均と比べても頭がかわいそうなヤツなので、1と複数の区別しかつかない。 パッと見では子供の種類もわからない今日の夜のうちに、黒帽子の方は間引いておくか。 「ふぅむ。・・・ガキの引き取り先もまた探さんとなぁ。」 せめてもの救いは、ありすのガキ共は揃いもそろって馬鹿な上にレイパー気質も無いくせして、 素直で扱いやすいと、引き取ってもらった同僚達に評判がいいことくらいか。 「ゆぅん・・・ありすは『ふこうなおんな』ね。いつか、『うんめいのであい』がおとづれるのかしら。」 「そんな日は一生来ねえよ。不幸なガキが増えるだけだ。止めとけ。」 「・・・むほぉ。」 ホント、野良にここまでしてやるなんて面倒見のいい人間、珍しいぞ・・・まったく。 餡小話掲載作品 その他(舞台設定のみ共有) ふたば系ゆっくりいじめ 157 ぱちゅりおばさんの事件簿 ふたば系ゆっくりいじめ 305 ゆっくりちるのの生態 ふたば系ゆっくりいじめ 854 ごく普通のゆっくりショップ ふたば系ゆっくりいじめ 873 ゆっくり向けの節分 ふたば系ゆっくりいじめ 924 みんな大好きゆレンタイン ふたば系ゆっくりいじめ 934 暇つぶし ふたば系ゆっくりいじめ 943 軽いイタズラ ふたば系ゆっくりいじめ 1016 お誕生日おめでとう! ふたば系ゆっくりいじめ 1028 ゆっくり工作セット ふたば系ゆっくりいじめ 1148 愛でたいお姉さん 本作品 『町れいむ一家の四季』シリーズ 前日談 ふたば系ゆっくりいじめ 522 とてもゆっくりしたおうち ふたば系ゆっくりいじめ 628 ゆきのなか ふたば系ゆっくりいじめ 753 原点に戻ってみる ふたば系ゆっくりいじめ 762 秋の実り ふたば系ゆっくりいじめ 1104 森から群れが消えた日(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 1105 森から群れが消えた日(後編) ふたば系ゆっくりいじめ 1134 いつもの風景 『町れいむ一家の四季』シリーズ(ストーリー展開順・おまけはそうでもない) 春-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 161 春の恵みさんでゆっくりするよ 春-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 154 竜巻さんでゆっくりしようね 春-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 165 お姉さんのまりさ飼育日記(おまけ) 春-2-3. ふたば系ゆっくりいじめ 178 お姉さんとまりさのはじめてのおつかい(おまけ) 春-2-4. ふたば系ゆっくりいじめ 167 ちぇんの素晴らしきゆん生(おまけ) 春-2-5. ふたば系ゆっくりいじめ 206 町の赤ゆの生きる道(おまけ) 夏-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 137 真夏はゆっくりできるね 夏-1-2. ふたば系ゆっくりいじめ 139 ゆっくりのみるゆめ(おまけ) 夏-1-3. ふたば系ゆっくりいじめ 734 未成ゆん(おまけ) 夏-1-4. ふたば系ゆっくりいじめ 678 飼われいむはおちびちゃんが欲しい(おまけ) 夏-1-5. ふたば系ゆっくりいじめ 174 ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ(おまけ) 夏-1-6. ふたば系ゆっくりいじめ 235 てんこのインモラルスタディ(おまけ) 夏-1-7. ふたば系ゆっくりいじめ 142 ゆうかりんのご奉仕授業(おまけ) 夏-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 146 雨さんはゆっくりしてるね 夏-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 205 末っ子れいむの帰還 秋-1. ふたば系ゆっくりいじめ 186 台風さんでゆっくりしたいよ 秋-2. ふたば系ゆっくりいじめ 271 都会の雨さんもゆっくりしてるね 冬-1. ふたば系ゆっくりいじめ 490 ゆっくりしたハロウィンさん 冬-2. ふたば系ゆっくりいじめ 910 寒い日もゆっくりしようね 『町れいむ一家の四季』シリーズ 後日談 ふたば系ゆっくりいじめ 132 俺の嫁ゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 148 ここはみんなのおうち宣言 ふたば系ゆっくりいじめ 224 レイパーズブレイド前篇(仮) ふたば系ゆっくりいじめ 249 Yの閃光 ふたば系ゆっくりいじめ 333 銘菓湯栗饅頭 ふたば系ゆっくりいじめ 376 飼いゆっくりれいむ ふたば系ゆっくりいじめ 409 町ゆっくりの食料事情 ふたば系ゆっくりいじめ 436 苦悩に満ちたゆん生 ふたば系ゆっくりいじめ 662 野良ゆっくりがやってきた ふたば系ゆっくりいじめ 807 家出まりさの反省 挿絵:嘆きあき